↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化進行】ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右
第三章:崩壊寸前、厄ネタだらけの改革劇。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
197/197

第197話 激突、破裂、汚ねえ花火。窒息の抱擁を君に。

 大激突。だが、ヤバマーズの湖畔で起きた事象は、たった三文字で片付けるには、あまりに凄絶。


 ――ズ、ドォォォォォンッ!!


 海魔クラーケン。帆船をも沈める巨躯は、推定数百トン。まさに生ける肉島。

 その凶悪なる肉島が、一切の減速なしの魔速にて、古代エルフの不朽の壁――エルヴン・コンクリートのダム壁へ、真正面から突き刺さっていく。


 まず、ダムの表面から、コンクリート片が散った。

 そのままダムが壊れるか? 誰もが崩壊を予感した。


 しかし、崩壊したのは壁ではなかった。


 まず、巨大な胴体が慣性によって、押し込まれひしゃげ潰れた。メキメキ軋み、ベチャリと歪み、黒い巨皮が裂け、触手が弾けた。

 前へ、前へ。肉が、体液が、津波となって舞い上がり、なおも迫る肉は止まらず、さらに肉自身を押しつぶす。

 速度の二乗、生まれた破壊エネルギーは、内臓を破裂させ、心臓をもぶち壊した。


(うわあ……汚ねえ花火じゃん)


 宙を舞うヤバマーズ・イカサマー号から、見える光景。

 そう、僕らの背後で起きたのは――数百トンの水とタンパク質で構成された、巨大肉爆弾の爆砕だった。


 そんな花火を眺めながら、僕たちは天端へと不時着。

 

 ――ガシャン、バリバリバリッ!!


 イカサマー号は石床を滑り、火花を散らしながら崩壊。

 僕、オノレ、リュスの三人は、もつれ合うようにして数回転。


「ゴホッ、ゲホッ……!」


 肺の空気がすべて押し出され、視界がチカチカと明滅。

 倒れ込んだ僕の身体を、リュスが身を挺して抱きとめていた。


「おい、リュス!? なにをしてる!?」

「わたくしには、聖騎士の血清(パラディン・セーラム)がございます。ご心配には及びません」

「いや、だからって! 貴方が怪我をしていいとはならないだろ!?」


 痛む身体を無理やり起こし、リュスの安否を確認。

 指先で触れ、食い入るような視線で――そうして、僕たちの視線が絡み合う。

 暗渠(あんきょ)の瞳と、熱を帯びて交差した。


「……アスタ様」

「頼むよ、リュス。……僕のために傷つくのはやめてくれ、心が持たないんだ」


 すると、オノレが這いずりながら呻いた。


「……うう、死んだ。俺、今日だけで五回は死んだ気分だよ」

「なんだよ、オノレ。生きてんなら、結果オーライだろ」

「ちょっと! さすがに扱いが違い過ぎないかい!? あー、もう決めた。君との共闘はこれが最後だ。二度と付き合わないからね!」

「おいおい、ケチくせぇやつだなあ。僕らは一蓮托生の盟友(とも)だろ?」

「ねえ、今ケチって言ったっ!? 俺、ここまで身体を張ったのに!? だいたい、ボートがジャンプするなんて聞いてなかったよ!」

「ガタガタ抜かすな、確かに予定にはなかった。……でも、なんとかなったろ?」


 だが、僕たちが安堵するヒマなどなかった。

 浮かぶサキオンが、警告する。


「――起ち給え、七代目。未だ決着はついておらぬ」


 ダムはほとんど無傷。

 表面が浅く削れ、へこみ、コンクリート片が弾けた程度。


 だが、その壁面をズズズッと血痕を引きずりながら、潰れた巨体が蠢いている。


「アスタ男爵ッ! 見よ、バケモノがまだ生きているぞ!」


 フェルディナンが絶叫した。


 痙攣し悶え、のたうち回るクラーケンが、なんと呼吸を再開したのだ。

 驚異的な再生能力。黄色い眼球が、憎悪を込めてこちらを睨む。


 声を張り上げ、僕は命じる。


「再生を許すな! ジル、奴が湖底へ逃げる前に仕留めるぞ!」

「わかってるっす。アスタ先輩の作戦、ここからはうちらに任せるっすよ」


 ジルの役目は、現場の小指揮官。

 応急処置で固定された義足で動き出す。


「皆わかってるっすよね?うちの指示通りにするっす!」

「ははぁっ!」


 現場の猟兵たちも、難民たちも一丸となって動き出す。彼らが抱えていたのは、いくつもの大樽。

 リュスが、僕の袖を引く。


「アスタ様、これは……」

「悪路で、荷物や火砲を持ち運ぶのは難しいだろ? でも、もし、増水で使える水路が伸びたらどうだ?」

「それこそが洪水寸前まで、作戦を遅らせた真の意味……!?」

「そうだ、水路ってのは――輸送が最強になれる条件だろ」


 そう、僕の作戦とは――囮と輸送の同時遂行。

 イカサマー号で魔物たちのヘイトを稼ぎ、本隊がダムへ布陣する。


 イカダさえあれば最前線に、人も物資も送り届けられる。湖の水位上昇という絶望的な状況こそが、僕らの逆転劇への布石。


「しかも、今の僕たちには……少数部隊を率いられる面子が、ゾロゾロと揃っちまったろ。そこに『警戒鳥(カナリア)の籠』による探知と来た。お膳立てはバッチリだ」


 ジル、フェルディナン、ウーティス。どいつもこいつも扱いに難がある外様人材だが、小指揮官としてはまあ強い。

 とはいえ、この水路輸送計画の策定には、猟兵からの情報収集だけでは不十分で……。


「古代エルフの遺跡ともなれば、邀撃(ようげき)の砦に不足なし。未熟者の割に悪くない機転ではないか、感心したぞ。七代目」

「うっせ、黙って見てろ。サキオン」


 ムカつくことに、我が先祖の知恵も欠かせなかったんだけどな。

 こいつ、船に詳しいどころじゃねえ。地形を見た瞬間に「ここは船をどう通せて、どこでなら荷を下ろせるか」まで分析しやがる。

 かつての西海岸の子爵領で、人と物を動かしてきた経験ってやつか。それとも、各地を巡って身につけた知見か。


 どっちにせよ、僕みたいに「水があるなら運べるじゃん!」なんて思いつきから始めるのとは、レベルが違ったわけだ。


「よおし、みんな一気に流しこむっすっ!」


 ジルの号令と共に、十数個の樽が一斉に傾けられる。


 ――ピチャッ、ベチャチャチャチャッッ!!


 滝のように溢れ出したのは、ドロドロした半透明の塊。

 それこそが僕が事前に、猟兵たちにかき集めさせた――スライムだ!


「うへぇ……汚らわしい。なんて冒涜的な作戦だよ」

「ほほう? 実に面白い男だな……卿(けい)は」


 オノレがドン引き。

 巡礼冒険者のウーティスが嗤うが、そんなものはぜんぶ無視。


「いいから、よく見ろ! スライムの真の恐ろしさは、貪欲さじゃない」


 さあ、高所から投下されたスライムたち。

 本来、スライムは温厚な分解者に過ぎないが、衝撃とともに巨大な捕食者の体表に触れれば話は別。


 ――シュワァァァァァッ!!


 透明だった水面が、一瞬にして糸を引く白濁液へと変貌。

 ドロドロの粘液が動きを阻害し……呼吸器官であるエラにまで、流れ込んでいく。


「ゴブッ、ブフッ……キュッ!?」


 あまりの光景に、聖騎士ロダンが吠えた。


「うぁぁぁああっ!? なんだ、このヌメヌメ地獄はぁあああ!? 見てるだけで鳥肌が立つ! 吾輩には耐えられんぞっ!?」

「いや、本当にデリケートな奴だな、おい……」


 僕は、一応解説してやる。聞こえてなさそうだけどな。


「スライムはなあ。強いストレスを感じると、体表の粘液腺から粘素(ムチン)を一気に分泌するんだよ。その粘素(ムチン)はな、水分を吸収し、数倍どころか数十倍の体積へと膨れ上がる!」


 スライムの狩猟と防衛。

 それは敵を窒息させることがスタート。獲物の動きが止まって、安全を確保してからゆっくり溶かしていくのだ。


 そして、対する海魔クラーケンの弱点こそ――。


「呼吸だ。アイツはあの巨体を動かすのに、エラ呼吸に依存している! 複数ある心臓も、強靭な筋肉も、息が出来なければただの重し! 再生力が高すぎて殺せない? なら、僕は……機能停止を狙ってハメ殺す」

「……いちいち発想が、エグいんだよなあ」

「さすがはアスタ様ですね。思い付きだけで、常識を破壊されます」

「あれ? 僕、褒められてる気が全然しないぞ??」


 それはどこまでも絡みつき、ねっとりと吸い付き、決して剥がれることのない窒息の抱擁。


 必死に触手を振り回すクラーケン。

 だが、もはやその動きに力強さも鋭さもない。急速に進行する酸欠に、思考も運動機能も白濁の沼へ消えていく。


「辛そうだな、クラーケン。哀れには思うよ……でも、悪いな。こっちだって生き残るために必死なんだよ」


 苦しみあがき、なんとかして逃亡を図ろうとするクラーケン。

 だが、その逃げ道すら、僕は塞いでいた。


「……蒸気銛砲《ヴァプール・ハープーン》、撃てぇッ(フォイア)!」


 重すぎて運べない(・・・・)。

 そう笑われた失敗作兵器が、今、轟然と火を吹いた。

いつも『ヤバマーズ』を応援していただき、本当にありがとうございます!

本日は皆様に嬉しいご報告がございます。


本作『ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~』について、書籍化の打診をいただきました。


これに伴い、書籍化に向けた改稿や準備作業に入るため、今後の本編更新ペースがゆっくり、かつ、不定期になります。

(実は、最近の更新ペースにはこういった事情もありました)


読者の皆様に、より面白い『ヤバマーズ』をお届けできるよう精一杯頑張りますので、気長にお待ちいただけますと幸いです。


今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

さらなる詳細は、然るべき時期に告知させていただきます。


===


「面白かった」「ここが意外だった」といった一言だけでも、作者は画面の前で飛び上がって喜びます。

作品のお気に入り登録や評価も、執筆のガソリンになりますので、ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
書籍化進行おめでとうございます!毎日投稿が途切れてしまったのは、そういう背景があったんですね。書籍化作業大変だと思いますが、楽しみにしてますので、無理ない範囲で更新していただけると嬉しいです〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。