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第四章③『幼侍女』

 十一歳の幼侍女メシュメシュ。

 エアの自室へ突然招かれたせいか、やや緊張に顔を強張らせて指示を大人しく待っている。


 メシュメシュは褐色の肌に黒曜石のような瞳を持つ、見目愛らしい幼女。

 他の侍女と同様、長い黒髪を巻布(ターバン)の下後ろで綺麗に束ねている。

 しかしメシュメシュの顔からは、年相応のあどけなさがあまり感じられない。

 年配の侍女と変わらぬ、慎みと恭しさもあってか、ひどく大人びている。


  他の侍女たちには、年配の女性が多くを占める。

 それ故か、宮殿に相応な慎み深さを保つよう、エアを厳しく諭してくる。

 それこそ、未熟な娘を教育する祖母か叔母のごとく。

 

 しかし、最も年が近く幼い侍女として、エアに仕える時間の長いティナは、唯一落ち着ける相手だ。

 基本寡黙なメシュメシュは、エアに小言を一切零さない。

 いつも、エアの身の周りの世話を淡々と焼いてくれる。

 エアの自室に飾られている花も、メシュメシュが生けてくれたものだ。


 以前、側室達から廊下ですれ違い際に陰口をたたかれた際。

 エアをさりげない慰めの言葉をかけてくれたのも、メシュメシュであった。

 それも相まって、メシュメシュであれば自分の頼みを聞き入れ、周囲にも内緒にしておいてくれるのではないか。

 不思議な期待と根拠を胸に、エアはメシュメシュを呼びつけ、事情を話した。


 「……かしこまりました。少しお待ちください……」


 シェレグの治療に必要な道具を持ってきてほしいと頼んでみると、メシュメシュはわずかに困惑しつつも、承諾してくれた。

 約束通り、誰にも知られずに治療道具一式を手に戻ってきてくれたメシュメシュに、エアは深く感謝を示した。


 すぐにエアは、シェレグの傷口に薬を塗り、その上から雲色の薄い包帯をそっと巻いてあげた。

 手当中も、メシュメシュはよく手伝ってくれた。

 応急処置を済ませたエアは、ベッドの上ですやすやと羽を休めるシェレグの呼吸を確認すると、胸を撫で下ろした。

 隣から心配そうに見守っていたメシュメシュの表情も、微かに和らいだ気がした。


 「これでもう大丈夫。ありがとう、メシュメシュ。あなたがいてくれて、本当によかった」

 「いえ、私はあなた様に仕えている身として、当然の役目を果たしただけです」

 「いいえ、あなたのおかげでシェレグは、元気になった。シェレグにとって、あなたは命の恩人よ。ここなら他に誰もいないから、そんなに(かしこ)まらなくても大丈夫よ」

 「で、ですが、畏れ多いです……」

 「私とあなたは、年もそんなに変わらないようだし。ね?」


 普段は寡黙で淡々としているメシュメシュ。

 しかし、エアとの約束を守ってくれた優しさに、エアは心を許した。

 エアの感謝と信頼の込もった笑顔に、メシュメシュの表情にも戸惑いと照れが浮かんだ。

 しかし、恥じらいで俯くメシュメシュを微笑ましく見ている最中、エアはあることに気付いた。


 「あら、メシュメシュ……あなたの腕……どうかしたの?」


 枝のように細いメシュメシュの腕には一か所だけ、青紫色の痣が浮かんでいるのを見つけた。

 青痣を不意に指摘されると、黒い水面のような幼い瞳に波紋が走った。

 痣を隠すように腕を後ろに回したメシュメシュは、「ぶつけたのです」、と気まずそうに答えた。


 普段から大人びた表情で、黙々と仕事をこなすメシュメシュの声に翳りが差したのを、エアは見逃さなかった。

 しかし、あまりに暗く苦しそうな表情を前に、エアはそれ以上の追及ができなかった。


 代わりに、せめてものお礼として、エアは消炎効果のある薬草を痣に塗ってあげた。 

 メシュメシュは最初、畏れ多いと躊躇していた。

 しかし、エアが「お願い」という名の命令をすると、メシュメシュは大人しく手当された。


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