第三章③『悪意』
「あら? 何だか土臭い野草の香りが漂ってきますわ」
薔薇のように唇をほころばせる美女達の言葉に、エアは理解が追い付かなかった。
呆然と立ち尽くすエアを嘲る笑みが、彼女へ一斉に集中する。
「早く、王様のもとへ参りましょう。貧乏くさい土の匂いが移ってしまう前に。そしたら、王の寵愛を賜ることができません」
「田舎出の厚かましい貧乏娘が、我らの王に取り入ろうだなんて考えないことね。まあその貧相な容姿では、王の目にも留まるとは思いませんが」
王様が東西から手折った薔薇と宝石は、悪意の毒棘でエアの心を容赦なく突き刺すと、嘲笑を浴びせながら歩き去った。
生まれて初めて浴びせられた悪意の毒は、言葉にならない衝撃と屈辱、哀しみとなってエアの全身へ廻っていく。
「……エア様。恐れながら申しますが……あまりお気になさらずに。あの御方達は、我々に対しても、いつもあのように振る舞うので」
「うん……大丈夫だよ、私は。心配してくれて、ありがとう」
エアの傍に付き添う十歳前後の幼侍女の沈着な声が、耳朶を掠めた。
側室の心無い言動に傷ついたエアを気遣う言葉に、エアは静かな微笑みと共に感謝を述べた。
それでも、エアの心中を搔き乱す暗雲は、完全には晴れてくれない。
エアは自ら望んで迎えられたのではない、と声高に叫びたかった。
孤独に耐え忍び、神々の啓示と暴虐王の気まぐれな命令に従って、仕方なくこの城に留まっているに過ぎない。
それなのに何も知らない人達に、自分の存在を完膚無きにまで否定され、愛する故郷まで侮辱され続けなければならないのか。
傷口に塩涙が強く沁みるような痛みと悔しさに、エアは胸を掻き立てられた。
以来、宮殿ですれ違う度にこちらへ浴びせてくる側室の悪意と侮辱、嫌がらせを避けるために、結局エアは自室に籠る。
そうすることでしか、エアは安息を得ることすら叶わない。
かくして、鳥籠に囚われるような孤独と窮屈、親愛の家族なき寂しさと屈辱を溜飲しきれない日々を余儀なくされる。
・




