表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

ラスト: 糖度不足の解消後

 暖冬だって言ったの誰?!

 さ~む~い~!

 冷たいって言ったほうがいいかもしれないわ。耳が痛いもん冷たくて。

 初詣デート! ってオシャレしたのに……う~、パンツにすれば良かったかもしれない、ミニスカートはきついです。ラメ入りのパンストは穿いてるけどね。

 わっ! あそこにいる子生足じゃん! ううう、頑張る、オシャレ頑張る!

 

 ただ今、寒風吹き荒れる中、私と先輩はとある神社に初詣中です。

 学問の神様を祀っているんだって先輩が言ってた。

 ん~、正月そうそうお勉強ですか……まあ、私の妹の合格祈願兼ねてなんだろうけどね。私達も学生だし、先輩こういう所も真面目よね。

 

 出店が並んでいて美味しそうな匂いに、ちょっとお腹が空いてきちゃった。

 鳥居をくぐってお宮までの参道を先輩から逸れない様に、私はしっかり横にくっ付いて歩いています。

 先輩は黒いダウンジャケットにジーパンにスニーカーっていう普段着だけど、髪はカットしたみたい。襟足すっきりしてる。

 顔には見慣れた銀縁メガネ。そういえば新しいの欲しいって言ってたな。視力下がって度が合わなくなったのかな?

「そういえば先輩って視力どれくらいなんですか?」

 私は人混みに埋もれながら右側に立つ先輩に聞いた。

「裸眼で私、見えます?」

「乱視きついからな……近くなら見えるけど」

「へ~」

 なんて他愛もない話をしながら数分歩いて、ご縁がありますように、とお賽銭は5円にして、あれ? 手って1回? 2回? 何回叩くんだっけ?

 周りを見たら1回の人も2回の人も何か唱えてる(お経?)人とかもいて、先輩を見たら2回叩いていたから私もそれに習って――。

 お参り終了!

 後はおみくじは、やっぱ引かなきゃね! って、あっ。

「先輩――」

 あって思っている内にお参りをし終えた人の波に揉まれて先輩と離れてしまった……。

 お参りし終えた方はこちらに進んで下さいって看板立ててよ~!  左右に流れるから離されちゃったじゃないっ!

 先輩も目をまん丸にしていたから、かなり吃驚したと思う。そりゃ、隣に居た彼女が急に人混みに流されたらびびるよね。

 はうっ。どうしよう? あ、迷子放送! う……17にもなってそれは嫌だ。

 携帯、携帯っと。

「あ、先輩」

 私が電話をしようと携帯をカバンから出した所で先輩が、本宮の裏側を通ってきたのか走って傍にやってきた。そして開口一番。

「子供かよ。逸れるな」

 うっ……今のは不可抗力だよね?

 私はちょっと拗ね気味に言い返したの。

「逸れようとしたわけじゃないもん……」

「はいはい。ほら、おみくじ引くんだろ?」

「…………」

「ん? 出店先に回るか?」

 そう言って首を傾げた先輩に、私は頭をぶんぶん横に振って答える。

 口を引き結んでしまった私の内心など先輩に分かる訳もなく。

 先輩は「ふん?」と、意味が飲み込めない表情をしながら、私の右手を握ったまま歩き出した。

 ぐっは~! なんというか、その、先輩結構やっぱり、手、大きいなぁ。というか、新年早々なんていい日なの?!

 私は思わずにまぁ~っと笑ってしまいました。

 だってね? 手を繋いでデートなんて、すっごく嬉しくて……どきどきしたから。

 まぁ、おみくじ売ってる所まで来たら、あっさり離されたけどね。くっ!

 

 え? 何引いたって? 末吉でした。

 良くもなく、悪くもなく。これ位でちょうど良いよね? 何より恋愛の項目に書かれていたこと良かったし。うん。これ重要!

 ちなみに先輩は小吉でした。何が書いていたのかは教えてくれなかったんだけどね。

 2人でくじを結んだ後は出店タイムです!

 屋台の食べ物ってなんでこんなに美味しそうなのかな?

 あれ? あっちにも列できてる。巫女さんもいるし、なんだろう?

「先輩。あっちにもなんかありますよ?」

 私はくいっと先輩の袖を引いて声をかけた。先輩は私の視線を追って。

「ああ、お神酒配ってんだろ?」

「おみき? 貰います?」

「あれって日本酒だろ? 未成年なんだから貰えないだろ」

 なぁんだ、アルコールか。ウチって両親共に飲めないから、ああいうの貰ったことないんだよね。

 私が残念そうな顔をしたからか、先輩が苦笑しながら言ってきた。

「後で甘酒買ってやるよ」

「はい。寒かったから嬉しい」

 やったー。温まるから甘酒は好きなのよね。

 お正月とかひな祭りくらいにしか飲まないんだけど。しょっちゅう飲むものじゃないから余計に美味しいのかな?

「香織? ぼーっとしてたらまた逸れるぞ?」

「あ、はい」

 と、思わず私は先輩の手を握ってしまって、う、いいよね?

 内心またどきどきしていたんだけど、先輩は気にしたふうもなく私の手を握り返して、出店が並んでいる方へと歩き出した。

 ちょっと拍子抜け。

 まあね? お互いが照れていたら手なんか繋げないんだけど!

 男の人って平気なのかな? それとも迷子になられるよりはって感じなのかな?

 

 ねぇ? 河東耕一さん。貴方に聞いてもいいですか?

 

 私と手を繋いで、私の様にどきどきしてくれていますか?

 

 なんてね!


***


 私たちは広島焼きと甘酒を持って、いいタイミングで空いた焚き木近くのベンチに陣取って昼食タイムです。

 甘酒の生姜が美味しいの。広島焼きも意外と具が多くて美味しくっていい感じ。

 

「あ、そうだ。あのね先輩」

「ん?」

「受験。大学ね。私学でも受けていいって」

 2学期の終業式の晩。通知表を両親に見せながら大学受験の話を切り出したのよ。

 妹の高校受験もあるしね。子供なりに気を使って心配してたんだけどね。

 受けたい所がある、通いたいって伝えたら『がんばりなさい』って……。

 子供が心配するんじゃないみたくお父さんは言ってたけど、私、知ってるんだ。お母さんが春からパートの時間増やすこと。

 こ・れ・は! 浪人なんかできない! 本気で頑張んないとね!


「そうか。じゃ、勉強頑張んないとな?」

「はい」


  まだ2年生。でも、受験まで後約1年。人生最初の正念場って感じがしてきたわ。

 気負い過ぎないようにしないとなぁ。


「勉強も、息抜きも、付きやってやるから」

 先輩はぽつりと言って甘酒を飲んだ。

「はい……!」

 私は、その言葉がすごく嬉しかった。

 笑って返事した私に、先輩も笑ってくれた。


 小さくて些細な事でも、積み重なることが幸せなのよ! と言っちゃったりして!


「良かった」

 そう言った私に先輩が「そうだな。良かったな、受験できて」と答えてきたから、私はきょとんと瞬きして。

「その事もですけど……」言っちゃう?「好きな人が先輩で良かったなって」

 言った! 言ったよ! 私、勇気? いや、勇者香織?

 と、浮き立ちながら、先輩に視線を移す時は、やっぱりちょっと恐々というか……うん。どんな反応返ってくるのかは怖いかも。

 す、スルーされたらどうしよう……。

 今更、かな? 私が先輩の事好きなのって当たり前だもんね。

 じっと先輩を見上げていたら、困った顔をされて、はい、しゅんと肩が落ちてしまいました。

 彼女に好きって言われて困惑顔って、それってありですか?

 私は冷えてしまった甘酒を一口飲んで、広島焼きの残りを食べ始める。

 そしたら。

「……人前で言われると反応に困る」

 って、先輩が呟いて、私と同じようにご飯を再開させた。

 私はそんな先輩を見て。

 嬉しくって笑ってしまった。


 ドラマみたいな甘い恋じゃなくったっていいよね?


 これから先にエネルギー残しておかなきゃいけないもん。


 寂しいって、悲しくなっちゃった時には、あの夜みたいに会いに来てくれるよね?


 それでも糖度が不足した時には。


「先輩は?」

「あ?」

「良かったって思ってますか?」


 その時には言って欲しいの。


「先輩?―――こ、耕一さん?」

 私はじーっと耕一さんを見つめ続けて、しばらくしてから、周りをちょっと気にして、人が傍にいない事を確認してから、耕一さんはぶっきら棒に答えてくれたの。

 でも、ね?耳が赤いのは寒いからですか?


 聞きたいの。


「……好きで良かった」



 最高の糖度不足の解消法!



end


初出 2009.07~2010.1

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ