第72話:鏡の向こうの選択
鏡の門に映し出された「失われた平穏な日常」。過去への逃避という誘惑を前に、カイとヒロインたちは自分たちの意志でそれを拒絶する。過去の模造品を打ち砕いたカイたちの前に、いよいよ最後の真実が姿を現す。
虚無の砂漠にそびえ立つ、巨大な鏡の門。その表面には、運命を書き換える前の穏やかな日常——誰もがただの高校生として笑い合っていた頃の景色が映し出されていた。
「……あれは、私たちが失ったはずの、ただの『過去』?」
レナが足を止め、鏡に映る自分自身の姿をじっと見つめる。そこには強気な貴族令嬢としての鎧はなく、ただ平和な世界に生きる一人の少女がいた。
「……計算上、あの映像は過去の記録ではありません。……この空間の演算処理が、私たちの脳内データから『最も生存確率が高かった安全な世界線』を視覚化しているだけです」
エヴァが冷徹に分析し、カイの腕をさらに強く掴む。彼女にとって、今の歪んでいようともカイと共にある世界こそが唯一の真実だった。
「でも、もしあの門をくぐれば、私たちは二度とこんな過酷な戦いをしなくて済むのよ。……誰も傷つかず、誰も消えない、安全な『モブ』の日常に戻れるのよ」
アオイが静かに呟く。彼女の言葉には、これまでの戦いで蓄積された疲弊と、逃避への誘惑がわずかに混じっていた。
「……ダメですわ、アオイ。そんなの、偽りの平穏です。……私たちが選んだのは、誰かの描いたシナリオの上で生きることではなく、自分の足で、カイさんと共に生きると決めた未来です!」
セイラが香炉を握りしめ、凛とした声で否定する。ユズも大きく頷き、バックパックを背負い直した。
「そうよ! 商売も爆発物も、私が私らしく生きるために選んだんだから、こんな思い出だけの世界になんて戻れるものですか!」
ヒロインたちの言葉を聞き、俺は鏡の門に歩み寄った。
映し出された過去の俺は、生存率を計算し、波風を立てずに生きるだけの「無個性なモブ」だった。確かに、あの日々は安全で、絶望も痛みもなかったかもしれない。
だが——。
「……いや、違うな」
俺は右目を細め、鏡に映る自分に向かって手を伸ばした。
「計算通りの安全な日常なんて、あの時レナの死刑宣告を見た瞬間にぶっ壊れたんだ。痛みを抱えてでも、目の前で誰かが消えていくのを黙って見ない——それが、俺の選んだ『感情』だ」
俺が因果を断ち切るように手を振り払うと、鏡の門が蜘蛛の巣状に亀裂を生じ、音を立てて崩れ去った。
過去への逃げ道が消え去った砂漠の真ん中で、ヤトがどこか満足げな笑みを浮かべて頷いた。
「……よく言った、東雲カイ。過去の模造品を壊せたお前なら、いよいよ『最後の管理者』に辿り着ける」
③前書き
第72話:鏡の向こうの選択
①タイトル
確率0.00%の絶望を書き換える――バグだらけの世界で、俺だけが因果を絶断して最強の聖女たちを救う。
②本文
虚無の砂漠にそびえ立つ、巨大な鏡の門。その表面には、運命を書き換える前の穏やかな日常——誰もがただの高校生として笑い合っていた頃の景色が映し出されていた。
「……あれは、私たちが失ったはずの、ただの『過去』?」
レナが足を止め、鏡に映る自分自身の姿をじっと見つめる。そこには強気な貴族令嬢としての鎧はなく、ただ平和な世界に生きる一人の少女がいた。
「……計算上、あの映像は過去の記録ではありません。……この空間の演算処理が、私たちの脳内データから『最も生存確率が高かった安全な世界線』を視覚化しているだけです」
エヴァが冷徹に分析し、カイの腕をさらに強く掴む。彼女にとって、今の歪んでいようともカイと共にある世界こそが唯一の真実だった。
「でも、もしあの門をくぐれば、私たちは二度とこんな過酷な戦いをしなくて済むのよ。……誰も傷つかず、誰も消えない、安全な『モブ』の日常に戻れるのよ」
アオイが静かに呟く。彼女の言葉には、これまでの戦いで蓄積された疲弊と、逃避への誘惑がわずかに混じっていた。
「……ダメですわ、アオイ。そんなの、偽りの平穏です。……私たちが選んだのは、誰かの描いたシナリオの上で生きることではなく、自分の足で、カイさんと共に生きると決めた未来です!」
セイラが香炉を握りしめ、凛とした声で否定する。ユズも大きく頷き、バックパックを背負い直した。
「そうよ! 商売も爆発物も、私が私らしく生きるために選んだんだから、こんな思い出だけの世界になんて戻れるものですか!」
ヒロインたちの言葉を聞き、俺は鏡の門に歩み寄った。
映し出された過去の俺は、生存率を計算し、波風を立てずに生きるだけの「無個性なモブ」だった。確かに、あの日々は安全で、絶望も痛みもなかったかもしれない。
だが——。
「……いや、違うな」
俺は右目を細め、鏡に映る自分に向かって手を伸ばした。
「計算通りの安全な日常なんて、あの時レナの死刑宣告を見た瞬間にぶっ壊れたんだ。痛みを抱えてでも、目の前で誰かが消えていくのを黙って見ない——それが、俺の選んだ『感情』だ」
俺が因果を断ち切るように手を振り払うと、鏡の門が蜘蛛の巣状に亀裂を生じ、音を立てて崩れ去った。
過去への逃げ道が消え去った砂漠の真ん中で、ヤトがどこか満足げな笑みを浮かべて頷いた。
「……それでいい、東雲カイ。過去の模造品を壊せたあなたなら、いよいよ『最後の管理者』に辿り着ける」
第72話、お読みいただきありがとうございました!
過去のモブとしての日常に別れを告げ、自分たちの足で未来を選ぶ決意を描いた回です。ヒロインたちの絆もより一層深まりました。
次回、物語はいよいよクライマックスへ!
続きが気になる方は、ぜひ☆☆☆☆☆から応援よろしくお願いします




