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ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右
第二章:破滅迫る、ハッタリ男爵投資劇。 ~“君がためのサキオン”になりたい~

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第76話 我々こそが僻地の王者。骨の髄まで思い知れ。

 ついに、ヤバマーズ・フルコース完成っ!

 これで迎え撃つ準備は、盤石に整ったわけだ。


「よお、オノレ。会食のフルコースが完成したんだって? 間に合わないかと思ってひやひやしたぞ。さすがは我が親友(とも)、期待を裏切らない男だな」


 労いがてら、気軽に声をかけた。


 しかし、魔物食材と散々格闘させられたオノレは、とうに精神崩壊。

 焦点の合わない眼をギラつかせると、僕の胸倉を掴み上げてきた。


「いいかいっ! 俺が御前会議にのぼり詰め、法学士を牛耳った暁には……『提供料理の材料と産地明記をする法律』を作ってやるからなっ! そして、ヤバマーズ産は絶対に食べないっ!」

「おう、壮大な目標だな。がんばれよ」


 怒ったオノレに、冷ややかに返す。


 千年経っても無理だよ、そんな法律。


 秘伝を隠したい料理ギルドに、混ぜ物で暴利を貪る大商人。

 関税を誤魔化したい地方領主に、調理過程を蔑む高位貴族。


 社会の隅から隅まで。

 底辺民から、雲の上の貴族まで、み~んな嫌がるはずだ。


(まさに八方ふさがりだ。人間が人間である限り、そんな時代は絶対に来ないね。……まあ、そう思っても言わないのが、僕の優しさだが)


 僕は、友人を無意味に論破しない主義だ。

 議論に勝つ快感はたまらないが、仲間に恥をかかせるやつがいたら、とんでもない阿呆である。

 背中から撃たれても、文句は言えない。


 歴史を紐解いても、仲間をボコボコにして状況が良くなった例なんて、砂漠でダイヤモンドを探すより困難な話だろう。


「あっ、そうだオノレ。大事なことを忘れてた」

「……なんだい? 君のその憎まれ顔に、羽ペンを突き刺す前に言ってくれ(殺意)」

「本番のディナーだが。お前も当然、ゲストと一緒に食うんだぞ?」

「なん、だってぇ……!?」

「いや、ラプラス伯爵家の交渉窓口として立つんだろ。よっ、我らが栄光ある筆頭スポンサー殿♪」

「……ぐ、ぐぐぐぐっ!」

「まさか、自分たちの看板を背負った会食で、一口もつけずに残す……な~んて、不作法しないよな?」


 すると、再びオノレが発狂。

 陶器の皿を叩き割りそうな勢いになったので、放置して立ち去ることにした。


 理論派の天才も、案外脆い。

 まあ、今のは作戦遂行上、避けては通れない論破だったから仕方ないよね。だから、セーフだ。



***



 とうとう布陣の最終確認、目指せ玄関ホール!


 そこには、普段は森で獣を追っている粗野な猟兵(シャスール)たちが、一堂に会していた。


「若様。……皆、こちらに出揃っておりますぞ」


 横に控えるのは、老執事ゲロハルト。


 ふと視線を落とすと、爺の革靴は鏡のようにピカピカに磨き上げられていた。

 リュスからの指摘が、よほど骨身に染みたらしい。


「うむ。仕事が早いな。感心したぞ」

「これもまた、領地の未来を賭けた戦だと聞きますれば。この爺めも、不肖ながらに張り切っております」

「……せいぜい腰痛が悪化して、戦線離脱しない程度に頑張れよ」

「ははあっ、勿体なきお言葉!」


 整列した男たちの先頭に立つのは、鋭い眼光を放つ眼帯のリーダー格。

 さらには賊にしか見えない、筋骨隆々の強面たちがずらりと並ぶ。


「旦那様。こりゃ一体、どういう風の吹き回しで……? まさか、オレ達にまで、ホールの雑巾がけでもさせようって話じゃねえでしょうな」

「んー。お前、とりあえずその汚いヒゲを剃れ」

「ヒ、ヒゲを!? 男の誇りを剃れとおっしゃるんで!?」

「そうだ、ツルッツルにしろ」

「ええっ……?」


 貫禄がなくなるから、みんな嫌がるんだよな。髭剃るの。


「で、貸し出す特注の鎧を着て、柱の前に彫像みたいに突っ立ってろ」

「……こいつは、何の罰ですかい? あれか密造酒を売りさばいた件か?」

「密猟以外の余罪を自白すんなバカ! あと……ちょっと、試しに笑ってみろ」

「へ? 笑う?」

「そうだ、にこやかにな」

「こうですかい?」


 ニカッ。

 剥き出しになった犬歯、凶悪な三白眼。


 ヒィッ、怖すぎるっ!?


「お前、今、僕を威嚇したな? 反逆罪で処刑すんぞ」

「笑えって言ったのに、理不尽ですよ旦那様っ!?」

「もういい、お前ら全員、今日一日は絶対に口を開くな」

「はあ? その口を開くなってのは……?」


 もうっ! 物分かりが悪い奴だな!


「要するに、だ! お前らが綺麗な御べべ(リバリ―)を着て、紳士のフリさえしてれば、ヤバマーズに金が唸るほど入るんだよ! そしたら、良い酒も飲める!」

「「「そんな美味い話がっ!?」」」


 現金な連中だ。

 下品な笑みを浮かべて浮かれては、品性の欠片もない指笛を鳴らす。


「おいおい、金ってたくさんあったら唸るのかよっ!」

「いや、知らなかったぜ。見たことねえからなぁっ!」


 ……マジで、お行儀良くさせないとダメだな。こりゃ。


「本当に、黙ってろよ? 余計なことすんな」

「でもよぉ、旦那様。さすがに微動だにしないってのは、キツいですぜ」

「そうだそうだ! 動かねえってのは、性に合わねえよっ!」


 ジッとしてるのは無理か、こいつら。

 そりゃ、それが出来るなら、もう少しまともな仕事してそうだもんな。


「ふむ。なら、それこそ、適度に商人(キツネ)どもとその護衛を威圧してやれ。余計な悪だくみする気を失くす程度に、な」

「おっ、メンチ切れってコトですな。そいつはいい、大得意だぜっ!」


 自慢の筋肉をピクピクと波打たせ、気合を入れる猟兵(シャスール)たち。


(ちげーよ。そうじゃねえよ。ここが、山賊の根城だと思われるだろうが。ならず者博覧会かよ)


 でも、まあ。

 ……うちはこんなものでいいのかもしれない。


 さあ、それから一刻ほど。

 使用人たち全員に身を整えさせて、集合させる。


 集まった全使用人たち――付け焼刃の教育を受けた村人たちを見渡せば、男も女も、借りてきた猫のように緊張していた。


(だが、流石に壮観だな。なんだ、凄いことになったな)


 揃いも揃って、ヤバマーズの紋章色(リバリーカラー)

 そして、共通して……みな野心が宿っている。


 なんだか、呑み込まれそうになった。


 ここから先は、未知の領域だが。

 皆が、なにかが変わるかもしれないと、胸に希望を抱いているのだ。


(本当に、領主ってのは重いんだ。いや、わかっていたはずなんだが……)


 すると、老執事ゲロハルトが、頷いてくる。

 給仕役のヘイホーも、メイドに扮したジルも、疲れた様子のオノレも。


 ――僕の、憧れのリュス。

 祓魔女(エクソシスター)として、法衣服をまとった貴女も。


 コホン、と一つ咳払い。


 僕は全霊、声を張り上げる。


「皆の者、アレを見よ!」


 視線が一斉に、上部へ。

 女たちが総出で仕上げた巨大なタペストリーが、メインホールに掲げられていた瞬間だった。


「さあ、今こそ。決戦の時。我々ヤバマーズこそが、この僻地の王者であることを! 欲深き商人たちに、骨の髄まで思い知らせてやるぞ!」

「「「「うぉおおおおおおおおっ!」」」」


 地を揺らすような咆哮。

 男も女も、猟兵(シャスール)も老執事も関係ない。

 館を震わせる、雄たけび。


 僕らの目的はただ一つ。この領地の、僕たちの繁栄。

 今こそ、極貧の領地を、耐え忍んできた歴史を、僕らの代で変えてやる。

 そんな熱量こそが、館を震わせた。


 ヤバマーズ男爵家の館は、今、オノレ直伝の厚化粧を施され。

 かつてないほどに荘厳な(ブラフ)を纏っている。


 裏方を、守る肝っ玉母さんたちも、準備万端。


 門にも廊下にも、屈強な男達。布鎧に身を包んだ猟兵(シャスール)たちが、直立不動。


 彼らがお行儀よく、口を真一文字に結んでいる限り――。

 このオンボロ屋敷は、鉄血の規律が支配する難攻不落の要塞に見えた。


「さあ、もう何にも負ける気がしないっ! かかってこい、商人ども!」

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