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ひーさんの悲鳴が響く夜の街  作者: もものけだま


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第六話 ラッキーが起きたので幽霊達の奴隷になる4


「はぁ……はぁ……」


 幽霊のヨネさんの未練を伝え、いや、正確にはヨネさんが僕の体に乗り移り自ら未練だった『タンスの中のへそくりの事』を伝え、消えていったのを確認した僕は、爺さんに成敗される前に全力で逃げ切って、もう大丈夫だろうと思える距離にある公園のベンチに辿り着いた。

 

 深夜という事もあり誰も居ないが、掃除の行き届いた綺麗な公園に設置されている、街灯に照らされた二人掛けの木製のベンチに腰を下ろす。



「お疲れ~」と、ミカちゃんがベンチの隣に浮かびながら言った。出来る事ならこいつからも逃げきってやろうと思っていたのだが、色々と言いたい事もあるので、憑いて来られて都合も良い。



「お疲れじゃないですよ! 死ぬところだったんですよ! 刀で斬られるところだったんですよ!」


「でも、斬られなかったじゃん」


「それはミカちゃんが助けてくれたから……」



 そう言いながら僕はミカちゃんを睨みつけた。怖い思いをした事に対しての怒りもあるが、それ以外に聞きたい事もあった。



「というか、へそくりって嘘でしょ?」


「あ、バレた?」



 ミカちゃんは舌を出しておどけている。その表情から察する。こいつは嘘がバレる事も前提にして、ヨネさんの未練を伝える為の手伝いをさせた。刀を振り回す見知らぬ爺さんの恐怖が和らいできた今の僕には、僕を利用したミカちゃんへの怒りが湧いてくる。



「バレたじゃないですよ! 


 ちゃんと真相を教えて下さい!


 ヨネさんは何も言わずに、成仏しちゃいましたよ!」


「消える前に、ちゃんとありがとうって言ってたじゃん」


「そういう事じゃないですよ!」


「まぁまぁ、そう怒んなって」



 ミカちゃんが胡坐をかいたままの姿勢で宙を移動しながら、ベンチに座っている僕の前に移動してくる。どうやら、真面目に話をする気になったらしい。



「そもそも、どういう事なんですか?」


「結構前なんだけど、ヨネさんがあの家の前で心配そうにしてるのを見つけちゃってさ。それで話しかけた事があって、なんとかしてあげたいな~って思ってたんだよね」



 ミカちゃんは腕を組んで説明を始めた。



「……それで?」


「そんな時に現れたのが、ひーさんだったのだ!」



 ミカちゃんが僕を指差し、ドラマやアニメでよく見るような『犯人はお前だ!』と言わんばかりのポーズを決めている。



「現れたんじゃなく、マコさんに見つけられたって感じなんですが……」


「だから、あたしが作戦を考えた!」



 僕のささやかな反論を無視し、ミカちゃんは得意げに胸を張る。



「はぁ? 作戦?」


「うん!」





◇同時刻 爺さんの家◇


「……ヨネ……タンスの中のへそくりなんて、ワシはそんな物欲しくないぞ。こんなへそくりすら使わせてやれんかったとは、ワシは本当にダメな旦那だったのじゃな……」



 居間に戻った爺さんは、若造に言われた事が、先ほど起こった事が本当だったのかを確かめるべく、タンスの一番下の引き出しを開け、亡き妻の物をひとつづつ丁寧に取り出していく。

 


「小さな木箱……これか?」



 タンスの中に、黒い漆塗りの綺麗な箱を見つける。爺さんは忘れていたが、それは二人が結婚した時に行った旅行先で、ヨネが気に入った柘植の櫛を爺さんがプレゼントした時について来た木箱だった。

 

 箱を手に取ると、その場に腰を下ろし、小さく息を吐いて意を決し木箱の蓋を開ける。

 


「色褪せた一枚の写真? なんじゃこれは……。


 これは若い頃のヨネとワシか?


 ヨネが幸せそうに笑っているのぅ」

 

 

 それは二人が神前式をあげた神社に、その年の初詣の時に行った時に友人に撮って貰った写真だった。

 

 黒い紋付の袴を着て腕を組み、仏頂面をした若い頃の爺さんの隣で、薄い黄色地に、色とりどりの花模様の着物を着た若い時のヨネが、口を大きくして満面の笑みで映っている。

 

 懐かしさと共に、寂しさや、申し訳なさが爺さんの中に再度膨らんでいく。

 

 すると爺さんの手から、するりと写真が滑り落ち、慌てて目で追うと、畳みの上で裏返っている。



「ん? 裏に何か書いてあるのか?」



 写真を拾い上げ、筆を使って書かれた綺麗な文字を見ると、間違いなくヨネの字だという事が解った。


 そして、その綺麗な文字を懐かしむかのように読む。

 

 

 

 『もし、私が先に逝っても、あなたは一人じゃないのですよ。


 周りを見てみなさい。子供も孫もいるから寂しくないでしょ?


 それと、私達が結婚をする時にした約束は、ちゃんと覚えていますか?


 残った方が100歳まで生きて、あの世で再開したら報告をする。


 だから約束通り、100歳までちゃんと生きてくださいね。


 あの世で待ってる私に、家族の事をいっぱい教えて下さいね。


 あなたと過ごした人生は幸せでした。


 たくさんの幸せを、ありがとうございました』

 

 

 

 写真の裏に書かれた『亡き妻からの手紙』を読み涙で視界が歪む中、古い写真の中で笑っている妻に返事を返す。

 


「……婆さん。お前……こんなものを……。


 ……100まではまだ長いぞ……婆さん。


 しばしそっちで待っておれよ。


 たくさん土産話をもって行ってやるからな」

 

 

 

 

◇同時刻 深夜の公園◇



「ふふふふふ。実はあのタンスには、婆ちゃんと爺さんの若い頃の写真が入っているのでした! その裏に婆ちゃんが手紙を書いたのだ!」



 ミカちゃんが誇らしげに、この騒動の結末を語っている。



「……手紙?」


「手紙って言うか、ばあちゃんの想いみたいなのを念写した感じ?」


「幽霊ってそんな事もできるの?」


「さぁ? ヨネさんは出来たけど私には出来ないと思う。きっと当人達の想いが強いモノだったから出来たんじゃないかな」



 その言葉に、僕の中である事が思い出されたので、ついでに聞いてみる。



「じゃあ、ミカちゃんがインターフォンを押せるのは、インターフォンに想いが強いって事? なんでそんなモノに強い想いを込めてるの?」


「知るか! それにあたしはそんなモノに、思い入れなんて無いわ!」



 ミカちゃんは両手を上げ怒っている。



「いや、さっきだって、凄い楽しそうに連打してたじゃないですか……」



 両手を上げたまま目を瞑り、しばらく何かを考えたような間を空けた後、ポンっと手を叩くと話を続けてくる。

 


「って事で、爺さんにタンスを調べさせて写真を見つけてもらおうと思ったんだよ。そしたら約束を思い出すだろ?」


「……なるほど」と返事をしている間に、僕はふと疑問に思った。



「……ん? ちょっと待って!」


「なに? どうしたの?」


「なんで最初から写真のことを言わなかったんですか? わざわざヘソクリだなんて嘘をつく必要なんてない気がするんだけど……」


「それが……婆ちゃんが恥ずかしいって言うからさぁ」



 ミカちゃんは困ったように頬を掻いている。



「ん? なにが恥ずかしいの?」


「もし、じいちゃんがすんなりとタンスを調べていたら、ひーさんもその写真を見るだろ?」


「まぁ、そうなっていたら、気になるから見せて貰ってたと思います」


「ヨネさんが自分の若い頃の写真を、若い男の子に見られるのが恥ずかしいんだってさ」


「……は?なんで?どういうこと?」と続けざまに疑問を返す。



「中身がヘソクリだったら、ひーさんの性格なら爺さんに気を使って一緒に見ようとはしないだろ?」


「……そんな気はするけど、それをミカちゃんに見透かされているのが気に入りませんね」


「だから、へそくりって嘘ついたんだよ」


「……僕、騙されてたんですね」



 僕は肩を落とした。騙された事に落ち込んだわけでは無く、理解できない理由で騙された事に、なんとも言えない気持ちになった。



「騙すって言い方はひどくない? 協力してもらっただけじゃん」



 ミカちゃんは唇を尖らせている。



「……命懸けの協力でしたよ」


「まさか、あそこまでしてくるとは思わなかったよな!」



 そう言いながらミカちゃんは笑い転げた。その姿を見て怒りと共に、もう一つの聞きたい事を思いだす。



「……ていうか、ヨネさんに報酬はパンツを見せる事だって言ったの?」


「うん! ヨネさんは、そんなので良いのって言ってたけどな!」


「そんなのって……もし僕がヨネさんのパンツを見てたら、あの爺さんに絶対切られてましたよ!」


「確かに!あの爺さん、ヨネさんにベタ惚れだからな!」


「それに、ヨネさんは僕にパンツを見られても、恥ずかしくないんですかね……」


「あたしは男にパンツを見られるなんて凄く恥ずかしいけど、やっぱヨネさんくらい生きてると些細な事なんじゃない?」


「なんでパンツを見られるよりも、僕に若い頃の写真を見られる方が恥ずかしいんだよ!」


「それが乙女心ってやつだよ? ひーさん♡」



 ミカちゃんは、うんうんと頷きながら、僕の肩をポンっと叩く。



「……はぁ……全然わからないです」


「ひーさんは、まだまだだな!」


「さいですか……」


「うん!」



 なんだか馬鹿にされてる様な気もするが、女性の事がますます理解できないなと思ってしまう。



「僕は、そろそろ帰ります」


「は~い。あたしも帰る~」



 僕がベンチから立ち上がると、ミカちゃんもふわりと僕の目線の少し上あたりまで浮かび上がる。


    

 

 ミカちゃんと帰り道を歩きながら、僕は夜空を見上げた。


 澄んだ冬の空に星が瞬いている。



「……婆ちゃん……良かったね」



 ミカちゃんが夜空を見上げながら呟く。

 


「これも、ひーさんのお陰だな」



 僕の横に浮かぶミカちゃんは、とても嬉しそうだ。



「ミカちゃん?」


「ん?」


「君は、いつ成仏するんですか?」


「さぁ? 未練が消えたら?」



 ミカちゃんは首を傾げる。



「その未練の120円は返したじゃないですか……」


「う~ん。そうなんだけど、なんでなんだろ?」



 ミカちゃんは腕を組んで考え込んだ。



「んじゃ、また今度ね。ひーさん♡」



 そう言いながらニカッと笑うと、ミカちゃんは夜の闇に消えていった。



「また今度って、今回も成仏しないのかよ!毎回毎回、消え方が紛らわしいんだよ!」



 誰も居ない夜の住宅街の道端で、僕のつぶやきだけが聞こえている。



「……はぁ。マジで疲れた」


 いつもよりも数倍は重い身体を引きずって、暗い夜道をとぼとぼと歩く。


「へっくしょん!」


 寒い夜風に体を丸めながらふと思う。


 ……今回は幽霊じゃなくヒトコワだった気がする。


 幽霊も怖いけど、刀を振り回す爺さんも怖かったな~。


 だが、今回の幽霊達からは良い思い出を貰ってしまった。


 色々な事が起き過ぎて、危なくその記憶が飛ぶところだった。


 忘れないように、その光景を思い出してみる。

 

 

 捲られたスカートの中に輝く、マコさんの白いパンツ。

 


 うむ! 大丈夫! 鮮明に思い出せる!


 僕はいつもは怖いと思いながら歩く歩道を、今日は少しだけにやけながら帰宅した。


 おしまい。

ヨネさんのヘソクリ編は、これで完結となります。

最後まで追いかけて読んで下さった方々、ありがとうございました。


次回も土曜日の夕方に投稿しますので、それも読んで頂ければ嬉しく思います。

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