↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化進行】ヤバマーズ ~毒喰らい男爵の人生逆転劇~  作者: 裃 左右
第三章:崩壊寸前、厄ネタだらけの改革劇。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
153/200

第153話 こいつがイカを殺す攻略本? 人間は嘘つき、物理法則は嘘つかない。(前半)

 勝てなかった理由は、油断や慢心じゃない。


 僕が“イカ”という未知の生命体を。

 奴が潜む“環境”というものを理解できなかったからだ。


 考えてみれば、僕がこれまで戦って来た魔物は、元をただせば熊だったり植物だったりしたわけだ。

 だから、歪(いびつ)に変異していても、ベースとなる性質や弱点の予想が出来た。


 そして、なにより。

 それらはすべて、“森”という知り尽くしたフィールドの範疇から、逸脱してはいなかったんだ。


 だから、限られた情報からでも、妥当な一手を探ることが出来たんだ。

 だけど、今回は――。



***



「ねえ、アスタ。これ、本当に勝てるんだよね?」


 乾いた霧が立ち込める湖畔に、布陣するヤバマーズ軍。


 青い前髪をいじり、問いかけて来たのはオノレだった。


 そう、今回の作戦はヤバマーズ男爵家単独ではない。

 正式な同盟――黒銀結晶(クロシュライト)の利権共有――の元に行われる初の共同作戦なのである。


 ついに……ついに、だ。

 僕は今回、理論の天才のオノレを前線に引っ張り出すことが出来たのだ。彼を、ラプラス伯爵家の名代として。


「ふはははは、なにを弱気なことを。オノレ、僕とお前がコンビを組んで、負けるわけがないだろう!」

「……逆にさ。初参戦で負けたら、俺、めちゃくちゃショックなんだけど?」

「いーや、勝つね! 僕の勘がそう言ってる!」


 僕は胸を張って、断言する。

 

 でも、嘘だ。

 別に、勝ちを確信しているわけではない。


 現状の情報が出揃ったから、まずは戦う。そういう状況。


 それでも、僕は率いる立場。自信ありげに振舞う義務がある。

 不安があるからって、不安そうなツラが許されるのは……下っ端だけだからな。


 すると、オノレは冷めた目で手元の杖を触って。

 ぽつり、問いかけて来た。


「……ちなみにさ、ヤバマーズの血はなんて言ってるの?」

「え?」

「ほら、アスタがいつも言ってるじゃないか。ヤバマーズの血が騒ぐとかなんとか。あのオカルトっぽいやつ」

「いや……別に、今回はうんともすんとも言ってないけど?(そこは正直)」

「あー、そっか……。やっぱり、そういう感じか」

「なんだよ、やる気出せよ! 今回、お前が作戦の要なんだよ!!」


 僕はパラパラと、記録の束を捲った。


「伸びてくる触手を大砲で吹き飛ばし、動きが鈍ったところを電撃と火炎で仕留める。――概ね、そういうことだろ?」


 作戦は、実にシンプルだ。

 僕は……それが可能なだけの準備を整えればよかった。


「……集まった記録を要約すれば、ね」

「だから、僕はその通りにハメ殺してやる。そういうことだ」


 命知らずな船乗りが、遭遇した事件。

 軍人や冒険者たちが挑んだ――惨敗と勝利の交戦記録が綴られている。


 その数少ない勝利報告を参考にしたのが、今回の作戦だった。


「うーん。一応、黒銀結晶(クロシュライト)の熱量を、電気に変換する術式は用意したけどさあ……」

「なら、問題ないじゃないか。森なら魔素が濃いから、魔術の展開もスムーズ。燃料はジルが量産してくれた。いけるいける!」

「だといいけどね」

「おいおい、オノレ。お前が手を尽くし、集めてくれた情報だろ?」

「でも未検証だ」

「こんな検証なんて、実戦でしか出来ないんだよ。……でも、どの弱点も、真っ当に考えたら生物には致命傷になりえるじゃんか」


 しかし、オノレはため息。

 だからやめろ、みんなの士気が下がるだろうが!!


 そんな風に、僕たちが作戦の最終確認をしていると。

 ――ふと、熱烈な視線を感じた。


 視線の主は、どこか物言いたげなリュス。

 まあ、彼女からしてみれば、“私には確かな伝手があるのに、どうして頼ってくれないのか”という心境なのかもしれないが。


(リュスが心配なのもあるけどさ。今、下手に外国と繋がる動きを見せたら、いよいよヤバマーズ領の立場も危ういかなって気もするんだよなあ)


 それこそ、安全な情報ルートが確立できれば別なんだが。


 すると、ジルが横から覗き込んで来た。

 ポニーテールが揺れる。


「へえ。その記録、面白いっすね。なになに……“クラーケンは、腐ったサメの臭いを嫌う”……なんすかそれ、マジっすか?」

「さあなぁ、どこぞの船乗りの手記に残されていたらしい。“強烈な悪臭の撒き餌を投げ込んだら、化け物がたまらず逃げ出した”ってな」

「……それ、たまたまクラーケンが、別の獲物を見つけたとかじゃないっすか?」

「僕もそう思うがな」


 この手の記録は、“こいつから見たらそうだった”という主観に過ぎないから。


「だけどさ。こういう一見、突拍子もない馬鹿げた主観のなかに、突破口が隠れている場合もあるんだよ」

「ふーん、そういうもんすか。でも、さすがに“クラーケンが竪琴で大人しくなった”ってのは嘘でしょ。いくらなんでも情緒豊か過ぎるっす」

「それはそう」


 繊細な竪琴の音色に聞き惚れて、怪物が大人しく引き下がる。

 そんなメルヘンは、あり得ないだろう。


「別に、人類だって……音楽を聞けば戦争が止まる、なんてことはないしな」


 もし、そんなことが可能なら、世界はとっくに平和になってる。

 どれほど魂を揺さぶる演奏を聞いても、争いはなくなりゃしない。


「まっ、仮に芸術なんかで、バケモノが改心するってなら……人間の情緒はバケモノ以下ってことになっちまう」


 そう。イカだけに、な。(どやぁ)



***



 ――ドォォォォンッ!!


 鼓膜を震わせる衝撃。

 僕のアイディアを元に、ジルが設計した渾身作。


「一瞬で、武器になるレベルの水蒸気が出せるってなら――そいつの圧力で、弾丸を飛ばせるに決まってるよなぁああっ!」


 組み立て設置式、蒸気砲(ヴァプール・カノン)。

 火薬などではなく、黒銀結晶(クロシュライト)と水だけで放つ火砲。

 これこそが、僕の考えたとっておき。


 だが――。


「下がってください、アスタ様!」

「効いてない……だと!? 確かに直撃したはず――っ!?」


 いや、まったく効いていないわけじゃなかった。


 圧縮蒸気のエネルギーは、鋼鉄の砲弾を押し出し、湖面から突き出た触手へと直撃。

 肉塊は飛び散り、青白い体液が舞った。


 なのに……弾け飛んだ切断面から、次第に新しい肉が盛り上がる。

 クラーケンの動きのキレに、衰えも見られない。


「ぬぅおおおおっ!」


 前線を張る、聖騎士ロダンが大剣を振るい。

 すぐさまジルが、溶融鉄斬(スラリックブレイド)で切断を試みる。


 ――ジューゥゥゥッ!


 肉が焦げる臭い。

 触手の一部は炭化して、千切れた。


 しかし……やはり、結果はそこまでだ。


「アスタ先輩! いくら触手を破壊しても、本体の動きに支障がないっす!」


 たとえ触手を数本焼き切り、千切り飛ばしたところで。

 イカという生物にとって、致命的なダメージにならないらしい。


「くそっ。だが、触手の数は一時的でも減った。リュス、次の指示を頼む」

「はい! ――全員、第二プランへ移行っ!」

「今のうちに、ダメージを叩きこむんだ」

「投擲準備! 投擲準備です、急げ!」


 前線で指揮を執る声が、喧騒で届かない。


 僕が声を張れないというだけで、猟兵(シャスール)たちの動きが鈍る。

 ほんのワンテンポだ。でも、そのせいで連携が遅れていた。


「オノレ様、先に電撃をお願いしますっ!」

「わかってるってば! ――雷鎖術式、展開!」


 黒銀結晶(クロシュライト)が励起、真っ赤に融解。

 オノレが杖を振り下ろせば、青白い稲妻が走りだす。


 ――バチバチバチィィッ!!


 あまりに眩い光。

 視界を焼き、湖水が沸騰して白煙を上げた。

いつも応援ありがとうございます!


「面白かった」「ここが意外だった」といった一言だけでも、作者は画面の前で飛び上がって喜びます。


作品のお気に入り登録や評価も、執筆のガソリンになりますので、ぜひよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。