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第四章④『メシュメシュ』

 「これでまず一安心。包帯はきつくない? 大丈夫?」

 「はい。大丈夫です。あの……エア様。私のようなしがない侍女に対し、何故あなた様はここまでしてくださるのですか……?」

 「? 私は当たり前のことをしただけだよ。私とシェレグにとって、あなたは大切な恩人なのだから。ほら、シェレグもありがとうって、あなたにお礼を言っている」

 「え……?」


 チュチュチュ……ククルゥ……♪


 日向の笑顔を咲かせるエアの言葉に反応したように、シェレグは上機嫌にさえずる。

 紅玉の瞳を、くりくりと輝かせながら、メシュメシュの傍へ羽ばたき寄ってきた。

 こうしたシェレグの態度は、メシュメシュに対する好意と信頼を表している。


 メシュメシュとシェレグの組み合わせを、エアは微笑ましく見つめる。

 シェレグを撫でやってほしいと、エアはメシュメシュに勧めてみた。


 初めて動物に触れる幼子と同様、メシュメシュはやや緊張した面持ちで、シェレグの雪の羽毛におそるおそる触れ、そっと撫であげた。

 するとシェレグは、紅玉の瞳を心地よさそうに細め、もっと撫でてくれといわんばかりに、雪色の羽毛をメシュメシュの手に擦り付けてきた。

 自分に懐いてくれるシェレグの愛らしさ、と雪のような羽の柔らかさに、ようやくメシュメシュの顔に年相応の嬉しそうな色が浮かぶ。


 「可愛い……」


 常に固く結ばれていたメシュメシュの唇がほころんだ瞬間、零れたのは素直な声。

 普段の事務的な響きとは対照的に、年相応の幼い女の子らしい色を帯びていた。

 頑なであったメシュメシュの心の鎧は、シェレグの愛らしさと無垢さによってようやく解かれた気がして、エアは嬉しくなった。


 「ありがとう。メシュメシュも可愛いと思うでしょう? 雪のような羽に紅玉みたいな赤い瞳は綺麗で愛らしくて。それに、とても賢いの」

 「そうなのですか」

 「ええ。私が落ち込んでいるとね、今あなたにしてくれているように傍に寄って、頬を撫でてくれるの。毎夜ここへ来る時も、可愛い木の実や野花を摘んできてくれるし。シェレグは、私の大切なお友達」

 「そうですか。この子は……とても賢くて……優しい鳥なのですね」


 シェレグのことを楽しそうに語るエアに、メシュメシュは耳を傾け、これまでにないほど口を多く利いてくれた。

 エアとシェレグに注がれたあどけない眼差しにも、侍女としての事務感は既になく、わずかな好奇心すら煌めかせている。

 そして感慨深そうな口調で、エアの語りに共感してくれた。


 「あなたもそう思ってくれるのね。だからかしら? あなたが優しい子だってシェレグも分かっているみたい」

 「私は……そんなことはありません。ただ主の指示に従って動くだけの(いや)しき者です」


 「そんなことないわ。あなたは、本当に優しい子よ。もしここへ呼んだのが、あなたではなく他の人だとしたら、きっと今頃私は厳しい侍女達に叱責され、大切なお友達と引き離されていたと思う。でも、あなたが内緒にしてくれたおかげで、こうしてシェレグは元気になれたの」

 「エア様……」

 「それに、あなたの飾ってくれるお花、いつも綺麗で大好きなの。今日の真っ白な胡蝶蘭も、シェレグの雪色の羽に似ていて、とっても綺麗」


 エアの柔らかな笑顔と意外な台詞に、メシュメシュは子どもらしい純粋な驚きと戸惑いで表情を大きく変化させた。

 遂には、夕焼けに当てられたように頬を染め、恥じらいに忍ぶように再び俯く。


 「っ……ありが、とう、ござい……ます……っ」


 幼い顔から間もなく漏れた言葉は、そよ風のように小さくか細かったが、精一杯の感謝と喜びだけはよく伝わって来た。


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