ACT:05 はい? どういう意味?
日曜日の朝7時。もちろん学校も部活もお休みなんだけど! 私、関崎香織は頑張って早起きしています。
ベッドから起きて最初にした事はカーテンを開ける事。
「よし! 天気良い!」
笑顔満開って感じです。
昨日の夜にセットしておいた着替え一式を手にいそいそとお風呂へGO!
なんてったて今日は先輩とドライブデートだもんね。ちょっと頑張り過ぎかもだけど良いよね? だってすっごく楽しみなんだから。
今日は小春日和って天気予報で言ってたから装いは、薄手の淡いピンクのカットソーにワンポイントでリボンが付いてるのと白いふんわり系の膝上のスカート。生成り色のニットコートに同色のブーツ。シンプル過ぎるから妹から姫系の濃い目のピンクのバック借りて、髪はヘヤアイロンで頑張ってゆるふわに巻いてみました。
こういう準備もすっごい楽しいんだよね。
先輩意外とかわいい系好きみたいだから嫌な顔はしないと思うわ。
あー待ってる時間が長いー。約束したの11時だから9時まで寝てても大丈夫だったなぁ。
なんてそわそわしていたら机の上に置いていた携帯電話が鳴り出した。
「あ、切れた。」
ワンコールで切れてしまった……。着信履歴は『耕一さん』
これって来たってことかな? 今は、10時52分。
部屋の窓から外を覗くと見覚えのある軽自動車が停まっていて、私は慌てて携帯電話をバックに入れて姿見で髪型チェックしてから、行ってきますと家を出ました。
あードキドキするよー。
******
門を出て先輩が乗っている車に向かって手を振ったら、軽く右手を上げてくれた。
お邪魔しますと断わってから私は助手席に乗り込む。
うっわ、何か緊張するよ!
ってか先輩の格好いつもと一緒だわ。ジーンズにTシャツの上からチャックの長シャツにスニーカー……。わ、私気合い入れ過ぎ?
座った時にずり上がってしまったスカートの裾を直しつつ、ちらっと先輩を盗み見る。私の余所行きルックには興味ないように銀縁眼鏡の位置を直して、サイドギアっていうの? を下ろして車を動かし始めた。
シートベルトって一言言われて私は焦ってベルトを締めた。
「今日は何処に行くんですか?」
「見晴らしのいい所あるからそこ」
そこって何処? とは思いはしたけど、まあいいか。
「お弁当とか持ってきてないですけど、お店あるの?」
「何かあるだろ? なくても車だし、移動すればいいよ」
なるほど、了解しました。
しばらく車を走らせて、先輩がCDをかけ始めてから私は大人しく音楽を聴いておく。
運転中って話ててもいいのかな? 集中力いるだろうから話さないほうがいい?
私は先輩の横顔を見つめながら、そんな事を考えていたら先輩が。
「睨まれてたら運転し難い」
って! どうして私が見つめていたら睨むって言うんですか?!
内心溜息付きつつ私は音楽を聴きながら流れていく景色を楽しむ事にした。
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1時間ほど車を走らせて辿り着いたのは、小山全体が自然公園になっていて展望台もある丘と緑のミュージアムっていうパークだった。
そういえばイベントのお知らせ広告が駅に貼ってた所だ。
先輩、チェックしてたんだ。うお! 嬉しいです! ありがとう先輩。
パーク内は親子連れやカップルに友達同士のグループにって結構込んでる。
天気もいいしハイキングにはもってこいって感じだしね。
触れ合い広場っていう(何処にでもありそうな名前だね)ところでウサギの餌やり体験が出来るみたいで、私たちは早速触れ合い広場に向かった。
うーん。かわいいー。もぐもぐ口動かしてる所もすっごく可愛いの。先輩もちょっと笑ってる。良かった。私1人で楽しんでても意味ないものね。ちょっとした事でも一緒に楽しみたいもん。
ねえ先輩? 先輩もそんなふうに思ってくれていますか?
それから私たちは、パーク内にあるフードコートに移動してランチを食べて、あまり喋らない先輩とよく喋る私っていういつもの構図が出来て、それでも私の誕生日デートだもん。お祝いするのに連れてきてくれたんだよね? 先輩。
午後からは羊の追い込みショーを見たり、石釜ピザの手作り体験コーナーを見てまわったりと、パーク内を歩いて回った。
手はね、本当は繋ぎたかったんだけど……タイミングって難しいなぁ。女の子の私からっていうのもなんかね。気恥ずかしい気がするし。
手、繋いでほしいんだけどな……。
ねえ先輩? 先輩は私と手を繋ぎたいと、思ってくれた事はありますか?
なんてね。聞くのはそれこそ恥ずかしいよね。
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「わー! きれい! すごく見晴らしいいですね」
東屋とベンチが2つ、それから定番のお金を入れて使う望遠鏡が1台置かれたパーク内にある展望台まで私と先輩は登ってきたの。
紅葉にはまだ早いみたいで植えられている紅葉とかはまだ緑色してたんだけどね。高い所からの景色って本当に綺麗だわ。
遠くに見える町並みも、可愛いジオラマみたいで思わずうっとり眺めちゃう。
って言うのに先輩は。
「見晴らし良くなかったら展望台にならないだろ」
「…………まあ、そうですけど」
先輩に乙女マンガか乙女小説を大量に読ませてやろうかしら?
私は多少唇を尖らせながら望遠鏡が設置されている方へ向かう。
うわ。300円する。どうしよう? パス? パスですか?
ううん。レンズ越しじゃなくて肉眼で楽しもう。
「ねえ先輩? 学校ってどの辺りになるのかな?」
私は望遠鏡の事は忘れることにして、手摺に手をついて小さく見える町を見た。
聞かれた先輩は、手摺にもたれる様にして。
「方向が違うぞ? ここからだと、あの山の向こう」
と、右手に見える山を指差した。
「あれ?」
そう呟いた私に先輩はちょっと呆れたふうに笑った。
私はちょっと耳を赤くして早口で言い返した。
「じょ、助手席に乗ってるだけだと、いまいち方向わかんないんですっ」
これって正論だよね? そう思うんだけど先輩から「ナビはさせられないな」という評価を貰ってしまった。
ああもう! 折角のバースデイ・デートっていうのに! この普段とまったく一緒な雰囲気はなんだろう?
努力? 努力が足りませんか? 私と先輩のどっちの努力が足りないんだろうって思わなくもないんだけどね。
内心ブーたれつつ、私はぼんやりと景色を楽しんだ。
ふと、思い出したのは本当に意識してのことじゃない。
私は「そういえば」と先輩に顔を向けた。先輩は「ん?」という表情で私を見返してきた。
私は先輩を見つつ思い出したことを口にした。
「学園祭の時の、えっと、川崎さん?」
「崎川」
「あ、その崎川さんの名刺って今持ってます?」
「何で?」
「え?」
何でと言われて私はきょとんとなった。渡したままだったから聞いただけなんだけどな?
「えっと。絵里もメールしたって言ってたし、登録してたほうが良いのかな?って」
あの? なんか……なに? この微妙な怖さは?
無言で私を見下ろす先輩に、なんだか言葉が途切れ途切れになってしまって、私は無意識に先輩から少し、ほんの少し離れた。
先輩は目を細めて抑揚なく言葉を返してきた。
「メールしたいなら中里にアドレス教えてもらえばいいだろ」
いつもの素っ気無い言い方とは違う。苛付いているのが分かる口調。
苛立たれる理由が分からず、流石に私もむっとしてしまった。
だいたい崎川さんって先輩の友達じゃん! 友達の話でなんでそんな急に怒り出すの?
「わかりました。絵里に聞くからもういいです」
多分、私の声も硬かったと思う。そしてそれが、先輩の気に障ったんだと思う。
答えた直後に「帰る」と言われて、私はなんだか本当に分からずに下唇を噛んだ。
先輩は、勝手な人だし愛想も無いし何時も優しいわけでも無い。
それでも。
「何怒ってるんですか?! 私何かしました?」
背を向けて歩き出した先輩は、立ち止まって顔だけを私に向けた。
「何もしてない」
「じゃあ何で」
「何も言ってないし何も答えてない」
私の言葉を遮って先輩は続ける。
なあ? と先輩が言う。私は先輩の表情をじっと見る。浮かんでいるのは先ほどからの苛立ちと、微かに戸惑ったような目。
「なんでもない事みたいに他の男の連絡先俺に聞くか?」
そう、言われてはっとした。
本当にふと思い出した事を口にしただけなのに、先輩は違うふうに取ってしまっている。
でもどうしてそんなふうに考えるんだろう? メルアド程度でそこまで考えるものなの?
「ちが」
「違うってなにが? ほんとの彼氏じゃないから構わない?」
「え?」
なに? なに言ってるの?
お腹の中が一気に冷えた気がした。ほんとの彼氏じゃない?え?
「なあ、何時になったらお試し期間終わるんだ?」
私はえ? ともへ? とも付かない声にもなっていない音を出した。
「部室での事覚えてんのか?」
先輩の声が上滑りする。
部室での事。先輩が3年生で私が1年生の時の事。今年の1月の終わり、実力テストがあった日の事。
先輩が付き合おうと言ってくれた日の事。
部室である放送室に向かうと、先輩が1人でいた。
部活動はもう引退していたけど、先輩はたまに部室に顔を出してした。
他の部員が来るまで、部室には私と先輩の2人だけだった。
前触れもなく先輩が急に言ってきた「誰か好きな奴いるのか?」その言葉に私が戸惑っていたら告白されたんだ。そのはず……なのに。
お試し期間? なにそれ?
はい? どういう意味?
わたし、なにか忘れてる??




