第14話:紅蓮の切り札と、完璧な座標指定
時計塔の中層で立ち塞がった巨大な『番人』。
あらゆる物理攻撃を弾くバグの装甲を前に、レナが自らの誇りをかけた大魔法の詠唱を始める。
傷ついたカイは、変質した視界を駆使し、彼女の魔法を直撃させるための「針の穴を通すような隙」を探り当てる。
「押し潰しなさいっ!」
セイラが巨大な香炉を振り回し、時計塔の『番人』へと叩きつける。
無数の歯車と刃で構成された巨体は、しかし、ダメージを受けるどころか微動だにしなかった。
香炉が直撃する直前、番人の表面に赤紫色のポリゴン状の盾が展開され、セイラの物理攻撃を完全にシャットアウトしたのだ。
「くっ……! 手応えがありません。わたくしの打撃が、当たる直前に『無効』化されていますわ!」
セイラが歯噛みしながら後退する。
俺の右目には、無機質なログが流れていた。
【対象データ:物理干渉の完全無効化《Null》を検知】
「なら、わたくしの出番ですわね!」
弾き返されたセイラと入れ替わるように、レナが勢いよく前に飛び出した。
彼女の両手には、普段の火柱とは比較にならないほど高密度に圧縮された、白く輝くほどの炎が渦巻いている。
「カイには指一本、触れさせませんわ……! 灰も残さず消し飛びなさい!」
レナが、自身が扱える最大火力の魔法——『極大魔法』の詠唱に入ろうとする。
しかし、番人もただ的になるつもりはないらしい。巨体の全身から、無数の鋭いノイズの刃をミサイルのようにレナへと射出してきた。
「させません!」
セイラが即座にレナの前に立ち塞がり、鎖を旋風のように振り回して刃の雨を弾き落とす。
(今だ……! 俺の目で、こいつの『穴』を……!)
俺は壁に寄りかかりながら、赤紫色に変色した右目をカッと見開いた。
一見すると完璧に見えるあのポリゴンの盾。だが、俺自身のシステム干渉レベルが上がった今の目なら、そのプログラムの『継ぎ目』が見える。
【シールド展開周期に0.3秒の遅延を検知】
【脆弱座標を特定:対象の中心核、右斜め上15度】
「レナ! まだ撃つな!」
限界まで魔力を高め、今にも炎を放とうとしていたレナを、俺は怒鳴り声で制止した。
「えっ……!? で、でも!」
「信じろ! 俺がタイミングを合わせる! ……右斜め上へ射線を3度ずらせ!」
俺の無茶な指示に、レナは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに「……分かりましたわ!」と頷き、寸前のところで暴発しそうな炎を堪えた。
番人の盾が、脈打つようにノイズを明滅させる。
「……3、2、1……そこだ、撃てェッ!!」
俺が叫んだのと、番人の盾のプログラムが一瞬だけ更新のラグを起こし、『針の穴』ほどの隙間が生まれたのは、文字通り同時だった。
「『赫炎の裁き《クリムゾン・ジャッジメント》』ォォォッ!!」
レナの手から放たれた極太のレーザーのような白炎が、俺の指定した座標——盾の唯一の隙間を完璧にすり抜け、番人の中心核へと直撃した。
——ピキ、ガァァァァァンッ!!
断末魔のノイズすら爆音に掻き消される。
物理を無効化するはずの巨体が、内側から膨張するような大爆発を起こし、無数の紫色の光の粒子となって四散した。
「はぁっ、はぁっ……! や、やりましたわ!」
肩で息をしながら、レナが誇らしげに振り返る。
普段なら「わたくしにかかれば当然ですわ!」と胸を張るところだが、今は疲労で膝が震えていた。
「すごい威力でした、レナ様。……それに、カイ様の完璧な誘導も」
「……流石だな、レナ。あの針の穴を通すような座標指定、完璧に狙い撃ちやがって。大したもんだ」
俺が歩み寄りながらそう声をかけると、レナはパッと顔を輝かせたが、すぐにぶっきらぼうに顔を背けた。
「ふ、ふんっ! カイこそ、まだフラフラなんですのから無理しないでくださいまし。……まぁ、その、今のサポートには……『ありがとう』と言っておきますわ」
照れくさそうに、けれどもしっかりと感謝を口にしたレナに、俺とセイラは顔を見合わせて小さく笑った。
強敵を打ち倒した達成感。
だが、安堵している暇はない。右目のカウントダウンは、無情にも残り70時間を切ろうとしていた。
「……行くぞ。この階段の上が、いよいよ最上階だ」
俺たちは気合を入れ直し、大時計塔の頂上——諸悪の根源である『バグの核』が待つ場所へと歩みを進めた。
第14話、お読みいただきありがとうございました!
レナの極大魔法と、カイのUIによる精密な座標アシストの連携プレイで見事中ボスを撃破!
少しお転婆ですが、決める時はバッチリ決めてくれるレナの活躍回でした。
そして、次回はいよいよ時計塔の最上階。
『バグの核』を守る最後の敵に対し、今度はセイラの実力が火を吹きます!
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