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第二章⑤『王の英断』

 「ははははははっ。よもや私がここまで笑わされたのは、いつ以来だろうか! だが!あの陰険な神々どもの思惑に乗るつもりは、私には毛頭ない!」


 この御方は一体何を言っているの?


 王が唾棄するように紡いだ意外な台詞に、エアがさらに驚愕するのも無理はなかった。

 神々は、この世界と我々人間の創造主であり、神羅万象を支配する万能たる存在。

 そのため我々人間もあらゆる命の生と死も、全ては神々の御手の示すままに。

 神々と自然に対する崇敬と感謝を忘れ、天命に逆らうことは神々の憤りと天罰に繋がる。

 死よりも辛く凄惨な神罰は、神々に逆らった本人だけでなく、その家族から子孫にまで及ぶ。

 逃れることのできない神罰の呪いに未来永劫縛られる恐ろしさは、この地に生きる全ての者にとっては自明の理。

 しかし、神々の意向に逆らう等という罪深き行為を、この傲慢な王は平然とやってのけようとしている。


 「よって、貴様のようなみすぼらしい小娘を(めと)るつもりはない――!」


 エアの村へ遠路遥々従者を遣わし、村人を脅させてまで、王様はエアを強引に連行した。

 そのうえで神々が下した天命――婚姻関係をエアと結ばない、と王は毅然と述べた。


 王の本来の役割とは、神々の代理人として王権を行使する者。

 各都市神の声を預かり、神々に代わって人間達とその都市を直接統治する。

 詰まる所、王様とは神に等しき権限を賜り、王としての能力を認められた最高権力者だ。

 

 しかしイムベラトル王からは、神々への崇敬や忠誠心は欠片も感じられない。

 むしろ疎ましい羽虫を追い払うのと大差ない態度で、神の意向をことごとく無視し、唾棄する。

 何故王は、こうも神々とその神罰を恐れる素振りすら見せないのか。

 目に余る不遜を貫く王様の態度は、もはや血迷っているとしか思えない。


 神々への謀反となる傲慢な決定によって、今にも神罰が我が身に降りかかるのではないか。

 落雷によって焼き殺されるか、もしくは地震でこの城が崩落しないか、はたまた津波によって都市全体が侵蝕されないか。

 想像するだけでも、エアは正直生きた心地がしない。

 一方暴君王に至っては、太陽のごとき眩く、冷徹な月のごとく荘厳な貫禄を絶やさないままだ。


 「だが、あまりにも小さくか弱き小娘よ。己自身の悪運の強さを喜ぶべきだ。神々どもの”お願い”でなければ、本来は貴様のような小娘……私の機嫌次第では即、花茎のようなその()()()()()()()()()であろう」


 無邪気な残虐性をむき出しや笑むの王は、腰の(さや)から剣を抜いてかざした。

 鋭利な銀の刀身に、王は血のように赤い唇を落とし、蛇のように舌なめずりする。

 怜悧(れいり)な蛇のように妖艶な仕草、冷酷無比な台詞は、冗談とも本気ともつかない。

 しかし、襲撃予測が不能な砂嵐のような暴虐王は、小娘一人の命を摘み取ることに躊躇は抱かないだろう。


 初めての謁見をもって、王様の人間離れした美しさと傲岸な王威――さらに獅子のように獰猛、毒蛇のような残忍さを拝謁させられた。

 エアの心には、もはや王に逆らうという文字は浮かばなかった。

 臓腑が凍りつくほどの緊迫した空気と恐怖は、エアの胸に燻りかけた怒りの炎をかき消してしまった。

 とはいえ、愛する故郷を完膚無きにまで侮辱された悲しみと屈辱は治まらない。

 それでも、この理不尽な暴君に立ち向かう術を持たぬ己の無力さに、エアは唇を噛みたくなった。


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