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ACT:04 学祭ランデブー

 やってきました学園祭! もちろん先輩が通っている大学のね。

 同じ放送部の絵里と後藤君と学校で待ち合わせて、電車を乗り換えること計2回。1時間半近く掛けて来たわけだけど、近い、といえば近いのかな?

 住宅地って感じの街中にあるからか、学祭を見に来ている近所の人たちも多いみたい。

 先週あった私たちが通う淀山高校の学祭、というか文化祭だね、より断然お客さんが多い。

 まあ、それもそうよね。うちの高校の学園祭って部外者ほとんど出入りできないもんね。招待券を持ってる親兄弟か卒業生ぐらいしか入れないの。危機管理ってやつ? 勝手にほいほい見学には来れないの。お客さんは多いほうがやる気出るのにね。

 大学、という所には実は私初めて来たんだけど、んーやっぱ高校より広いね。研究棟とか別れていて授業の移動だけでも大変そう。

 あ、ちなみに先輩こと河東耕一さんは経済学部1回生です。


「1時から気球上がるって!」

 パンフレットを見ながらそう言ったのは絵里。サイドにアップした髪がなんだか大人っぽい感じがする。

 単純に考えて大学生の半分が成人してるんだから、お子様お子様した格好はちょっと抵抗があるから普段と違う髪形にしてるんだと思う。

 ティアードのワンピースにジーンズに踵の低いパンプス姿の絵里は大学に溶け込んでいる気もするし、やっぱり浮いてる気もする。

 まあ、それは私もだと思うんだけどね。

「でもこれ整理券もう配り終わってるよ? ほらここ10時から先着10組って書いてるし?」

 と、私は気球の写真の下の小さな記事を指差した。

 絵里は不満そうな声を出して、並んで歩いている後藤君をきっと睨んだ。

「後藤先輩が待ち合わせに遅れてくるからじゃん」

 拗ねた様に語尾を上げて言う絵里に、今朝寝坊して遅刻してきた後藤君は肩を落とした。

「悪かったって言ってんだろうが、フランクフルト奢ってやるからって」

「と・う・ぜ・ん」

 と返すのは絵里。まあ、遅刻のお詫び品には私ももちろん便乗しちゃうけどね。

 そんなことより学食何処だろ? 先輩との待ち合わせは学食前なの。

 私たちは構内案内を見ながら先輩の待つ食堂に向かった。


******


 研究棟と中庭を挟んで学食と売店、生協があるみたい。お昼過ぎって事もあって結構人が居た。

 自動販売機が並んでいる所に、私の恋人、河東耕一さんを見つけて小走りしそうになったけど、絵里たちが居るのでぐっと我慢!

 うー顔見たらふにゃってなっちゃう。

 『寂しい』なんて勝手なメールに速攻で会いに来てくれた人。

 ラブだよね!? 甘いよね!? ふにゃってなってもいいよね!? 落ち着け私!

 はい、深呼吸。よし!

「お待たせ、先輩」

 私は明るく言って先輩の前まで行く。それに彼は顔を顰めて。

「何ニタ付いてんだ?」

 と、そう嫌そうに言われた。それに続いたのは絵里。

「部室でもよくこんな顔してるわよー。先輩おっひさー」

 言って軽く手を上げて先輩に挨拶する絵里を、私は軽く睨んだ。

 というか、先輩。他に言いようは無かったんですか?

 呆れた顔をした先輩に、私は抗議も出来ずに笑って誤魔化した。


 お昼ごはんは学食で、ではなくもちろん立ち並んでいる出店で買った。定番の焼きそばと後藤君に奢ってもらったフランクフルト。

 後藤君は校風なんかを先輩にいろいろ聞いてた。受験の話しだし、邪魔出来ないもんね。私は絵里と先輩たちからはぐれない程度に辺りを見て回った。

 んーやっぱ、高校とは大分違うなぁ。女子大生大人っぽいな。

 ぼんやと眺めていたら絵里が私の肩を叩いた。

「香織、そろそろ体育館行った方が良くない? お笑いライブ2時からでしょ?」

 現在1時30分。ほんとだ、そろそろ移動しないとね。

 私たちは話し込んでいる先輩ズの元に戻って、連れ立って体育館に向かった。

 っていうか、大学にも体育の授業あるんだ。うっわ、勘弁して。


 ライブの前座は落語研究会の人たちだった。落語ってちゃんと見たこと無かったけど結構面白いのね。時事ネタも取り入れてて、ふうんって感じ。

 目に痛いほどのパッションピンクの着物を着た落研の男の人が、舞台から去り際に私たちに手を振った様に見えた。先輩の知り合いかな?

 その後は漫才とコントで、ひとしきり笑った。

 私たちの席順は絵里、私、先輩、後藤君。何だけど、先輩とばっか話すのは気が引けるしね、とかって思いは先輩が後藤君とばっか喋ってたから霧散した。

 そーなんだよね。先輩、男子とはフツーに喋るもんね。無口なのは私限定か? む、なんかくやしいな。洋楽の話も聴いてて面白くないわけじゃないのに、先輩話ふってもCDをぽんって手渡してくるだけだしなぁ。何がいけないんだろ?

 なんて事をつらつらと考えていたら、絵里が小声で、呆れ気味にこう言ってきた。

「人の趣味、とやかく言う気はないけど。河東先輩の何処がいいわけ? 顔だって普通じゃん」

 成績はいいかもしれないけどと言われ、私は唇を尖らせた。

 そりゃ恋人フィルターで格好良く見えてるだけかも知れないけど!

 何で絵里には先輩の良さがわかんないのかな?

 歩調を合わせてくれる事も何かプレゼントしてくれる事もないし、外デートも月1回あるかないかだし? メールのレス率も未だに100パーセントじゃないけど!

「…………足は、長いと思うよ」

 と、取りあえず私はそう返した。


 ライブが終わってからも暫くは体育館にいたの。今出て行っても人が溢れてるから空いてから出ようってことになったの。

 バイトの話なんかしながら4人で時間を潰していたら、目に痛いパッションピンクの着物姿の男の人が「よお! どうだった? 面白かったか?」と、片手を挙げて近づいて来た。

「お前、その着物今日用?」

「部のやつに借りた。すっげーだろ? サンバ踊ろうかと思ったぞ」

 と、先輩と親しそうに話し始めた。

 舞台を降りる時に手を振ってた人はやっぱり先輩の友達だったのね。

 先輩が私たちを見て、高校の部活の後輩と説明した。

 私と絵里と後藤君はぺこりと頭を下げて挨拶した。って、間違ってないその通りなんだけど、私も『後輩』ひと括りですか?!  酷いです! 先輩!

 気恥ずかしくて呼べずにいる『耕一さん』って呼んでやろうかしら?

 私の不満は誰も気付かずに落研の崎川太一さんって人となんか話が盛り上がってる。

 人がまばらな体育館って声が良く響くなあ。

 

 鞄に入れていた携帯がブルブルと震え出して、私は急いでアラームを止めた。

 3時20分。

「私時間ぎれー」

 告げた私の声はちょっぴり不満そうだったと思う。だって折角来たのに学祭デートならず、だもん。まあしょうがないか。

「えーもう?」

 絵里がそう返してきたら、崎川さんが。

「え? 帰るの? まだ出店とかやってるよ?」

「5時からバイトなんです。変わってもらえなくて」

「うっそー。貴重な生の女子高生なのに?! 帰るの?」

 はい? えーと、どう返せばいいのかな? うふふ、残念でしたーとか?

 ちょっと悩んでしまっていたら先輩が。

「後藤たちはまだいるのか?」

 と話を振ってきた。

「はい。最後まで遊びまぁす」

 そう答えたのは絵里。

「じゃあ、俺が絵里ちゃんたち案内しとくわ。河東は香織ちゃん送ってやったら?」

 崎川さんがあっさりとそう提案した。絵里たちに異論はないみたい。もちろん私にもない。駅までとはいえ先輩と2人になれるもんね。

 しかし、苗字じゃなくて名前で呼ばれるとは思わなかったわ。人懐っこい人なんだなあ、名前で呼ばれても抵抗ないや。

 送ったら? と言われた先輩も「ああ」と一言。異論なし。されたら私ここで泣いてやる。

「そしたらまた明日学校でね」と、私は絵里と後藤君に手を振った。

 ちょっと待ってと、崎川さんに呼び止められ私は首を傾げる。なんだろう?

 崎川さんは袂? って言うのかな? に手を入れて小さい紙を取り出して私に渡して来た。

 受け取ると携帯のアドレスとかが書かれていた。なんだ名刺か。

「後でメールちょうだいねー。絵里ちゃんと君にもあげる。はい」

 と名刺を配り出した。

「電車の時間大丈夫か?」

「あ」

 先輩に言われて私は慌ててもう一度挨拶し、体育館を後にした。


******


 大学から最寄駅までの短い距離。それが今日の私たちのデートコース。

 私から話して先輩が答える。いつものパターン。

 彼女だって紹介されなかった事に不満はあるけど、それは話題にはしない。ぐっと我慢。

 言ってからかわれるのが嫌だったんだろうなって思うことにする。

 駅が見えてきて、私は少し沈んでしまう。あーあ、デート終わっちゃった。

「先輩。送ってくれてありがとう」

 笑って見上げて言う私に先輩は本当に小さく笑い返してきた。

 そして前振りなしに右手を差し出してきた。

 なんだろう? と思いつつその手に私は自分の手を重ねた。ら、先輩が呆れ声で。

「誰がお手しろって言った? 崎川が渡した名刺貸して」

「あ、はい」

 私は軽く耳を赤くして鞄からさっき渡された名刺を先輩に手渡した。

 何をするんだろうと思っていたら、先輩は自分の携帯をいじり出した。

「アドレス登録してなかったんですか?」

 親しそうだったのに?

「……ショートメールでやりとり出来てたから」

 ああ、なるほど。会社同じとこだったわけね。電話番号でメールしてたのか。

 私が1人納得していると、先輩がこちらを見ずに言ってきた。

「バイト楽しいか?」

「はい。楽しいです。3年になるまではこのまま続けるつもりです」

「ふうん。成績、落とすなよ」

 ふぐっ。

「はあい」

 もう。気にするのは成績の事ですか? 他にないですか?

 思わず歩調がとぼとぼって感じになっちゃったわよ!

 甘さの欠片もやっぱりないまま私たちは駅に着いてしまった。

 切符を買って、これでお仕舞い。

「来週は?」

「え?」

「バイトあるのか?」

「休みです」

「じゃ11時に迎えに行くから。なんだよその顔?」

 何だよって、びくっりしたんじゃない! 先輩からデート時間指定って初めてじゃないですか!

 それに迎えにって事は。

「車、乗せてくれるんですか?」

 頷く先輩に思わず抱きついてしまいそうになる。初ドライブ! 助手席! 密室!・・・・・・なのは先輩の部屋も一緒か、居間に先輩のお母さん居たりするけど。

 

 私は先輩と別れて1人で電車に乗ってバイト先のケーキ屋さんに向かう。

 心はうきうきです! うっわー服なに着ていこう?

 車内で独りニヤ付くわけにはいかない。でも笑顔全開だと思う。

 私は誤魔化す為に携帯アプリで遊ぶ振りをした。

 ん? あれ?

 あ、名刺返してもらうの忘れてた。

 まあいいか。来週でも。

 

 私は鼻歌が出そうになるのを堪えつつ、今度の日曜日に期待をした。

 だって、私の誕生日だから。

 進展。あってもいいよね?

 

 


******

 


 

 香織を駅まで送ってから大学へと戻る道すがら崎川からメールが来た。

 『研究棟見て回ってるからこっちまで着たらメールくれ』

 そういえば棟内で何か出し物やってたな。

 分かった、と返信すると今度は『さっきの子が彼女か?』と。

 後藤たちがなにか言ったんだろうな。

 そのメールは無視した。

 

 大学構内にあるゴミ箱に崎川の名刺を丸めて捨てる。

 多少の罪悪感はあるが、構わないとも思う。崎川だし。

 

 『さっきの子が彼女か?』


 暫定正解。

 そうとしか言えない事にかなり理不尽を覚える。

 香織とのお試し交際期間の終了は彼女の頷き一つだというのに。


 今の関係は『お試し期間』なんだ。


 キスまでした、お試し期間の終了の合図は未だに香織からなされない。


 そう、今の関係は『お試し期間』なんだ。


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