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22.救出

 外で騒ぎが起こっているおかげか、ビル内の警備は手薄になっていた。

 途中で更衣室らしき部屋を見付け、俺はそこにあった白ジャケットを拝借し、羽織っておいた。

 これで誰かに見付かっても仲間のフリをして誤魔化せる。

 一階を見て回り、さらに階段を上がって二階、三階と調べていく。

 メンバーのほとんどは外の応援に向かったのか、どのフロアももぬけの殻だった。

 確か、ビルは一〇階建てぐらいだったはず。レミアはどこにいるんだ?


 四階まで移動し、通路の突き当たりにあるそこそこ広い部屋にたどり着く。

 中は薄暗く、何か妙な雰囲気だった。薬品が並ぶ棚や、検査用の機械みたいなのが置いてある。医務室か?

 部屋の奥に大きなカプセルが横たわっているのを見付け、近付いてみる。

 半透明のカバーの内部に人間の姿があるのを認め、ハッとする。開閉ボタンを操作すると、カバーが開いた。

 中には、制服姿のレミアが寝かされていた。眠っているのか、目を閉じている。

 顔に耳を近付け、呼吸をしているのを確認し、胸をなで下ろす。


 よかった……生きているみたいだ。最悪の事態は避けられたか。

 レミアは身体中に細い鎖が巻き付いていて、しかも鎖には無数の十字架がくっついていた。

 ……レミアの能力を封じるためか? しかし、このカプセルはなんだろう。拘束するためというよりも、まるで人間を収納するケースのような……。

 考えるのは後だ。まずはレミアを助けないと。

 身体に巻き付いた鎖をほどいてやろうとしていると、不意にレミアが目を開けた。

 ぼんやりとした目で俺を見つめ、ボソッと呟く。


「……計司?」

「気が付いたか。助けに来たぜ。もう大丈夫だ」

 鎖を緩め、肩を抱いて起こしてやる。

 レミアは青白い顔をしていて、まるで元気がなかった。

「しっかりしろ。連中に何かされたのか?」

「……血を抜かれたみたい。身体に力が入らない……」

「なっ……血を抜かれただと?」

 見るとカプセルの基部に透明のシリンダーみたいな物があり、それに血液と思われる真っ赤な液体がたっぷりと収まっていた。

 レミアの腕にチューブが刺さっているのに気付き、慌てて引き抜く。

 このカプセル、血を抜くための物だったのか。吸血鬼から血を抜くなんて無茶苦茶だな。


 ……連中がレミアを狙っていた理由が見えてきたぞ。

 レアな能力者をターゲットにしているのはおそらく……研究用のサンプルにするためか。

 血液をサンプルとして採取する程度ならいいが、それにしては抜いた血液の量が多すぎる。

 公的には認められていない、非合法な人体実験にでも使うつもりか。セイバーズはそういうヤバい研究機関と繋がりがあるのか?


 身体に巻き付いた鎖を全て取り去り、グッタリしたレミアをカプセルから担ぎ出す。

 レミアは青白い顔をしていたが、俺を見つめて力なく微笑んでいた。

「まさか計司が来てくれるなんて……ありがとう……」

「助けに来るに決まってんだろ。礼なんか言うなよ、水くさい」

「……実を言うとね、なんとなく計司が助けに来てくれるような気がしていたの……そんなの、私の都合のいい思い込みだと思ってたんだけど……本当に来てくれて、すごくうれしい……」

 潤んだ瞳で見つめられ、ドキッとしてしまう。


 この吸血鬼女が。いっつもマイペースでやりたい放題のくせに、こういう時だけしおらしくなるなよな。リアクションに困るだろうが。

 思わず目をそらしてしまいつつ、レミアに言う。

「十字架は外したし、能力は使えないか? 身体を再生すれば……」

「血を抜かれすぎたから、無理みたい……暴力女に殴られたダメージは再生できたんだけど……」


 レミアはセイバーズに拉致された際、車に放り込まれた直後、十字架付きの鎖を巻き付けられて能力を封じられたらしい。

 普通の状態なら十字架など大して効かないらしいが、真姫の攻撃を受けた直後で身体に大きなダメージを負っていたため、身体を再生するのが精一杯で拘束から逃れるだけの力が出せなかったという。

 そしてこの部屋に運び込まれ、あのカプセルに入れられて血を抜かれたわけか。ひでえ真似しやがるな……。

 抜いた血を戻せないものかと思ったが、俺にはどう操作すればいいのか分からない。輸血は無理か。


「自力じゃ歩けないか。背中に乗れ」

「うん……ありがとう……」

「だから、礼なんか言うな。このお返しは後でたっぷりしてもらうからな。まったく、世話の焼ける……」

「……照れてるの?」

「照れてねえし! そら、さっさとおぶされ!」

「はい」

 俺が背を向けて身をかがめると、レミアはそろそろと背中におぶさってきた。

 コイツ、信じられないぐらい軽いな。いつも結構食べてるのに。ああくそ、柔らかいな、チクショウ。

 背中に当たる二つのふくらみが気持ちいいが、今はそれどころじゃない。

 レミアを落とさないように注意しつつ、急いで部屋を出る。


 通路に出た所でセイバーズのメンバーと鉢合わせしてしまい、俺は冷や汗をかいた。

「おい、お前! そいつをどうするつもりだ!」

「え、えーと、これはその……別の階へ運ぶように言われて……」

「別の階に? 誰の指示だ。それにお前……見ない顔だな」

「あ、あはは、でしょうね……」

 ぎこちない笑みを浮かべながら、周囲の状況を確認する。

 相手は一人、仲間はいない。武器は持っておらず、丸腰だ。

 ……これならどうにかなるか?


「えーと、実はですね……」

「?」

 事情を説明するようなフリをしながら、さり気なく距離を詰める。

 あと二歩ぐらいで手が届くという所まで近付き、そして……。

「おりゃあ!」

「!?」

 一気に踏み込み、そいつの顔面に頭突きをくらわせる。

 見事に頭突きは決まり、そいつは仰向けに倒れた。

 異能者対処法の一つ、相手が能力を使う前に物理攻撃を仕掛ける。一か八かの奇襲技だが、上手く行ったな。


 顔を押さえてうめいている男をスルーし、急いで階段へ向かう。

 階段を下りようとしたところで、下の方からセイバーズの連中が五人ほど駆け上がってきた。

 そいつらはレミアを背負った俺の姿を見るなり、険しい顔をして叫んだ。

「おい、何をしている! そいつは捕獲した吸血鬼じゃないのか?」

「え、ええと、これはその……実は、俺の生き別れの妹でして……家につれて帰ろうかと」

「そうなのか? それは大変だな……なんて言うわけあるか! さては貴様、表で暴れている連中の仲間だな!」

「く、くそう!」

 つかみかかってきたやつに蹴りを入れて階段から転げ落とし、仕方なく上へ向かう階段へと逃れる。

「ま、待て! 逃がさんぞ、泥棒め!」

「うるせえボケ! 泥棒はお前らの方だろうが!」


 ああくそ、途中までは上手く行ってたのに! やっぱ無理があったか?

 ともかく逃げて、追っ手をかわすしかない。どこかに隠れてやりすごすか。


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