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【書籍化進行】ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右
第三章:崩壊寸前、厄ネタだらけの改革劇。

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第196話 空前絶後の大うつけ。烏より高く、烏賊よりイカす、飛べよイカサマー号。

 リュスの声に、僕の脳細胞は一気に沸騰。


「進路変更! 時間稼ぎは終わりだ、一直線にダムへと急げッ!」


 水没林に隠れ、時間を稼ぐ小細工はもうやめだ。

 このままじゃ、いずれは端に追いやられ潰される。


「だけど、アスタ! ここからダムまでは水深も深い、見晴らしがいいエリアだよ。そんな場所で直線勝負を挑むなんて、“どうぞ召し上がってください”と言うようなものじゃないか」

「わかってるよ、オノレ。……だからこそだ。奴に追いかけさせる、させなきゃならん!」


 安全に逃げ切るだけなら、迂回をすりゃいいかもしれん。

 だが、僕らには今、勝負するしかない理由がある。


 ヤバマーズが湖に沈む前に――すべての決着をつける!


「イカを釣りたいなら、餌をちらつかせるっきゃないだろ! 奴をダムまで誘い出すには、このルートを通るしかない!」


 僕は知っている。クラーケンは賢い。


「僕らが一番恐れるべきは――奴が追いかけっこを諦めることだ!」


 これ以上、浅瀬をちんたら逃げ回れば、奴はいずれ追跡をやめて深みへ潜り込んでしまうだろう。


 奴にとっての最強の勝ち筋。

 それは、のんびり湖の氾濫まで待つこと。

 一度、徹底的に守りに入られれば、もはや勝ち目はない。


「だから、このヤバマーズ・イカサマー号というボロ船が壊れる前に、奴の全力を引き出す必要があるんだよッ!」


 身体に流れるヤバマーズの血が、ここで日和るなと騒ぎ立てる。

 勝負に出ろ、と。崖っぷちからの大逆転を目指せと。


「だから、僕は行く」


 すると、眠る血脈を裏付けるように。

 宙に浮かぶサキオンが、高らかに笑った。


「クク、七代目よ。誠、その意気やよし。将に盤石に挑める戦無しッ! 後顧の憂いなき人生もまた無しッ!」


 サキオンが張り上げるのは、僕に呼応する熱き声。

 なにが、そんなに琴線に触れたと言うのか。


「民に飯を食わせたいがため! 天災にも等しき怪物に挑む、空前絶後の大うつけよ。――その笑える野心を貫き通せ。貴様という男の生き様を、己(おれ)に見届けさせよッ!」


 僕は、船べりを叩いて答える。

 自然と、同じ笑みが浮かんだ。


 ふてぶてしい、自分が負けることなんて考えない笑み。


「……お前に言われなくても、やるに決まってんだろ。バーカ」


 ――ズブァァァァァンッ!!


 湖面が爆発、海魔クラーケンが急回頭。

 浅瀬の迷宮から脱した獲物を逃すまいと、巨躯をうねらせ浮上する。


 理論の天才、オノレは地図と地形から予測。指を差した。


「まったく、君はいつもこんな無茶をしてるのかい!? いいかい、あのポイントだ。あの水域で、一気に水を吸い込むはずだ」

「よぉし! オノレ、カウントを頼むぞ。リュス、こちらも第二形態準備ッ!」


 僕の指示に、リュスは頷く。


「はい、アスタ様」

「いいか。タイミングが遅すぎても、早すぎてもダメだ。……貴女の操作に命運がかかってる」

「わかりました。……必ずや、やり遂げてみせます」


 オノレの秒読みは、ウロコの疼きと見事にシンクロしていた。

 海魔クラーケンの気配が、次第に膨れ上がっていく。


「9(ヌフ)、8(ユイット)、7(セット)、6(シス)……」


 ズ、ズズズズズ……ッ!


 外輪が水しぶきを上げて回転、イカサマー号が波をあげて進む。

 そこへめがけて、ビリリッと飛ぶエネルギーの胎動。魔素を代謝する怪物が、僕らを睨みつける攻撃的な意志。


「……2(ドゥ)、1(アン)、0(ゼロ)!」


 クラーケンが体内へ溜め込んだ膨大な水量が、一気に後方へ。漏斗から湖水が一気に噴射された。


 ――ブボォォォォォォォォッ!!


 大海の主が見せる、神速ならぬ魔速の突撃。

 だが、こちらも同時。


「クラーケン式(・・・・・・)ジェット推進、開始しますっ」

「二人とも、ぜったい振り落とされんなよッ!」


 ――キィィィィィィィィィィンッ!!


 結晶の歌声が、悲鳴へと変貌。

 それは敵であるイカのジェット推進を模倣した、黒銀結晶(クロシュライト)によるウォータージェット。

 イカサマー号のシリンジに貯められた高圧水が、超臨界状態に達し。高密度かつ膨大な膨張エネルギーと化して一気に解放っ! 


 ドカンと揺さぶる衝撃。

 これまで経験したことがない、凄まじい重力が襲ってくる。

 イカサマー号の船首がガバッと跳ね上がり、水面をバウンドしながら猛加速。


「うぁああああああっ!? 壊れる! 船が壊れるよぉぉぉっ!!」

「オノレ、防護障壁を最大展開しろ! 船体がバラバラになるのを防ぐんだ!」

「やってるよっ! もう死ぬ気でやってるよぉっ!!」


 ミシミシッ、バキバキッ!

 木材、鉄板が悲鳴を上げる。河川用のボートが到底耐えられる速度ではない。


「頼む、もってくれぇええっ!」


 左手を船首に伸ばし、必死に水の抵抗を『三日月の刃』で切り裂き続ける。

 クラーケンの人知を超えた魔速に対し、イカサマー号は命を削る爆速で応戦。


 迫る、灰色の霧の先。すぐそこに壁が迫ってくる。

 天辺には、豆粒のように小さな人影がいくつも並んでいた。


「旦那様ッ! こちらです、こちらですぅぅっ!」


 猟兵たちが必死に旗を振り、巡礼冒険者ウーティス一行が武器を掲げている。

 顔を真っ赤にして叫ぶジルの姿。ドラクロワ男爵領から来た難民までが、祈るようにこちらを見つめていた。


 だが、その行く手を阻むように。


「アスタ様!? 魚人たちが……防衛ラインを築いています!」


 ダムの根元、ゾロゾロと這い出してきたのは、魚人の軍勢。

 十、二十、並ぶ魚人の瞳に、僕らのボートが映った。


「最終防衛ラインっ!? てか、巻き込まれて死ぬ気かよッ!?」


 どいつもこいつも、クラーケンの突進に巻き込まれれば肉片になるはずだ。

 なのに槍を構え、不気味な肉壁として進路を塞ぐ。


 退路なし。

 逃げ道など、どこにも存在しない。


 背後からは、猛追してくる海魔クラーケン。

 正面には、鎧の如き鱗を纏った魚人軍勢の肉壁。


「オノレ! ジャンプ台(・・・・)をつくれ!」

「ジャンプ台!? そんなのバカげて……――相転移、氷結術式ッ!」


 僕の狂気めいた命令に、オノレが銀細工の杖を振るった。


 イカサマー号の目の前、水面がバリバリ音を立て凍りついて隆起する。

 それはさながら、斜めに鋭く傾斜した――氷のジャンプ台。


「あとは、突入速度さえ足りれば――!」

「――アスタ様、ご無礼をお許しください」

「リュス、急になにを!?」


 リュスが、恢復聖剣レストラシオンを引き抜いた。


 ――スパァァァンッ!!


 操舵輪を足で固定したまま、流れるような動作で一閃。

 刃が、蒼白い軌跡を描く。


「只今、在ってはならぬ未来を……斬らせていただきました」

 

 ボートの両脇、推進用の外輪が根元から鮮やかに断ち切られ落ちた。

 それは、もはや加速の抵抗を増やすばかりだったパーツ。


「そうか! でかしたぞ、リュス! あとは……飛べよぉぉぉおおおッ!!!」


 左手のウロコが、一気に熱くなる。

 引き寄せ、そして――最大出力の『斥力』を、氷山へと叩きつけるっ!!


 ウォータージェットの噴射圧。氷の滑り台。ボートの軽量化。

 そして、僕の放つ異能の反発。


 すべてが噛み合った瞬間。

 ヤバマーズ・イカサマー号は、遂に天へと舞い上がった。


「――飛んだ!?」


 オノレの絶叫。

 かたや風に髪をなびかせ、可憐に微笑むリュス。


 僕らは空を翔け抜ける。

 唖然と。槍を掲げる魚人たちを見下ろし、ダムの天辺を目指して躍動。


 コンマ数秒。

 僕らのいた空間を、クラーケンが容赦なく蹂躙する。


 ――ドォォォォォォォォォンッ!!!!!


 氷のジャンプ台が、魚人たちもろとも粉々に砕け散る。

 だが、クラーケンの勢いは止まらない。

 いや、止まれるはずがないのだ。奴にブレーキなど存在しない。


 クラーケンは人知を超えた魔速のまま、無防備に――悠久なる古代エルフの大壁へと、正面から大激突した。

いつも応援ありがとうございます!


「面白かった」「ここが意外だった」といった一言だけでも、作者は画面の前で飛び上がって喜びます。


作品のお気に入り登録や評価も、執筆のガソリンになりますので、ぜひよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
おぉ、まさかイカの推進力を利用して、イカを倒す作戦とは。こちらから決定打を打てないなら、相手の力を利用するということですね。あわよくばダムも破壊して、湖の水を流すという作戦でしょうか。 暑い日が続きま…
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