表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右
第二章:破滅迫る、ハッタリ男爵投資劇。 ~“君がためのサキオン”になりたい~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/118

第79話 今日の商談目標『とりあえず、生きて帰りたい』

((((楽にできるわけねえだろ、このクソボケがッッッ!!!)))


 誰一人として、口にはしないが。

 広間に居並ぶ、大商人たちの総意であった。


 上座にどっしりふんぞり返る、アスタ・ド・ヤバマーズ男爵。


 この若造。つい先ほど、「余計なことをしたら正当防衛で始末する」と、物騒極まりない独り言を、わざわざ漏らしたのだから。


 ――豪商バルトロメウスは、戦慄していた。

 こんな監視下で武器を抜こうなど、誰も考えるはずもない。そもそも、商人とはそのような生き物ではないのだから。


 領主を暗殺しようとする、商人などいるはずもない。


 その上、見てみるがいい。

 筋骨隆々の聖騎士ロダン。顔を覆い隠した祓魔女(エクソシスター)リュス。

 聖王教会が誇る、正義と暴力の権化が脇を固めているのだ。


「皆様、どうぞご安心を。……皆様方が、領地法と秩序を遵守なさる限り、聖王の慈悲は等しく注がれることでしょう」


(((なんでだよッ! なんで教会が、こんなキチガイ領主サイドに立ってるんだよ!!?)))


 二人の挨拶で、大商人たちの胸に沸き起こったのは安心ではない。

 神は我々を見放したのかという、暗然(あんぜん)だった。


 いや、確かに、誰もが聞いてはいるのだ。

 アスタ男爵が聖戦士と共に、魔人を討滅したという眉唾物の英雄譚を。


 だが、客観的に見て、だ。

 魔人と比べても、なおヤバマーズの方がよほど悪質ではないのか?


 武力と教会の権威。ここまで脅されて、不用意に動ける奴など誰もいるはずがないのに。

 わざわざプレッシャーを掛ける意味など、もはやどこにもないのである。


(つまりは――よもや、シャルル王太子の策略が見抜かれているのかっ!? そうか、だからカマを掛けて来たのだ! 私はボロは出さんぞ! アスタ男爵めっ!)


 まあ、バルトロメウスの思い込みである。


 隣のライバル商人らは、幽霊のように蒼白。

 普段なら、嘲笑ってやるバルトロメウスだが。


(……フン。私の顔色とて、もはや大差なかろうな)


 今は他人事ではない。

 現実逃避でもせねば、やってられない心境のバルトロメウスである。


(ううっ、王都に帰ったら必ず訴えてやるからな。何の罪状も思いつかぬが、何らかの罪に抵触するに違いないのだ)


 しかし、現実は非常だ。

 そもそも、訴訟検討には生きて帰る必要がある。


 一応、マナーとして持参した手土産も、果たしてどこまで生存に寄与するか。まったくもって怪しいところだった。


(この“蛮族の統領”の機嫌を損ねれば、一巻の終わりっ! まったく、どこのどいつだ。アスタ男爵に恥をかかせ、商談をぶち壊してこいなどと寝言を命じた戯けは……!)


 無論、シャルル王太子である。

 疑いようもなく、王太子殿下その人である。


 同じ命令を受けた商人が、ここに何人いるかは不明だが――。


「……おお、我が神よ。聖王よ、どうかお助けを……っ!?」


 今も、ブツブツ誰かの祈る声。


 ――そう、今や全員の目標は『とりあえず、生きて帰りたい』だ。


「ひっ、あ、あわわ……っ!」


 突然、悲鳴が上がる。

 よりにもよって声の主は、バルトロメウスの秘書だった。

 極限の緊張に耐えかねたのか、手土産の目録を滑らせてしまったのだ。


 ――カランカラン。

 

 床に落ちる書状。

 秘書はそのまま膝をつき、泣き崩れんばかりの勢いで震えだす。


(((一人目の生贄は、あいつか……)))


 思わず、哀憐の眼差しが集まった。


 貴族への書状を落とすのは、致命的な無作法。バルトロメウスは、主人として頭を抱える。


 しかし、対するアスタ男爵。

 彼は「おやぁ?」と、無邪気に微笑みながら首を傾げてみせた。


「秘書殿、もしや……長旅でお疲れかな?」

「えっ!? ああっ、もっ、申し訳ございませんっ! 決して他意はっ、他意はございませんっ!!」

「ははは、そう畏まるな。ヤバマーズへの道のりは……うん、そう、辺鄙だからな。致し方あるまい」


(辺鄙どころの話かッッッ! 控えめに表現しても“魔の巣窟”だろうが!)


 豪商バルトロメウスの喉元まで、出掛かけたツッコミ。

 辿り着くまでの泥濘(ぬかるみ)、光を拒む森の闇、飢えた眼光、領民の野蛮さ……思い出すだけで、めまいがする。


(なんだ、この領主。実は寛容なのか、それとも気まぐれか。いいや、実はなにか計算している? ……まるで読めぬ、どういう振る舞いだ?)


 豪商バルトロメウスは、ますます深読みを始めた。


「これはなかなか、刺激的な商談になりそうだな。なあ、バルトロメウス?」


 背後に控えるは、墨色髪の冒険者。

 こともあろうに面白がって、低く笑う。


「……うるさいぞ、静かにしておれ」

「そう言うなよ。オレ以外に、卿を守れる男がこの場にいるか?」

「ぬぬぅ……余計な口を叩くでない」


 男の肩書きは、表向きこそ冒険者。

 だが、その正体はボリマッシュ商会が抱えるなかでも“劇薬”の(たぐい)だ。

 他の護衛たちが、ヤバマーズの洗礼に腰を抜かし、総じて使い物にならなくなった結果……皮肉にも、この男だけが平然とここに立っている。


「おや。……そちらの御仁は?」


 案の定だ。アスタ男爵の視線が劇薬を捉えてしまった。


(そうだろうな、血の気が多い男同士で惹かれ合うと思ったのだ。やめてくれ、どうかこちらにまで注目しないでくれ)


 祈る、バルトロメウス。


「……私を警護する、ただの冒険者ですよ」

「ほう。冒険者……ね」


 アスタ男爵は目を細めた。

 されど、声色に不愉快さが含まれる。


 これは不味い。

 バルトロメウスは火の粉を払うべく、刺激せぬよう付け加えた。


「アスタ男爵。この者は、正しく“冒険者”なのです。けして、無頼の徒ではございません」

「……というと?」

「七大神の聖地を巡礼し、各地の教会にて奉仕活動に従事した実績もございます。……ほら、あれをお見せしなさい」


 墨色髪の冒険者は、皮肉めいた笑みを浮かべつつも、応じた。密かに首から下げていた聖勲章(メダリオン)を取り出す。

 鈍い円盤には、過酷な巡礼地でしか刻めぬ、特殊な印がいくつも並んでいたのだ。


 すると、アスタ男爵の値踏みするような視線は――より鋭く切り替わってしまった。


「このご時世、聖地に背を向けぬ巡礼者。……なるほど、それは“本物の冒険者”だな」

「もちろんです。冒険商人としても、名を馳せたこのバルトロメウス。傍に置く者も厳選しております、人材も偽物は扱わぬのです! そう、ボリマッシュ商会の名誉にかけてっ!」

「それはそれは! なんと素晴らしい御心構えだ。あなたのような清廉な商人ならば、こちらも信を置けるというもの」

「……光栄の極みでございます」


 息詰まるような応酬を、さらりとかわす。

 

 アスタ男爵の警戒は、至極真っ当でもある。

 “冒険者”という肩書きは、野心的な冒険商人マーチャント・アドベンチャラーズを指すラベルでもあるが、同時に薄汚い身分を隠す、便利な方便にも使われるのだ。


 例えば、傭兵。

 金で信義を売り飛ばし、明日には盗賊に成り下がる連中。この名称(ラベル)を、公で口にするには、あまりに下品が過ぎる。


 だが、そこに“冒険”という騎士物語めいた装飾を施すとどうだろう? 

 貴族もまた、体裁を以て受け入れることができるようになるのだ。名が変われば、解釈までも変わるのが社会というもの。


(ククク。されど、この者は聖王教会の認可を持つ、巡礼冒険者っ! 教会の権威を盾にするアスタ男爵にとっても、無碍には扱えぬだろうなっ!)


 ――してやったり。

 バルトロメウスは密かに、小さな勝利に安堵した。(勘違い)


 しかし、それ以上の疲労感。

 まだ椅子に座ったばかりだというのに、寿命が数年削り取られた心地。


 商人たちからも、次々にため息が漏れる。


 それを見て、何を思ったか。

 うーん、と考えこんだアスタは、ポンと手を叩く。


「そうだ、良いことを思いついたぞ! 皆が疲れているのはよくわかったから、商談の前に食事としよう。構わんな、ゲロハルト」

「そう、ですな。……確かに、その方が失礼がないことでしょう。ヘイホー、始めなさい」


 疲れてるのは、お前のせいだよ。(全員の気持ち)

いつも応援ありがとうございます!


「面白かった」「ここが意外だった」といった一言だけでも、作者は画面の前で飛び上がって喜びます。


作品のお気に入り登録や評価も、執筆のガソリンになりますので、ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ