第22話 賢王国の魔術師
レイブン王国
4ヵ国の王達の中で最も聡明だと評価されている女王が納める国。
それ故、この国は賢王が納める国“賢王国”とも呼ばれている。
更に、この国は魔法使いの適正がある者の出生率が4ヵ国の中で最も高く、また魔法都市セレスティアと隣接している為、世で活躍する多くの魔法使い達がこの国を故郷としている。
俺達が王都の城門前に着くと、入国審査を行う為、門番が荷馬車を止めた。
「止まれ!
馬車の積み荷は何だ?」
「交易祭に出品する商品です。」
門番の質問にパウロが答えた。
「では、出店許可証と身分を証明出来る物を拝見させて貰おう。」
「分かりました。」
パウロは荷台から鞄を取り出し、中に入っていた2枚の書類を門番へ渡した。
「交易祭の出店許可証と商人ギルドの登録証です。」
「うむ……書類に問題はないな。
では、次に積み荷を確認させて貰おう。」
「はい。」
門番はパウロの承認を得ると、荷馬車の後ろへ周り、積み荷の確認を行った。
「魔物の革に……魔物の骨や牙……
交易祭に出品されそうな物だけだな。」
確認を終えた門番は、再び荷馬車の前へ戻って来た。
「積み荷の方は問題ないが、隣に座っているのは何者だ?」
門番は探るような目付きで、俺を指差した。
「わたしの護衛の冒険者です。」
「そうか……では、冒険者カードを提示して貰おう。」
「何?! 冒険者カードの提示が必要なのか?」
入国審査中は黙っているつもりだったが、門番の要求に驚いた俺は不意に理由を聞いてしまった。
だが、無理もないハズだ。
本来なら、護衛の役職に就いている者の身分は、護衛されている者が保証しているからだ。
唯一例外があるとすれば、商業大国のサーペンス王国くらいだろう。
門番は腕を組み、呆れた顔で質問に答えた。
「何だ、知らないのか。
2年前に法改正が行われ、今では4ヵ国全てがサーペンス王国の様に、入国時に身分の証明が義務付けられている。」
……マズいな。
「アルベルトさん、どうしたんですか?(ボソッ)」
俺の挙動に違和感を感じたパウロが静かに聞いていた。
「いや……実は冒険者カードを持っていないんだ…(ボソッ)
前にも言ったが、俺は一応冒険者なんだ……(ボソッ)」
どうしたものか……
冒険者カードは10年前に燃やして以来持っていない……
……そうだ、あれがあった!!
俺は、レイブン王国の王女からの招待状を持っていた事を思い出し、身分の証明として通用するか試す為に、招待状を取り出して門番へ渡した。
「これを預っているが、どうだ?」
「では、拝見しよう。」
門番は招待状を受け取ると、封に付けられたレイブン王国の王家の紋章に目が行った。
「これは、王家の紋章?!」
「何だと?!」
もう1人の門番も、驚いた顔で紋章を確認した。
「確かに……王家の紋章で間違いなさそうだ……
では、本当に……」
「いや、待て何処で拾ってきた可能性もあるぞ。
おい、これがお前宛てである証拠があるのか?」
……まあ、そう言われても仕方ないな。
冒険者が王族に呼ばれるなんて、まず有り得ないから。
だが、今回は宛名がある。
「裏を見てみろ。封に宛名が書いてあるだろ?」
そう言われた門番は、招待状を裏返し宛名を確認した。
「……『白狼殿へ』だと?!」
門番は目を丸くして、俺の方へ顔を向けた。
「白髪で剣を背負った冒険者……
確かに、噂に聞く容姿と一致する……
じゃあ、あんたが……あの“巨人殺し”の……
本当に?……」
「なら、確かめて見るか?」
いい加減煩わしく成った俺は、挑発的な目付きで門番へ質問した。
すると、門番の背筋が一瞬跳ねがあり、慌てる様に招待状を返した。
「い、いや……その必要はない!
……通って良いぞ!」
門番は俺達を通し、漸くレイブン王国の王都へ入る事が出来た。
「アルベルトさん、さっき門番へ何を渡したのですか?
『王家の紋章』と言っていましたが。」
……まあ、今更隠す事もないか。
「今夜開かれる晩餐会の事を知っているか?」
「……ええ、話には聞いた事があります。
確か、交易祭前日にお城で開かれる晩餐会ですよね?」
「それに、呼ばれたんだ。
早急のは、その招待状だ。」
「え?! それって、凄いことじゃないですか!!
王族に招待されるなんて、普通あり得ませんよ?!」
驚きのあまり、パウロはここが街中である事を忘れた様な声で話した。
その結果、周囲からの視線を一線に集めていた。
「おい、あまり大きな声で言うな。」
「あ、そうですよね……
すいません。」
俺が諭すと、パウロは自分の行いに気付いて気恥ずかしそうに黙った。
そうこうしている内に、俺達を乗せた荷馬車は通りを抜け、広場へと出た。
広場には、既にいくつものテントが並び、交易祭の出店場所が確保されていた。
この現状を目の当たりにし、パウロは不安そうな表情を浮かべていた。
ここまでの道のりで、パウロがこんな顔を見せた事は1度もなかった。
いつも、楽観的な考え方をしているパウロでも、今回はそうとう堪えているのだろう。
そして、その原因が俺にあると考えると胸が痛い……
広場の中を進んで行き、大きな建物の前で荷馬車を停めた。
「着きました。
この国の商人ギルド支部です。
僕は交易祭の出店場所の登録に行ってきます。
アルベルトさんは……」
「俺はここで待ってるよ。
荷馬車の見張りだ。」
「では……お願いします。」
そう言って、パウロは商人ギルド支部へと入って行った。
20分後
俺が葉巻をふかしながら待っていると、パウロが物凄い勢いで商人ギルド支部から飛び出て、満面の笑みで荷馬車へ戻って来た。
「アルベルトさん、出店場所を確保出来ました!
広場から少し離れた場所ですけど、これで出店出来ます!」
「本当か?!
良かった!!」
「それと、登録の時に教えて貰ったのですが、どうやら僕も晩餐会へ参加出来るみたいです。」
「ん? そうなのか?」
「話によると、王貴族の方々は交易祭には参加せず、晩餐会という場で商品を予約して買っているみたいです。
あと、晩餐会へは迎えが来るそうなので、アルベルトさんもそれに乗って行ってはどうですか?」
「……そうだな。その方が楽だ。」
俺がそう言うと、パウロは王都内の地図を広げた。
「僕が泊まる宿はここです。
迎えはここへくるので、夕方頃に合流しましょう。」
「分かった。」
「では、また後で。」
俺達は一旦別れ、パウロは宿へ、俺は昼食を取るため酒場へ向かった。
酒場へ着き中へ入ると、昼頃の為かかなり賑わっていた。
「いらっしゃい!
お1人なら、カウターへどうぞ!」
俺は頷いて、空いているカウター席へ座った。
「何にします?」
「そうだな……」
俺はメニューを見つめた。
「じゃあ、ビールとシチューをくれ。」
「かしこまりました!」
注文後、直ぐにビールが運ばれてきた。
ジョッキを持った瞬間、俺はある違和感に気付いた。
ビールが……冷たい?!
魔法で冷やしたのか?!
……いや、運ばれてきた時に魔力は出ていなかった。
俺が不思議そうにビールを見つめていると、隣に座っていた女が話かけてきた。
「お兄さん、もしかして、この国は初めて?」
その女は、短い淡黄色の髪を掻き分けて、茶色の瞳で俺をじっと見つめていた。
「まあな、今日着いたばかりだ。」
俺が淡々と答えると、少し不気味な笑みを浮かべて、冷えたビールについてを話した。
「ここのビール、冷えているて思ったでしょ?
私も初めて飲んだ時は驚いたよ。
聞いた話だとね、ビールの樽に魔法で細工がされているんだって。」
女の話を聞き流しながらビールをちまちまと飲んでいると、注文したシチューが運ばれてきた。
「へー、冷えているビールと熱いシチューかー。
いいねー。」
この様子だと、静かに食べるのは無理そうだな……
……今更だが、変なのに絡まれたな。
俺は、女の話を無視しながら、淡々とビーフシチューを食べ、終わりにビールに一気に飲み干した。
すると、女は妙な事を言ってきた。
「ねえ、もう1杯飲まない?
奢るよ?」
「何で奢るんだ?」
俺は、冷めた目付きで質問した。
「だってー、お兄さんカッコいいもん。
飲んだ後は、一緒に何処か行かない?」
色目を使っているつもりなのか、女は更に不気味な顔で俺を誘ってきた。
「……悪いが、今日は先約があるんだ。」
「えー、残念。」
俺はこの場から早く逃げる為、回答後直ぐに席を立って酒場を出た。
はぁ……まいったぜ。
酔っぱらいか知らないが、ああいう女は苦手だ……
酒場を後にした俺は、王都を散歩して夕方まで時間を潰す事にした。
夕方
パウロと合流する為、俺は彼が泊まる宿へ向かった。
宿の前に着くと、そこには馬車が1台と、その馬車の御者らしき人物が誰かを待っていた。
あの馬車……確か、迎えが来るてパウロは言っていたな。
1台だけの所を見ると、あの馬車がそうだろう。
城からの迎えと言うだけあって、馬車の外装はかなり高価な物だった。
黒く塗装され車体は、艶に満ち溢れ水面の様に景色を反射していた。
そして、銀色に塗装された縁は、車体全体との色合いの調和を保ち、高貴さを更に醸し出していた。
舐めるように馬車を見回していると、御者が少し荒い口調で声をかけてきた。
「そこのお前、何をしている。
これは、見世物じゃないぞ。」
「悪いな。
あまりに綺麗だったもんだから、つい見とれていた。」
「だったら、もう充分見たろ?
そろそろ、帰ったらどうだ?」
「そうも行かなくてね。
連れを待っているんだ。
あと、これも。」
俺は招待状を取り出し、御者へ渡した。
最初、御者は冷めた顔つきで招待状を受け取ったが、封に刻印されている王家の紋章を見ると、顔色を変えて直ぐに中を確認した。
御者が招待状の内容を読んでいると、準備を終えたパウロが宿から出てきた。
パウロは今までの様な服装ではなく、茶色い布生地で織れたダブレットを優雅に着こなし、トレドマークと言ってよい帽子を外していた。
「アルベルトさんも来ましたし、晩餐会へ向かいま……
ちょっと待ってください!
まさか、その格好で行くつもりですか?!」
パウロは信じられないと言いたげな顔で、俺の服を見つめた。
「ん? 何か変か?」
「いや、変と言いますか……これから、行く場所はご存じですよね?!
そういう場へは、普通正装で行くものではありませんか?!」
「そうは言っても、俺は動きずらいダブレットが嫌いなんだよ。
それに、向こうも冒険者を呼んだ以上、そういう所は目を瞑ってくれるだろう。」
「だと良いですが……
僕は知りませんよ……」
パウロとの言い合いが終わると、御者は俺達を中へ通し、馬車を走らせて城へ向かった。
心なしか、中へ通している時の御者の顔が、何か引き攣っている様に思えた……
……まあ、気のせいだろう。
暫くすると、馬車は堀を跨ぐ城橋を通り、城内へと入って行った。
城内では正門と傍らの扉といった型に、入口が2つに別れていた。
それぞれを通る者達の服装から察するに、正門は貴族、傍らの扉は商人と言った様に別れている様だった。
まあ、いくら同じ場に招かれているとしても、身分の差は付き物だろう……
御者は俺達を乗せた馬車を傍らの扉の前で停め、馬車の扉を開けて城内の傍らの扉へ行く様案内した。
「到着いたしました。
では、パウロ様はあちらの扉へお進みください。
白狼様はまだ中に。」
しかし、案内されたのはパウロだけだった……
パウロを降ろした馬車は、俺を乗せて更に奥の方へ向かった。
そして、着いた先は薄暗く、迎えようの馬車が何台も停まっていた。
どうやら、馬車置き場の様だった。
「では、白狼様こちらへ。」
御者は俺を馬車から降ろすと、使用人用の小さな扉へ案内した。
扉の先では、3人のメイドと1人の……理髪師らしき人物が、横一列に並んでいた。
入って来た扉が閉まると、奥の方からもう1人分の足音が聞こえて来た。
すると、メイドと理髪師らしき人物は、頭を下げながら二手に別れ、足音の正体に当たる人物を中央に通した。
その人物は、紺色の美しいドレスに身を包み、そのドレスを張りぼてとさせないだけの品格ある佇まいをしていた。
そして、俺の目の前に立つと、軽くお辞儀をしながら自身の名前を名乗った。
「白狼様、お初目にかかり光栄でございます。
私は、レイブン王国にて宮廷魔術師を勤めております、アメリア・ヴィレーネと言う者です。
以後、お見知り置きを。」
アメリアと名乗る宮廷魔術師が顔を上げると、俺の思考が一瞬にして停止した。
それは、今目の前にいる女性のあまりの美しさに、彼女が現実の存在だという事を認識出来なかったからだ。




