第十一章③『空を飛ぶ』
薄紫色の天空が爽やかな水色に移り変わる頃。
二人と一匹は目的地へ向かって天空に羽ばたいていた。
爽やかな緑の森の景色から一転し、光を吸収して輝く純白の雲で覆われた青空。
土と緑豊かな肥沃のアルドゥアラーを一望できるまでに、天高く羽ばたくエレツにエアはしがみつきながら、ひたすら圧倒されていた。
「本当にすごいわ、エレツ。まさか、空を飛ぶこともできるなんて」
「神々は、土と植物の種から私を創った。だから私は、植物が姿を変えて成長するように、自分の姿を変幻自在に変える力を備えている。私が望めば、シェレグのように空を飛ぶ翼を生やせる。そして生物はもちろん、他にも剣や盾、斧にだって、私は姿を変えられる。君を守るための武器に、ね」
エアを両腕に抱きかかえているエレツの背中には、陽光を集めて輝く白金色の美しい翼が生えている。
言葉の術を持たなかった頃から、エレツの神秘的な力を幾度か目の当たりにしてきたが、ヒトの姿と知性を持つようになった今も健在のようだ。
しかも、エレツにしかない特別な力はエアのためにある――優しい微笑みと共に紡がれた親愛に、エアの胸にはくすぐったいような甘い熱が灯った。
面映ゆい気持ちを紛らわすように、エアは言葉を続ける。
「エレツは、本当に天使だったのね。こうして鳥のように空を飛べる。鳥や動物と言葉を交わせる。私は……こうして一緒に空へ乗せてもらっても、いつ花のように簡単に風に攫われてしまうのか、と震えることしかできない」
強い風圧に肌が痺れるのを感じ、触れれば霧散する白雲を潜り抜ける中、今度は墜落への不安が胸底から湧き上がる。
エレツにしがみつくエアの手と腕に、自然と力が籠る。
「大丈夫だよ、エア。君と約束しただろう? 君という花が、いたずら好きな風に攫われないように、私は君の手を――決して離さないから」
腕の中に抱いたエアの微かな震えと怯えを、エレツは敏感に感じ取ったらしい。
エアを安心させるかのように、エレツは腕に優しく力を込め、幼子をあやす慈母のように甘く優しい音色を囁いた。
さらに、蕾のように小さなエアの頭を、片手で優しく撫でてすらくれて。
エアにとって何よりも嬉しかったのは、以前のエレツから今も心の奥に刻まれていた約束の存在。
「約束……覚えていてくれたのね、エレツ。あの日のお花畑で、私があなたと交わしたあの言葉を」
「大切な友である君と交わした約束を、私が忘れるはずがないよ。だから大丈夫だよ、エア。君は私が守るから、何も心配はいらない、ね?」
「……ありがとう、エレツ」
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