第84話 デカ声圧殺プレゼン。賢い皆様になら、この価値がわかりますね?
「承知いたしました、教授。……客人たちよ、待たせたな。これよりヤバマーズの、いや、この王国の常識を塗り替える――“新時代の産声”をお聞きいただこう!」
――パチンッ!
僕は、高らかに指を鳴らした。
合わせて、ヘイホーがワゴンを運ぶ。
その上には、純白の砂が敷き詰められた耐熱坩堝。
同時に、使用人たちによって、屋敷の窓も一斉に開け放たれた。冷涼な外気が吹き込む。
「なんだなんだ、いったい何が始まるのだ……!?」
商人たちがざわめきだした。
「まずは、この資源が秘める『生の暴力』……すなわち、原石でのエネルギー密度をご覧いただきたい。どうか、心の臓を強く持っておかれますよう!」
オノレが、ピンセットで黒銀結晶を一粒つまみ。砂山の上にちょこんと鈍色の小石を置く。
さらに、そこへ極細針を突き刺した。
「オノレ、頼むぞ」
「ああ。……励起、開始」
すると、針先が細かく震え――。
――キィィィィン!!
「目で見て、音に聞くがいい! これが黒銀結晶の力だ!」
結晶が、眩い熱光を放ち。
パチパチ、ジュウジュウ。形が保てぬと砂が泣く。
「砂が……砂が溶けているだとっ!?」
誰かが驚愕に息を呑む。
また誰かはチリチリ押し寄せる熱波に、思わず顔を背けた。
純白の砂は、赤黒く粘り気のある“飴”へと変貌していく。さながら小さな溶岩湖。
坩堝の砂山にドロドロとした穴が穿たれ、透き通る深紅のガラストンネルが形成。
立ち昇る陽炎が、確かな熱量を物語っていた。
「なんだ、今の光景は……まるで太陽の欠片ではないか!」
「むむ。火炎魔術、か?」
「みるみるうちに、砂がガラスと化していったぞ」
どよめく聴衆たち。
多少、溶解温度を下げる混ぜ物をして演出を強化したが、インパクトは絶大だ。
僕はあえて不遜に、自信満々に言い放つ。
「いいや、これは術式などではないっ! 内包された魔素を、熱へ変換したに過ぎないのだ!」
「内包された魔素だと!?」
「そうだ! この黒銀結晶は、かの希少な魔晶石のように優れたエネルギーを秘めている。だが、特筆すべきは安全性。放射性――つまり、被爆の恐れは皆無。これほどまでにクリーンで、強大な資源が歴史上に存在しただろうか!」
「おおおっ!」と感嘆が一同から漏れた。
いいね、いいリアクションだよ!
「ほう。このような見せ方で、観客を煙に巻こうというのか。……悪くない」
陽炎の向こう側、ラ・ボアジエ教授が呟いた。そこに驚きはない。
おそらく手元のサンプルだけで、結晶の特性を看破していたのだろう。
なんとも恐るべき、生ける伝説の炯眼。
だが、僕たちの演目が火遊びで終わりだと思うなよ。
「この結晶は、僕が発見した独自手法によって精製された……世界初の物質である!」
「「「――世界初っ!? 精製だとっ!?」」」
「そうだ! 魔素の濃いヤバマーズの地、そして僕にしか生み出せぬ資源なのだ!」
僕の数少ない武器、『とにかくデカい声』だ。これがとにかく役に立つっ!
戦場の指揮でも、学術討論でも――プレゼンでもな!
大学で磨き上げた、屋内空間に適切な反響を叩きこむテクニック。
(最適な共鳴腔を発し、大広間に声を響かせる! 僕は知っているんだ、人間が音圧に支配されうる生き物であることをっ!)
“議論狂犬”と呼ばれた経験量は伊達じゃない、場を呑み込んでやるぜっ!
「皆のもの! 黒銀結晶は鉄をも一瞬で溶かす。金属加工において、非常に優れた特性だ!」
「鉄を、一瞬で!?」
「だが、しかしっ! この熱量しか出せぬのならば、商売道具としてあまりに愛想が悪いっ! 野蛮で品がないっ! ――そうは思われないか?」
大広間全体を一つの楽器とするように、声の質と量を制御。
窓を開けている分、声量が必要だが僕にはたいした問題じゃない。聴衆をどんどん引き込んでいく。
――そこで、すかさず。
雑用ベテランのヘイホーが“反応皿”をテーブルへ置いた。
さすがっ! 空気読んでるっ!
「故に、我々が到達した『制御の極地』をお見せしよう。いかにこの力が理知に溢れ、慈悲深く……そして、平和的であるかをっ!」
メイド姿のジルが、小さな壺を持ちあげた。
トロ~リ。
反応皿へ流れ落ちるのは、黒ずんだゼリー状の液体。
「よいかな? 黒銀結晶の難点は、点火すれば焼き尽くすまで止まらぬ、そんな狂暴さにあった! しかし、見るがいい!」
ジルは反応皿の刻印をなぞり、足元のペダルをリズミカルに踏み込む。
――ポ、ポ、ポ、ポ……。
ゼリーの中に点在する結晶の粒が、合わせて青白く明滅。
爆発ではない。
焚き火のような、ランプの灯火のような、恋人を待つホタルのような。
実に穏やかで、優雅なエネルギーの律動。
「……なんと神秘的な」
大商人たちから、もはや感嘆すらも飛び越えてため息が漏れる。
秘書らも、護衛らも、あるいは僕の使用人たちですら。
誕生したばかりの文明の光に、誰もが心を奪われていた。
「このように特殊な緩衝溶剤に結晶を分散させることで、我々ヤバマーズ研究チームは“エネルギーの各個撃破と掌握”に成功したのだ!」
難解な理屈など不要。
ド素人たちが“なんだか凄い”と思うキーワードを、とにかく連発っ!
大広間の隅、シーツで隠されていた一角を剥ぎ取る。
「ご照覧あれ! これこそが不可能を可能にした、鋲を使わぬ鉄製品の数々だ!」
現れたのは、継ぎ目のない空洞の球体儀、滑らかな鎖、巨大な大釜、橋の建築模型。
「鋲を使わない!? ……いったいどうやって?」
「溶接だ。黒銀結晶のゼリー燃料を扱えば、高位魔術師の手を借りることもなく、完璧な金属溶接が可能となる!」
「金属、溶接……だとッ!? 」
僕が、思いついた平和的な活用アイデア。
ゼリー燃料をスプレーのように吹き付けることで、金属と金属を溶かしくっつける作業を簡単にできるようにしたのだ。
すると、そこに――。
「否、専門家として訂正しよう。揺らぐことなき絶対の高熱を求める溶接作業工程は、いかに卓越した火の魔術師であれ、不可能の追求に等しい」
なんと図らずも助け舟を出す、ラ・ボアジエ教授。
「 炎達士たる教授ですらも、この技術に太鼓判を押しておられるっ!?」
「正確には、鉄を溶かす火力を出すこと自体は可能だ。しかし、人間という器には不相応な手法なのだよ」
「と、言いますと……?」
「人の意識も肉体も、不確かな脈動を放つ揺らぎ……。力を込めることと、静止を保つことは相反する理であり、同じ旋律を弾き続けることなど生物には土台無理な話なのさ」
ラ・ボアジエ教授の難解ながらも、説得力のある補足。
僕は喜んでその波に乗った。
「皆の者、これからは不可能ではなくなるのだ! 建築、製造、輸送、修復! あらゆる分野でこの技術が圧倒する!」
「本当に鋲を使わずに、あらゆるものが作れるというのか……!?」
「そうだっ! 大商人たる諸君たちならば、この“力”がどれほどの金貨を生むか……もはや、計算を始めているのではないか?」
ゴクリ。
ツバを飲む音が重なる。
僕はあたかも“本当に賢い者にこそ、真の価値がわかるのだ”と語り掛けていく。
(人間ってのは、自分の頭が良いもんだと勘違いしてる。だから、理解したような気分にさせちゃえば勝ちなんだ)
“理解したと思い込める解釈”こそが、利口な真実だと錯覚してしまう。
僕はそういう自分の弱さを知っている。
(わかったようなフリをしたい、訳知り顔でいたい。いつだって認めたくないそんな僕がいる。でも、だからこそ他人にもある一面だとわかるんだ――そんな弱さを僕は活かし、存分に突かせてもらうっ!)
人を動かすのに、理解はいらない。
必要なのは、ちょっとした特権意識。
これさえ与えれば、商人は勝手に財布の紐を緩めてくれるはず。
なあ、商人。結局はお前らも、僕と同じ人間なんだろ?
ほら、こっちに歩いて来いよ!
「ご覧あれ。この皿の上で起きているのは、我々が望む時、望む分だけ取り出せる――従順なる文明の火!」
僕は、震える商人の一人からフォークを借りて、パンをかざしてみせた。
そんなアドリブに、ジルはすぐさま火力を微調整。
数秒で芳ばしい香りが広がり、こんがり焼き色がつく。
「そう遠くない時代。薪も、炭も、高価な魔晶石も必要なくなる。この燃料が量産できた暁には、冬の寒さも、調理の苦労も、夜の恐怖も……すべてが解決される! 聞こえるだろう、そんな新時代の産声がっ!」
誇張だらけ。
コストや用途の課題は山積みだ。
だが、屋敷のメイドにすら扱える高性能熱源は……実に魅力的に見えるだろ?
(まあ、僕はジルの身分が平民のメイドだなんて、一言も言ってないんだけどな)
すると、名だたる大商人たちは――目を輝かせていた。
「新時代の燃料……っ」
「確かに、他でもない我々だからこそ活用できる分野が十二分に理解できる」
「そうだ、大商人たる儂らにはっ! この価値がっ!」
ほら、まるで夢でも見ているみたいにな。
(よしっ、手応えありっ! さあ、一緒に夢を見ようぜ。――どこかで醒めるまでな)
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