鉄の国3
自由とは己で掴むもの。私が学生の時、よく聞いた言葉だ。余りにさぱっとしたその物言いはデモクラシー末期では活字の主人公になりきり酔いしれるといった使われ方をされていたと思われる。
そんなセリフを恥ずかしげもなく言われたもんだから、暗黒的思想の病に侵された学友を想起し爆笑しちゃった。
「何故笑うんです!?」
私はしばし腹を抱えているものの少し話が見えてきた。
「あい分かりました、伽話にしてもよいセリフが自然に出るほど貴方方は困窮しているわけで。私らのいた世界は存外平和だったのかもしれませぬ。」
「まだ顔がニヤついていますよ。」
「それは仕方ない。」
プシューと顔付近に蒸気が噴き出してきた。天罰とでも?見れば巨大な鉄缶のようなものが音を立て振動し熱を帯びている。わざとらしい振動と壮大なパイプの摩天楼。四方に広がるパイプとその先につくポンプ。中には熱によってか赤く爛れたような箇所も存在する。機能的に問題があるのではなかろうかとも思える。がしかし機能美の極致を行くその無骨さは戦車や船を想起させる。こんな物が大量連なり見渡す限りの褐色となる。そして気温が実に高い。
「色々見てもらうのは構いませんが…転移して物珍しいでしょうし。」
「そうだ、この珍しい土地に私が神の啓示を受けてまで降り立った理由を知りたいところです。もっともただの偶然と言われれば私は納得しますがね。今の年齢、儀式の形式こそ違えど偶然世界に生まれ落ちた一人の赤ん坊が私なのだから元々の出産と何ら変わりはない。」
そこまで言うと女性はだいぶ面倒な様に私の言葉を断ち切る。
「つまりそういうことです。」
「そう、世界にバランスをもたらす為に降り立ったのがお前だ。」
端からいきなり割り込んでくる幼い声がした。しかし幼いにしては随分飄々とした物言いだった。
「そこから先は私から話そう。エリュケー…お前はドのつくまどろっこしさだ。端的に話してしまえば良いんだよ。」
「アルマさん…」
「すまなかった。設定を聞かされ楽しい読者はいない。退屈だったろう。」
ふむ、見た目は奇っ怪に幼稚だが話が分かりそうな雰囲気がする、これは子供と言えぬ得体のしれない妖怪のようなものだ。
「この世界では年を取ると縮むらしいな。困った、私だけこの世界の理についていけぬかもしれん。」
「安心しなよ、真人間は年をとってちゃんとデカくなる。」
さて、と幼稚な妖怪は切り返し数歩歩いた後踵を返した。
「本題だ、用は国をひっくり返したいから協力してくれということさ。この国は大層大荒れでね、頭の独裁がとまらんのさ。まてまて、何も対価を支払わずにってのはあり得ん話だろ?我々からは君に最高の待遇を用意している。それに君だって生き返らせてもらったんだ。恩返しとして一つ頼むよ。」
特に驚くこともなかったなあと残念に思いつつも、国をひっくり返すというのには強く惹かれるものがある。デモクラシーを夢見る博愛主義の青年であった私にとって、国をまるでぞんざいに扱うという反発精神は酷く魅力的だ。自由を掴み取る。先ほどの言葉にはなるが、やはりこれを何の恥ずかしげもなく言えるというのは日本ではあり得ん大事である。本気で言う言葉は常に戦いの中に生まれるのだと実感するとともに、日の下では自由という言葉が規制された事を考え、一層前世への執着というものがない。自由を勝ち取る国へのカウンター。「うん、面白そうだ。」
目の前の二人が拍子抜けといった風に「え」と言う。
「おや?随分あっさりとしてしまったな。こちらから持ち掛けている手前何とも言えんが、お前はそれで良いのか。」
「ああ、もちろん。もらった命は持っているだけじゃ腐るからな。私は前世で慈善家だったんだ。大きく期待したまえ。」




