第20話 雑草駆除の方法
遅くなりました!
物語って創るのは本当に大変ですね!
それではお楽しみください。
~翌日~
「ふぁ~あ~……」
チュンチュンという小鳥の鳴き声に起こされた、という訳ではないが今日は早く起きてしまった。
昨日は依頼が終わった後、寄り道せずにそのままギルドへ直行して、初依頼の清算をマリーにしてもらいながら世間話もそこそこに宿へ帰った。
そして成果はなんと通常ではあり得ない6000ノルもあった。
なんでも依頼の評価が最高点であり、ボッグからのボーナスとしてさらに高くなったらしい。
ついでにGランクの依頼の平均額は1500ノルほどなので、俺の成功報酬と比べれば、どれくらい特殊な事例かよく分かる。
その後宿で飯を食ってから、部屋で暇つぶし兼修行として魔力操作をしてから寝た。
「とりあえず、またステータスでも見るか」
まだ完全に働いていない頭で俺はステータスと唱えた。
──────────────────
名前:霞野 優人/ユート・ヘイズ
年齢:17
性別:♂
種族:人族
称号:異世界転移者・読書家・哲学者・一流キノコハンター
Lv:13
HP:385/385
MP:1255/1255
筋力:185
体力:201
耐久:365
敏捷:228
魔力:200
知力:370
スキル
高速思考Lv4
算術Lv5
速読術Lv2
採取Lv2
魔力操作Lv4
気力操作Lv1
火魔法Lv1
水魔法Lv1
氷魔法Lv3
光魔法Lv1
無魔法Lv2 +Lv2up new
神聖魔法Lv2
空間魔法Lv2 +Lv1up
瘴気耐性Lv1
ユニークスキル
鑑定Lv3
言語術
──────────────────
(スキルで上がったのは【無魔法】、【空間魔法】の二つか…。まあ、今回使ったスキルが上がったといったところか。じゃあ鑑定で調べ……そういえば他のスキルも調べてないな。この機会に全部やっておくか)
本当は昨日の木材なんかを運ぶときにすればよかったんだが、ちょっとテンパってたり、忘れていたせいもあって使ってなかったのだ。
だが今回は忘れずに使いますよ! ええ、忘れてないですとも!
そんなことを寝ぼけている脳内で呟きながら、スキル【鑑定】を発動させる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
採取:植物を取ることが出来る。このスキルを持っていると質が良くなり、落ちにくくなる。レベルが上がるほど植物に恵まれるようになる。
魔力操作:内外にある魔力を操作しやすくするスキル。精密な魔力の操作が可能になり、レベルが上がるほど魔力操作能力が上昇する。
気力操作:内外にある気力を操作しやすくするスキル。精密な気力の操作が可能になり、レベルが上がるほど気力操作能力が上昇する。
火魔法:火属性の魔法を使うことが出来る。レベルが上がるほど威力や射程が上昇する。
水魔法:水属性の魔法を使うことが出来る。レベルが上がるほど威力や射程が上昇する。
氷魔法:氷属性の魔法を使うことが出来る。レベルが上がるほど威力や射程が上昇する。
光魔法:光属性の魔法を使うことが出来る。レベルが上がるほど威力や射程が上昇する。
無魔法:無属性の魔法を使うことが出来る。レベルが上がるほど威力や射程が上昇する。
神聖魔法:神聖属性の魔法を使うことが出来る。レベルが上がるほど威力や射程が上昇する。
空間魔法:空間属性の魔法を使うことが出来る。レベルが上がるほど威力や射程が上昇する。
瘴気耐性:瘴気への耐性を得ることが出来る。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あまりいい情報は無いな……。
いや、【鑑定】のスキルレベルが低いからかもしれんな。
そう結論付けた俺は生活魔法の洗浄で体を清潔にし、顔を洗ったり歯ブラシをして準備を整える。
それから前に買った持ち物をバッグごと空間魔法の空間収納にすべて仕舞い、手ぶらの状態にして部屋を出た。
一階に降りていくと人が疎らだが飯を食っていたり、談笑していたりしていた。
「おや? 起きてきたのかい。ユート」
この“旅人の憩い亭”の女将であるアマンダさんが目ざとく俺を見つけてきた。
「ああ、おはよう、アマンダさん。今日はがっつりした食べ物がいいな」
「あいよ! どっか適当なとこに座んな!」
「わかった」
こんな風に客を雑に扱うのは元の世界ではありえないけど、この客との距離感とか開放感が俺にはとても心地いい。
この空間も他の客がうるさ過ぎず、静かすぎない微妙な感覚が徐々に俺の頭を目覚めさせていく。
そんなことを考えていると料理が来た。
「今朝仕入れた、“火喰い鳥と水清鳥のチキン”だよ!
火喰い鳥は火山とかの熱いところに、水清鳥は水辺の、しかも綺麗なところにしかいないっていう魔物たちだ。
両方の肉を豪勢に使った料理だからね。残さず食べるんだよ!」
「もちろん。じゃあ、いただきます!」
熱々のチキンたちを前にして、まず俺は先に火喰い鳥の方から掴んで食べた。火喰い鳥の肉質はパサパサしているかな、と思ったがむしろしっとりとしていて、ジューシーな肉の旨味が溢れてくるかのようだ。肉の旨味に浸っていたが夢中で食べていたらしく、数秒とせず腹の中へ納まってしまったが、俺にはまだ水清鳥がある!
水清鳥の肉を手に持ってみると驚くべき重量だった。手にずしりと重みがくるが、構わず頬張ると口の中が洪水した。そんなことを考えてしまうくらいの肉汁が口いっぱいに広がっていった。この鶏肉の出汁とでも言うべき贅沢な代物は、飲んでも飲んでも中から溢れ出してくるかのようだ。俺は今まで食べたどんなチキンよりも旨いと感じた。
それからは、まだまだ沢山皿の上に残った火喰い鳥と水清鳥のチキン、そして申し訳程度にあるパンを食べるのに夢中になっていった。
──☆──★──☆──
朝から美味い肉を食べてテンションが上がったまま俺はギルドへ来ていた。
中に入ると沢山の冒険者達の喧騒が聞こえてくる。
「今日は森に行って、獣狩りでもするぞー!」
「まったく……これから依頼だっていうのに朝っぱらから酒飲んでんじゃねえよ」
「後衛の人探してまーす! 誰かパーティー組みませんかー!」
「最近、魔物が増えてるらしいぞ。面倒くせえことにならなきゃいいが…」
……最後に何か不吉なことが聞こえたが、とりあえず俺は依頼掲示板を見に行くと、掲示板の周りには多数の冒険者が囲んで競り合うようにしていた。
しかも俺と違ってきちんと武器や防具に身を包んでいるため、コートだけの姿は場違い感が若干あるのは否めない。
だがそんなことで臆する俺ではないので、人だかりをかき分け奥へと進んでいき、適当に依頼書を掴んですぐに抜け出した。
騒がしいので周りから少し離れて手に持った紙をよく見てみると、『雑草駆除』と『店の手伝い』と書かれていた。
どうやら俺は、誤って一枚多く依頼書を取ってしまったのだ。
「……まあ、受けられるだろ」
そうやって自分を納得させてから受付へと並ぶこと数分。順番が来たので二つの依頼を受注できるか聞いてみたところ「低ランクの依頼だから大丈夫よ!」とジャネットにお墨付きをもらった。
その時にこの『雑草駆除』の依頼は何人も失敗しているらしいとの情報も貰った。
どうやら一筋縄ではいかないようだ。
そんなことがあったが、とりあえず最初は『雑草駆除』の依頼主のところへ向かった。
のんびり道を歩いていると目的地には大きな家というより、屋敷が見えてきた。
外は実用重視な塀で囲まれ中が見えないようになっており、扉は頑丈そうな金属製で造られていた。
どうやって中に知らせるか周りを見渡しながら考えていると、インターホンのようなものが塀にくっついているのに気付いた。
不思議半分面白半分に押してみると、ピーンポーンという音がした。
そのまんまかよっ! と俺の心が叫びかけたが何とか耐えながら待っていると、玄関から執事らしき服を着た男性が出てきた。
「初めまして。私はこの屋敷の執事であるアルヴァンと申します。本日は何の御用でございますか?」
俺は本物の執事を見て少しの感動を覚えながら、今日来た理由を話した。
「はい、今日は冒険者ギルドの依頼に参ったんですけど……」
「なるほど……あの依頼を受けてくださった方でしたか。さあ、お入りくださいませお客様」
まだまだランクが低いギルドカードと一緒に依頼書も見せると、アルヴァンと名乗った執事さんは納得と一瞬沈んだ顔を浮かべ、扉を開けて中まで入れてくれる。
「それじゃあ失礼します。それと遅くなりましたが俺の名前はユートです」
「ユート様ですか。ご丁寧にありがとうございます。こちらへどうぞ」
そう言って案内されたのは屋敷の中ではなく、そのまま裏庭の方だった。
そこには少しの花と沢山の雑草が生えていた。
正確には、赤や黄色、紫などの色とりどりの花を中心に、周りが雑草に囲まれているという奇妙な風景だ。
その光景はどこかちぐはぐな印象を受ける。
「えーっと、ここにある雑草全部刈ればいいんですか?」
「はい。花も含めて、いえ、むしろ一つ残らずお願いします。繁殖力が以上に速いので」
「なるほど? それとあの中央に咲いている花は何か大事なものですか?」
「――そうですね。あれは旦那様に贈り物として届けられたものですが、この際仕方がありません。雑草の駆除を優先してもらって構いません」
「分かりました。最後に終わった場合はどうすればいいですか?」
「私はこの屋敷の中におりますので、玄関を入って右側の警備員たちに連絡してください。ではお願いします」
執事さんは一礼すると淀みない歩きで屋敷へ戻っていった。
というか素性も分からない奴を放って置いていいのかなと思ったが、ギルド員であるということがそれだけ大きい意味を持つのかもしれないと、すぐに思い当たった。
「……それじゃあ今からやるとしますか!」
とは言ってみたものの、するべきことはそこまで多くはない。
「とりあえず【鑑定】!」
すると近くに生えている草の情報が表示される。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ベルア草:炎に強い耐性を持つ魔草。繁殖力と再生力が高く、核となる部分を潰さない限りいつまでも地中の養分を糧に生え続ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どうやら植物のくせに火に強い耐性を持つようだ。しかも繁殖力が強いとか……家では育てづらいだろうな。
だが一番厄介なのは、再生力だろう。
推測だが中途半端に刈って根が残っていたら凄まじいスピードで生えてくるのかもしれない。
普通ならあり得ないだろうが、元の世界の常識は当てはまらないと考えた方が良いだろう。
その実験として近くにあった腰ほどの高さの草を千切ってみると、千切った草からにょきにょき再生してきた。
まるで高速再生の映像を見ているようで自分の目を疑った。
だがこれで、生半可なものでは意味がないことが分かった。
元々の予定では、風魔法を使い地面から出ている草を全て切るはずだったんだが、予定の修正をしなければならないようだ。
なので俺は手っ取り早く魔法を使い、片付けることにした。
魔法に詠唱が必要無いのはもう分っている。
それは俺自身が体験したことだから。でも詠唱することによって魔法の安定性と精度を高めることが出来る。
今から使うのは火の魔法だ。
威力が弱すぎても再生され、強すぎても周りに被害が出てしまう。
そのため、丁度良い塩梅の威力を出さなければならないのだ。
俺は息を整えて魔法を発動させる準備をする。
「ふう……【円烈火】!」
その瞬間、色とりどりな花を中心に円状となって燃やしていくが、炎に強い耐性を持つというだけあってすぐには燃えず、しばらくの間炎の中で泳いでいた。
そのため完全に燃えたわけではなく、いくらか残ってしまったようで既に再生を始めている。
仕方なくどんな風に戻るのか見ていると、どうやらあの色とりどりの花から治しているようだった。
「やっぱり、あの花が怪しいな……」
一番最初に目に付いたのがあの花だけあって、しかも贈られてきたとか言っていたから半信半疑だったが、あれが弱点なのかもしれない。
“核となる部分”と書いてあるように、根なのか花なのかどちらにしろ何かカラクリがあるのは間違いないだろう。
そう結論付けてから、もう一度挑むことにする。
俺が火魔法を選択するのは訳がある。
核となるものがどんなものなのかはよく分からないが、他の水や氷、風魔法のように点や線の攻撃は効果が低いと考えたのだ。
無論、氷で全てを凍らせたり、風で切り裂いても良かったが根の方までは届かないだろう、と。
なので「全部燃やせばいいんじゃね?」という乱暴だがシンプルな思考に辿り着いた。
だが、闇雲にやっても意味が無いのならば、あの花だけを完璧に燃やし尽くすまで。
右手の平を胸の前まで上げて、炎を創り出す。
その光景を見て、魔法が使えることにいま一度感慨深く思いながら、気持ちを切り替えて手の平に意識を集中させる。
イメージするのはただの炎じゃない。炎を収束し圧縮して、一撃の威力を高めた非情なまでの破壊の力だ。
腕にも力を籠め、炎を維持しながら周りの空気を取り込むように螺旋を描いて、小さい球体へと圧縮していく。
その完成されたモノはさながら、紅く煌く“ルベライト”のようだ。
「炎よ……燃やし尽くせ」
その言葉を合図に紅き宝玉を色鮮やかな花目掛けて撃つ。それが一直線に飛んでいき花へ当たった次の瞬間、ゴウッ!という音を響かせ、花を中心に近くに生えていたベルア草諸共燃やされていく。
この魔法は何らかの物体に当たった瞬間、圧縮された炎が直径5メートルの範囲を巻き込んで文字通り焼失させる。
その火力は放った本人でも想定外であったため少し冷汗を掻いたが、いつまでも燃えている訳が無く自然とかき消えていった。
炎に燃やされた所は灰が積り、地面は少し削れて熱を宿しながら、黒くプスプスと音を立てて焦げていた。
その様子を少し見ていたがもう再生はしないようだ。
「名前は――――そうだな、【紅玉焔輝】とでも名づけよう。それに原因は潰れたし、とりあえず本来の雑草狩りでもするか……」
魔力を結構使ったため体に気怠さを感じながらも、片っ端から魔法で片付けていくのだった。
──☆──★──☆──
ベルア草という面倒くさい植物の始末を終えた俺は、あの執事さんに報告するため屋敷の前に立っていた。
「え~っと、失礼しま~す」
控えめにノックして、そーっと中に入る。
別に不法侵入するわけではなく、依頼の完遂を告げるだけなのだからそんなに静かに入る必要は無いのだが、何となくそうしなければならないような気がした。
そんなことを何とはなしに考えながら、執事さんに言われた玄関を入って右の窓口みたいなところへ歩いていく。
「すいません。依頼を受けた者ですけど」
「はい。貴方が今回依頼を受けてくださった方ですね。事情はアルヴァンさんから伺っていますので少々お待ちください」
少しの間待っていると、音を立てずこちらに駆け寄ってくる人物がいた。執事のアルヴァンさんだ。
「――お待たせしました。どうぞ、こちらにいらして下さい」
そう言って連れられてきたのは、応接室のような場所だった。
中に入って席を勧められるままに大人しく座っていると、いい香りがする紅茶を淹れてくれた。
お礼を言って紅茶を飲むと、味の苦みや渋みが抑えられておりとても美味しかった。
「まず最初に、今回は本当にありがとうございました」
「いえ、依頼でしたので。それにいい経験になりました」
「そう言っていただけると助かります。あの奇妙な植物は私共でも何とかしようとしたのですが、魔法でも手の打ちようがなく……。そのため冒険者の方に依頼しても失敗する方ばかりで、その内誰も受けてくださらなくなってしまったんですよ」
アンヴァンさんは疲れた顔をして、そう愚痴をこぼす。
まあ何度も再生した挙句、終わりが見えないっていうのは思ったよりも精神にくるからな。
しかも俺とは違い、鑑定のように情報が目に見えてはいなかったのなら尚更だろう。
「……すみません。このようなことを聞かされても迷惑でしたよね」
「いえいえ、とんでもない。俺には全て分かるとは言い切れませんが、それでもあの植物を相手にするのが大変だって事は理解できますから」
「……ありがとうございます。それでは依頼は完了しましたので、依頼書をご確認ください」
しんみりとした雰囲気を一新するために、話題を依頼の方へと変える。渡された依頼書を流し読みしてから、俺は少し気になったことを聞いてみる。
「あの植物については何か知っていたのですか?」
「……残念ながら、魔草であることしか分かりませんでした。知り合いの鑑定士や植物に詳しい人に調べてもらったんですが、こんなに再生能力が高い植物は見たことが無いと言われまして……」
「なるほど……。ちなみになんですが、魔草や鑑定士というのはどういったものなんですか?」
アルヴァンさんは紅茶で喉の渇きを潤し、息を整えるようにしてから流暢に話し始める。
「魔草というのは魔力が多く含まれている植物のことです。ですがこの世界に現存する物、ほぼ全てに微量ながら魔力は含まれています。なので正確には『魔力を大量に内包し、薬の素材となるもの』が現在の魔草の意味ですね。
それから鑑定士というには【分析】というスキルを持ち、国に認められた者の総称です。
よく勘違いされるのですが、【鑑定】というユニークスキルを持つ者のことでは無いですよ。
そういう人達は上級鑑定士として、様々な場面で重宝されていますので。
それに【分析】というスキルは生物には効かないのです」
「それってつまり、死んでいるモノ、または無生物だけなんですか?」
「はい、それだけでなく採取したものも含まれますが」
――ということは俺の持っている【鑑定】は【分析】スキルの上位互換なのかな。生物の範囲がどれくらいかは分からないが木や茸なんかも一度鑑定してるし、もしかしたら人間も……と考えてから思考を打ち切った。
「なるほど、よく分かりました。丁寧にありがとうございます」
「いえこちらこそ、ユート様のおかげで頭痛の種が一つ取れました」
「では自分はこれで」
カップに残った紅茶を飲み干して、椅子から立ち上がるとアルヴァンさんも一緒に立ち上がって、
「お送りします」
と至極当然のように言った。
それから無言で屋敷を歩きながら玄関まで見送ってくれた。
最後は簡単に挨拶をして、深いお辞儀をされながら見送られるのだった。
現在の残高
134700+6000=140700ノル




