第21話 魔法薬学
私の拙作を読んでいただきありがとうございます。
それではお楽しみください!
雑草駆除を終えてからそのまま歩いて、もう一つの依頼場所まで向かった。
場所はというと結構端の所にあった。幸い依頼書には簡易地図が載っていたため道に迷わずに済んだが、初見で行くには通り過ぎていたかもしれない。
そんな少し変わった場所だが店は普通の商店が使うような大きさだ。
具体的に言うなら、多様な本を売っているこじんまりとした本屋さんくらいの大きさだ。
そんなふうに客観的に考察していたが、いつまでも眺めている訳にはいかないので店へと入る。
この店は薬品や魔法関係の物を売っているらしい。
何で分かるのかと言うと、棚に丁寧に並べられているのは乾燥させた植物の根だったり、魔法について書かれている本や杖があったからだ。
いわゆる魔法使い専門店という奴だろうか。
色々と興味深いところだが、一応依頼として来ている身なので奥にいるだろう店の人を呼ぶ。
「すみませ~ん!」
というか人がいることを前提に誰もいないカウンターに呼び掛けるというのは何とも不思議な感じがする。
なんていうか、この町はどこの店でもそうなんだが警戒心が薄いというか、流石に誰もカウンターに立たないというのは盗まれる危険性があるんじゃないだろうか。
もしかしたら、店自体に防犯の様な物がしっかりしているのかもしれないが、全ての店にあるとは到底思えないし……。
と、そんな心配をするくらいこの町の人はカウンターにいつも立っていない。
閉まっているのかと勘違いしてしまうだろうが! 日本人はシャイな民族なんだぞ!
と声を高らかにして言ってやりたい。言わないが。
閑話休題
奥に向かって呼んでから、少し待っていると一人の女性がゆっくり出てきた。
目に隈が出ており、体全体から暗いオーラを発している。
なんだかもう既に疲れているようで色々大変そうだな、と他人事のように思った。
「はぁ~……。ゴホン、いらっしゃいませ! 本日はいかがしましたか?」
客を前にすると空元気なのか、テンションを上げて明るい空気を醸し出してきた。
「えっと、依頼で受けて来たんですけど?」
「――そう、やっと来てくれたのね……」
一拍置くとその女性は心の底からの叫びなのか、重い言葉を吐き出すと突然倒れてきた。
「おいおい……」
いきなり倒れてきた女性を間一髪で支えることが出来たが、どうやら今までその場しのぎでどうにかしていたらしく、とうとう体が持たなくなって倒れてしまったようだ。
幸い、ただの睡眠不足で深い眠りに落ちているだけのようで、病気や怪我もないようだ。
とりあえず俺は看病するためという名目で、仕方なく奥の部屋まで勝手に入らせてもらうことにした。
──☆──★──☆──
柔らかい感触に包まれているのを感じて私は目を覚ました。
(………あれ?と言うか、いつの間に眠ってしまったんだろう)
周りを見渡すと、どうやら私は自分の部屋で眠っていたようだ。
でもそれなのに寝た記憶もなければ、部屋に入った記憶もない。
どうしてなのか不思議に思いながらも、起きるためにベットから出る。
そういえば、眠ってしまってからどれくらいの時間が経ったんだろう。
残念ながら、私の部屋に時間を計るようなものは存在しない。
すると今気付いたが、いつの間にか身に付けていた作業着用エプロンがポールハンガーへ掛けられていた。
それを掴み素早く付けて部屋を出ると、下で何やら騒がしい。
気になって下へ降りていくと見知らぬ男の人とおばあちゃんが大きな釜の前で一緒に作業をしていた。
「おばあちゃん!」
私が後ろから声をかけると、おばあちゃんは手元の作業を止めてゆっくりと振り返ってくる。
「おや、起きてきたのかい。もう少し寝ててもいいんじゃよ」
「ううん。もう時間が無いんだから、そんなことしてられないよ! それに私よりもおばあちゃんの方が寝てなくちゃいけないじゃない!」
「あたしゃ大丈夫だよ。もう元気になったからね」
「はぁ……。どうなっても知らないからね! それでこの人は誰なの?」
ずっと私たちが喋っている間も空気のように黙々と釜を回し続けていたけど、結構気になっていたんだけど。
「うん? こやつがおぬしを部屋まで運んでくれた張本人じゃよ。覚えてないのかい? ――おぬしはいつまで回し続けているんじゃ。もう十分じゃよ!」
おばあちゃんが男の人に注意を向けたため、話が流れてしまった。
まだ色々と聞きたいことがあったのに……。
──☆──★──☆──
俺は倒れてきた女性を看病するためという理由で、勝手に家の中に上がり、中を歩いていると色々なものが目に入ってきた。
商売道具であろう人がすっぽり入る程の大きさの釜や薬研などの器具らしきもの、他にも素材として使われているだろう見たこともない植物等々様々なものがあった。
だが、休めるところが見つけられなかった為、二階へと上がっていく。
すると目の前に、
見知らぬ婆さん が あらわれた!
いや、モンスターではない。
普通の婆さんがいた。
両者ともに驚きで固まって数秒の間が開いてから、婆さんが何とか口を開いて話しかけてきた。
「おぬし……何をしておるんじゃ? ――いや、そうか」
婆さん(推定、背負っている女性の親族)が怪訝な顔になったと思ったら、突然うんうんと訳知り顔になり頷いて、
「ふむ、ついてくるのじゃ」
と言い放ち無警戒で背中を見せながら歩きだした。
面倒くさくなるので変な風に疑われずに済んでよかったが、どうして俺を信じた(?)のか不思議でならない。
普通だったら逃げるとか、大声を出すとか、誰何するなど色々ありそうなものだが。
まあとりあえず俺はこの婆さんの後に黙ってついて行くと、「レイラ」とこの世界の文字で書かれたプレートが扉に貼ってあった。
「さあ、入るのじゃ」
促されたので粛々と部屋に入ると、そこは綺麗に整頓された棚や可愛らしい小物なんかが丁寧に置かれていた。
黙って言われたとおりに従ったが、どうすればいいのか分からなかったので後ろを振り向き訪ねた。
「なあ婆さん。俺はどうすればいいんだ?」
「その娘をベッドに寝かせるのじゃ。 ――ちゃんとエプロンも外すんじゃぞ」
「ったく、何で俺がこんな事しなきゃいけないんだ……そもそも依頼をしに来たんだぞ」
注文が多い婆さんにブツブツ文句を言いながらも言われたことは熟していく。
少し素が出てしまっているが気にしない。
「――はい、終わったぞ婆さん。ところで、何で俺はこんなことをさせられたんだ?」
「そこにいたからじゃ」
「……」
「“そこに山があるから”みたいに言うんじゃねえよ」と突っ込んでやりたい。
そんな俺の思いが伝わったのか、婆さんが答える。
「冗談じゃよ。逆に聞くがおぬしはどのような理由で来たんじゃ」
「はあ……俺はギルドの依頼で来たんだ。それから――――」
俺は倒れた女性を運ぼうとしたことを簡潔に話した。
「――――という訳だ」
「なるほどのう。それにしてもこの娘はそこまで根を詰めておったのか……」
「どうしてなんだ?」
なんとなく気になったので聞いてみる。
「ポーションの納品依頼が来ているんじゃよ、この町の領主から。そのせいでこの娘は無理してしまったのじゃな。しかも予備のポーションがもう無いようじゃからのう」
「……なるほど」
つまりこの町の領主からきた依頼を成功させようとして、何とか無理して頑張ったが納品数には届かず、先に体が音を上げてしまったということだろう。
これは難しい話だ。簡単に止められる話では無い、かといって体が倒れてまでやるのもどうかと思う。
そんなことを考えていると、婆さんが何やらニヤニヤしてこちらを見てくる。
嫌な予感が……。
「ふむ、どうしたものかのう。このまま止める訳にはいかないし、されど今のままさせる訳にもいかない。はて、誰か手伝ってくれる若者はおらんかのう?」
黙って聞いていたがこの婆さん、俺を使うつもりでいやがる! さてはニヤニヤ笑っていたのはこのことだな!
顔が引きつるのをどうにか抑えながら、平静を装う。
「という訳でおぬし、手伝ってはくれぬか? 冒険者じゃろう?」
「……俺は確かに冒険者だが、冒険者っていうのは別に慈善事業じゃないだろ」
「そんなこと言っていいのかのう?」
「……どういう意味だ?」
「おぬしは依頼でここに来たのじゃろう。つまり依頼が達成できなくては困るのではないかの?」
このくそババ――おっと、婆さんめ。こっちが断れないの知ってて切り出してきやがったな!
確かに依頼書には期限が書いてなかった。
つまり、一時間で終わるかもしれないし、一日以上かかるかもしれないということだ。
本当は途中から「もしかしたらこれ、ハズレ依頼なんじゃ……」と気付いていたが、知らないフリをしていたに過ぎない。
だってこれが本当だったら、依頼としては最悪の部類に入るだろう可能性が高かったからだ。
何故ギルド側はその事を教えてくれなかったのだろうか。
いや、成功率が低いという文言がそれを示唆していたのかもしれない。
もしくはこれもいい経験として、ただ宛がわれただけだったりしてな。
……はあ、まあ仕方ないから今回は諦めるか。
「チッ!(小声) 分かった。それで俺はどうすればいいんだ?」
「ほっほっほ、それはよかった。ではいつまでもここにいる訳にいかないし、下に行くかのう」
そう言って婆さんとは思えないほど軽い足取りで颯爽と部屋を出て行った。
「はあ、俺もついて行くか……」
この後のことを考えると足取りが少し重く感じる。
そんな気分を感じつつも俺は今日で何度目かのため息を吐きながら、ぐっすりと眠っている女性の横を通り抜けて部屋を出て行くのだった。
一階に降りていくと、婆さんが何やら準備している。
「やっと来たか。……ふむ、そう言えばおぬし、名は何と言ったかのう?」
「……ユートだ」
「そうか、ユートか。それではユートよ、これからおぬしには魔法薬学の基礎を教えよう」
得意げに語りだした婆さんの言葉を要約すると、「『魔法薬学』とは魔法薬とその材料、およびそれらの特性や性質について学び探究する学問」とのことだ。
つまり、もっと簡潔に説明すると、「ポーションと薬草、そしてどうしたら新しい薬が出来るのか試行錯誤する学問」という訳だ。
元の世界で言うところの薬学と医学に魔法を掛け合わせた複合学問と言ったところだろうか。
そう滔々と教えてくれた婆さんは次に進むぞと言い出し、押し入れからガサガサと何かを探し始めた。
「――っと、これじゃこれ。ほれ、お前さん」
そう言って渡してきたのは少しばかり古ぼけた印象を与える、見た目は何の変哲もない普通の釜だった。
なにこれ? と疑問が先に出てしまったが、そもそも【鑑定】を使えば良かったのだ。
という訳で早速使ってみると、こんな結果が出た。
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魔法の釜:大きさを変えることが出来る魔道具の釜。魔力によって最大で直径2メートルに、最低でも直径20センチまでの大きさに縮小できる。
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……結構すごい物だったようだ。
だが、これでどうしろと言うのだろうか。そう思ったらまた婆さんが話し始めた。
「これは魔法の釜という奴でのう。調薬だけじゃなく料理にも使える優れモノなのじゃ。昔はこれを使って道中で料理やら調薬やらをしていたものじゃ。おぬしにもこれを使い、ポーションを作ってもらう」
「……それは構わないが、俺はポーションの材料もましてや作製法すら知らないぞ」
「なに、それはわしが一から教えてやろう。これからみっちり、とな」
「はぁー……分かったよ。どうせ俺に拒否権は無いんだから、どうにでもしてくれ」
「ほっほっほ、いい覚悟じゃ。それではおぬしには一週間、ここで修行してもらおうかのう」
「えっ、一週間!? おいおい冗談だろう! 何でそんなに掛かるんだよ」
さすがに俺も驚いた。
一日でどうこう出来るとは思っていなかったが、そんな時間が掛かってちゃ流石にやってられない。
「ふむ、とは言うが一つの分野を“極める”レベルにするにはこの程度の時間など砂粒のようなものじゃ」
えーこの婆さん何言ってんの?
いつから極めるレベルの修行になったんだよ。
そもそもポーション作れば終わりじゃないのかよ……。
俺がこんなことを考えているとも知らずに、婆さんはまだ話し続ける。
「いや、別に極めようとは思ってないし、簡単に極められるとも思ってないんだけど……」
「だが、魔法薬学は汎用性が高く、便利じゃぞ。おぬしがこれから旅に出るのなら持っておいて損は無い技術じゃな」
むむ、婆さんめ……よくもまあ、この短い時間で俺が動きそうな提案をしてくるな。
こう都合よく誘導させて乗せられるのは嫌いだが、役に立つ技術なら仕方がない。
これを機に婆さんの技術を盗んで、いつか鼻を明かしてやる!
俺はそう、心に誓うのであった。
だからこそ、俺は婆さんに向かって宣言した。
「いつか絶対、あんたを抜かして、俺に技術を教えたことを後悔させてやるからな」
「ほっほっほ、それは楽しみにしておこうかの」
その時の婆さんはそれはそれは楽しそうに笑っていた。




