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訳あり少女のルーフェリア冒険譚  作者: 葉山
シナリオ1 探索編
30/44

30 獅子の市場


 肩で息をしながら、上りよりも慎重に階段を下りてシーン神殿を後にする。目と鼻の先とまではいかないが、水路を使って進むよりは歩いた方が早いと一行はゆっくりと獅子の市場へと足を向けた。

 水路に掛かった細い橋を越え、やがて狭い小路から広々とした平原へと出る。石畳の広場に所狭しと露店が軒を連ねており、その間にたくさんの買い物客が行き交い、威勢のいい売り子の声が響いている。広場の中央には一本の高い石柱がそびえ立っているのが、遠目でもよく分かった。


「ねえ、見て! 獅子の像!」


 石柱の頂点から、鬣をなびかせて雄々しく立つ獅子の像が広場を見下ろしている。

 ユズとロランが駆け出そうとするのを宥め、グレンは懐中時計を取り出した。現在の時刻は十三時二十分。順調に時は過ぎていた。


「えっとね、ここは獅子の市場って言うんだ。昔は公園みたいな場所だったらしいんだけど、三百年前の<カナリスの消散>で街が破壊された後、誰かがここで露店を初めて、それがきっかけで市場になっちゃったんだって」

「草原が広場になって市場になる……すごいね、なんだか歴史を感じるね!」

「まあ、活気付いているのは良いことだよなぁ。どれ、何か掘り出し物は……」

「親方、先立つもの、ない」

「……そうだったな」


 己の懐具合を思い出し、ため息を禁じえない一行。冷やかすしかできないことを大袈裟に嘆くユズをどつき、グレンはゆっくりと辺りを見渡した。

 露店の間を動き回る人の群れ。その中から形も分からない目的のものを探し出すのはなかなか難しいことだと、深く息をつく。

 同じように息をついたロランに、おや? となんとなくそちらを向くと、自分でも気付いていないのだろう。何かをいとおしむような優しい表情で、言葉を零していた。


「こんなにたくさんの人がいるのなら、びっくりするだろうなあ……」

「かのじむぐうう」

「独り言ですよ、独り言」


 すかさずタルトが茶々を入れようとしていたことに気付き、グレンは素早くタルトの口をふさいだ。

二人のやり取りに気付いたロランは、顔を赤くしながらも誤魔化すように、さてどうしようと一行へ問い掛けた。


「本当に、どうしましょうかね……」

「空を恋しがる緑の宝石箱……。それっぽいものは、見当たらねぇみたいだしなぁ」

「ねえ、アタシちょっと聞いてこようか?」


 これだけたくさんの人がいるなら、露店の人の誰かは知ってそうだし、とユズが気楽に主張した。

 誰もが忙しそうにせわしなく動き回っているこの中に突入して話を聞くことに、怖気づいていた親方とグレンは、苦笑を浮かべながらも頷いた。


「行動力があるな、剣士の嬢ちゃんは」

「では、お願いしても?」

「まっかせてー!」


 元気よく頷いたユズは、さっそく人の壁を押し分けて突入していった。人の間を縫うようにして動いているも、簡単に押し流されてしまいそうになるこの感覚に、通学ラッシュの駅の様子を思い出して、懐かしく思う自分に苦笑した。自嘲気味に肩を揺らして、一息ついて切り替える。

 なんとかしてたどり着いた露店の店先は、果物屋なのだろう。オレンジ色の瑞々しい蜜柑が真っ先に目に留まり、笑みがこぼれる。手を伸ばそうとして、表示されている価格にしり込みをしてひっこめた。


「ねえおばちゃん、この辺りで空を恋しがる緑の宝石箱って知らない?」

「ええ? なんだいそりゃ。知らないよ、アタシは」

「そっかぁ」


 素っ気なく言葉を返され、別の客との売り買いへと直ぐに向き直られる。仕方ないと、別の露店へと場所を移す。


「……そこのお兄さん! ちょっと聞きたいんだけど」

「冷やかしならお断りだぜ? 何か買ってくれるのかいっ?」

「て、手持ちがなくて……うわーん! 切ないー!」

「ちょいと、どいとくれよ」

「あ、ごめんなさい」


 恰幅のいいおばさんに押し出され、交わされる熱い値切りの会話に、これ以上相手にされる気配がないことを感じとったのか、ユズはすごすごと引き返した。

 その後も成果は芳しくなく、心がぽっきりと折れたユズは、泣きそうに顔をゆがめながら、とぼとぼと皆が待つ広場の中心へと戻った。


「……ごめん、だめだった」

「そっか」

「それでも、行動を起こした貴女は立派ですよ、ユズ。ありがとうございます」

「ま、今までが調子よく行き過ぎたってことだろうな」


 気にするな、と慰められるも、ユズの心が晴れる様子はない。これは重症だ、とグレンは小さく頭を掻きながら、そっと抱き寄せるようにしてユズの背中を優しくぽんぽんと叩いた。

 まるで子どもをあやすみたいだ。そんなことを思いながらも、ユズは少しの間されるがままにされており、その心地よさに小さく瞳を閉じた。

 やがて小さく頷いて、グレンから身を離したユズの様子が元に戻ったことを知ると、タルトはこてんと首を傾げた。


「でも、どうする?」

「ノーヒント、だね。本当に、緑の宝箱ってなんだろう?」

「いや。ヒントがないってわけでもねぇぞ」

「えっ?」


 親方の言葉に、ロランは目を丸くした。


「冒険者の基本は、分かる処から調べる、だ」

「分かるところ……分かった! あれだ! 獅子の像!」

「だな」

「なるほど! さすがユズ姉さん!」

「でしょー! もっと褒めてくれてもいいのよ!」

「まったく、本当に現金なのですから……」


 元気よく答えたユズのあっという間の変わり身に、グレンは苦笑を禁じえなかったものの、周りの暖かな笑い声につられて、やがて柔らかく微笑んだのであった。



時間の関係上実際の聞き込みは一回だけでしたが、無駄に付け加えてみました。

「実際にこれ何回もやられたら心バッキバキに折れちゃうからw」

とはユズPCさんが言ってました(やらなくてよかった)


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