49話 森の戦士達
○月✕日 獣人族領にて『不死王の骨』が第1解放
これは1000年間の中でも異例の出来事であり獣人族は想定していなかったことによる被害対応の遅れが見られた。
被害者は解放時の再生によるもので100人以上。
その後の移動によるもので300人程推定される。
『色彩の魔女』フィーナはこれに対し封印を試みるも失敗。急ぎ『聖獣』と『依姫』を連れての避難へ移行した。
現在、『不死王の骨』は『再生』による擬似迷宮を構築し始めている。対抗するには急ぎ、物理的な破壊が必要と推測される。
* * *
「あーもう…!最悪…!」
愚痴を零しながら、私は空を飛び回っていた。
「誰かいる!?逃げ遅れた人は死ぬ気で声を上げて!」
それもこれも、全部は…想定外のせい。
封印されていた『不死王の骨』がどういう原理か解放され今の状況に陥っている。
既に何人もの獣人達が骨に串刺しにされ、轢き殺されている。楽しかった祭りの日は悲劇の始まりへと変貌している。
「…落ち着いて…落ち着け…」
休む間もなくで往復しているせいで段々と、確実に魔力が減っている。ただそれでも止まる訳には行かない。
少なくともこれに巻き込まれて死ぬのだけは間違っているから。
「ママァー!!」
「っ…まだいるか…動かないで!」
私の役目は逃げ遅れて未だ生き残っている者たちの避難誘導。
これを終えれば…ようやく、彼らが動き出せるのだから早くしないと…
「捕まって!」
一瞬だけ高度を下げて少年を回収。
「まだ、ママが…」
「ごめん!そこまで余裕が無い!」
あぁほんとう…なんて無力なのだろうか。あまりにも…魔女である私と『不死王の骨』は相性が悪すぎる。
「ここから真っ直ぐ走って、大人の人がいるから」
避難所までの道を教え少年を降ろす。さて…また次を回収しに…
「ありがとう、お姉さん」
そう言って微笑んだ少年。何か返事しようと考えていた…その時、何か、少年の様子に違和感があった。
気付いた時にはもう遅かった。
「…へ…?ぁ…」
ゴキリと、鈍い音がした…全身に一瞬の痺れ、同時に視界が揺らぐ。
「案外優しいんだね」
意識が闇に落ちた。
* * *
「…師匠からの連絡が途絶えた…」
ヴォルフは現在避難所にて待機していた。それはフィーナから待っていて欲しいと言われたからであり、それをするのが最前であると彼自身理解していたから。
フィーナは何十人もの獣人達を避難させその度に迎えるようにヴォルフへと指示していたが…その連絡が今回、途絶えたのだ。
「あの人のことだから死んじゃいないだろうけど…」
心配は心配である。もしかしたら魔力が尽きたのかもしれない。そうなればあの人はただの死なないだけの人に成り下がる。
「…今は考えてもしょうがない」
もうこれ以上の待機は不可能だろうとヴォルフは判断した。そのために、どう戦士たちを動かすかに思考をシフトする。
「お前ら!覚悟はできてるな!」
「「「はい!戦士長!!」」」
何人ものガタイのいい男たちが、返事をする。
あぁ全く…最高だ。血が滾るとはこういうことを言うのだろう。
「行くぞ!同胞を守るために!!」
「「「おおおおおお!!!!!!」」」
『魔女』が落ちた中、『獣』の戦士達は戦場へと向かい出した。
『骨』を穿つための作戦が始まる。
* * *
同日 日の沈みと共に栄誉戦士長ヴォルフ率いる『森の戦士』等が、不死王の骨による『疑似迷宮』の攻略を開始した。
『疑似迷宮』の範囲は街ひとつ分を飲み、家屋や路地、至る所に大きな骨が生えている。その中央、何かを守るように何重にも骨を重ね合わせた祠がそびえ立つ。
あれこそが『疑似迷宮』の核である。それ自体は獣人族の戦士たちには周知の事実である。…あそこへ辿り着くまでが途方も無いことも加えて。
* * *
『森の戦士』は突如現れた脅威に対しても怯むことなく、先へと進み続けていた。
「隊長!ここは自分が!」
「任せた!」
短い言葉での呼応。信頼の証だ。
「っ…隊長!!下です!」
鼻がひくつく。嫌な香りがしたと同時、地面がめりめりと浮き上がる。
「総員…!飛べ!!」
膂力任せに、一斉に飛び上がる。獣人だからこその芸当である。
そして直後に…先端の尖った骨が大地を突き破った。
「…目的は時間稼ぎだ!死ぬな!お前ら!」
「「「応!」」」
一隊は分散する。当然…避けただけでは終わらないから。
「可能な限り破壊しつつ距離を取れ!」
要するにヒットアンドアウェイだ。ヴォルフ等は空中に居ても追撃になりうる『再生』を躱しつつ骨を破壊していく。
上から、横から、下から…360度全ての警戒を解かない。というのははっきり言って不可能に近い。
「ぐっ…」
何度も、何度も、何度も…削り削られ、それを繰り返す。
消耗戦だ。どれだけ耐えられるかによって…ここからの戦況が変わる。
はっきり言って劣勢。しかし、だからこそ、獣たちは吠えるのだ。
「耐えろぉぉぉぉ!!!!」
「ぉぉぉぉぉ!!!!」
街を、民を、守るために。
* * *
思いのほか上手くいっていることに、暗殺者は安堵していた。
「変装…獣人族は初めてだったけど…案外バレないもんだね。それともあの魔女…思ってるより間抜けなのかな」
不老不死ともあれば油断がついてくるものだ。今日のも…それを突かせてもらった。
「…死んではいないだろうが…今回は小手調べだし、そろそろ帰らないと…」
騒動に紛れて獣人族領を後にする。これにて計画は一旦終了だ。
「まぁ、後は頑張ってよ。きっと何とかなるでしょ」
ぶっちゃけて言えば、暗殺者自身も『不死王の骨』に対してはどうすればいいのか皆目見当もつかない。
だが、暗殺者からすればこの地が滅ぼうが、どうなろうがどうだっていいのだ。
「それじゃ…」
踵を返し、移動を始めようとした…直後のこと。
「おいお前!」
いつの間にやら、犬耳の大男が暗殺者の背後に立っていた。
* * *
それは、偶然。
ヴォルフが偶々骨の攻撃を避け、次に攻撃すべき場所へと移動するために地上を駆けていた時のこと。
ヴォルフの視界に…ただ1人の女が入ったのだ。
「おいお前!」
逃げ遅れか、はたまた…理由は分からないが考えるよりも早くその手は動いていた。
「何やってんだ!こんな所で…」
女は…獣人ではなかった。人族だ。別にそれ自体は些細な問題だ。観光客かなにかだろう。
ただ、1つの情報がヴォルフに違和感を与えた。
「…あぁ、すみません。避難所はどこ…」
「おい」
ヴォルフの曲刀が女へと振り抜かれた。…が、その曲刀は、空を切った。
「お前…師匠をどこへやった?」
女は大きく距離を取ってヴォルフを睨む。
「…サイアク。犬っころか」
「鼻には自信があるからな…!」
そう、ヴォルフが覚えた違和感…それは、女の纏う匂い。その中に微かな…フィーナの匂いを感じ取ったのだ。
「知らない。悪いけど…知られちゃったなら、死んでもらおうかな」
女はナイフを手に、ヴォルフへと告げる。
ヴォルフは一瞬たりとも目を離さず、女の初動を待った。
しばしの睨み合い…後、死合が始まる。
得てして望まずとも、異変の首謀者はその首に刃を宛てがわれた。
* * *
息が、苦しい。
「…ぅ…」
『依姫』は避難所にて目を覚ました。
「姫様!」
そばに居た『森の戦士』の1人が声を上げた。
うるさい、頭に響く声だ。一体何があってそんなに嬉しそうな顔で…
「っ…いたっ…」
「大丈夫ですか?姫様…お身体に何か…」
「大丈夫…だから。近寄らないで」
口ではそう言ったが声を出すだけでもしんどい。熱もあるようで、全身が熱かった。
「ハクレン」
『ァウ…』
すぐ側で、『聖獣』も眠っていたらしい。幾分かミツハの容態がマシになってきた事で、ようやくそちらも目を覚ましたのだ。
「……状況は…?」
「『不死王の骨』の封印が解けたようです。民は避難済、我ら『森の戦士』が応対しております」
……一体どうしてそうなったんだろうかと、理解に大分時間が掛かった。
でも…しばらく経って出した結論は1つ。
「…私も行くわ。」
「っ…ですが、姫様…」
男の視線はハクレンに向く。ミツハは取り繕えてもハクレンの容態が良くないのは明らかだ。
「でも…」
「ならば、私に見せて貰えませんか?」
男とミツハに割って入る、柔らかな声が響く。
声の主は獣人族ではなく…人族。薄オレンジのウェーブ掛かった髪に、魔術師のローブ。
最後に…注目すべきは、胸元のブローチ。これは、ミツハも良く見覚えのある、耳飾りと同じもの。
「……エマ姉…?」
「…お久しぶりですね、ミツハ。背が伸びましたか?」
頼りになる、姉弟子その人だった。
エマとユーリは一年差で弟子入り、卒業しています。ミツハはエマが13の時に1年間のみフィーナの元にいました。




