28 ヒント6
ユズとロランが駆け寄った先には、鐘楼へと続く階段があったが、あいにくと立ち入り禁止の札が掛けられていた。
「あれ、立ち入り禁止だ……」
「嘘でしょーっ!? 最終回目前にして打ち切りにされる感じじゃん! やだこの物足りない感じー!」
「ごめんユズ姉さん、それちょっと分かりにくい」
戸惑うロランにユズは僅かに眉を下げたが、気を取り直すようにして鐘楼の先を見つめた。鐘楼をぐるりと囲むようにして両側から伸びる階段は、建物の高さにして一階ほどだろうか。こっそり入って戻ってくるには微妙な距離である。
そんなユズの心情を見透かしてか、鐘楼の傍に立っているシーン神官が二人の行動をじっと見つめていた。見張り、だろうか。どきりとしながらも、ユズはシーン神官へと視線を合わせた。
「ねえ神官さん。この先の、鐘楼へはいけないの?」
「こちらの鐘楼は、あと……十分したらご案内できますよ。説明はその時に致しますので、少々お待ちください」
「あ、はーい」
「案外簡単にいけるものなんだね」
拍子抜けするくらいにあっさりと先への進めることが判明したことに、ユズとロランは互いに苦笑を浮かべた。
距離を置いて何やら談笑していた三人の元へ向かい、十分後に登れることを伝えると、親方とグレンは大きく頷いた。
「じゃ、景色観て時間潰すか」
「そうですね、十分後に必ずあちらに集まることだけ、忘れずに」
「おっけー! ねえ、ロランちょっとあちこち教えてよ!」
「任せてユズ姉さん!」
我先にと駆け出すユズとロランを見送って、三人は高台から静かにカナリスの街並みを見下ろした。
タルトは静かに思う。
みんなは、今どこにいるのだろう、と。この街並みのどこかにいるのだろうか、と。それとも、湖の反対側にあるアドエンにいるのだろうか、と。このルーフェリアにたどり着いているのだろうか、と。
罠に巻き込まれたタルトと親方が無事だったのだ。残された両親と早足だって無事に決まっている。
そう信じて<水晶の欠片亭>で待ち続けて、月日はどれくらい経っただろう。大した日数は過ぎていないかもしれない。正確には覚えていないのだから、答えなどあってないようなものだけれども、再開の当てがない現状が続くとなると、心がくじけそうだ。
自然と、胸元の青水晶のペンダントを握りしめていた。
『大丈夫よ、タルトちゃん。お母さんを信じて』
でもね、おかあさん。いつ会えるの?
どれだけ待てば、おかあさんたちに会えるの?
『いいか、タルト。冒険者たるもの、焦っては駄目だ。いつも心に余裕を持て。不安な心は、何も良いことを呼ばないからな』
でもね、お父さん。不安な心がどんどん大きくなっていくの。
不安にならないように、早く顔を見せてよ。
『スカウト技能はピカイチの早足様だぜ? どこにいようと、ちゃあんとアンタ見つけてやっから。だから、どおんと待ってりゃいいの。泣いてんじゃねーよ、おチビちゃん』
泣いてなんかないよ。親方としっかり待ってるよ。
だから、早く見つけてよ、早足。
「ここに、いるよ……」
人の形も分からないような高台の上から、タルトはぽつりと呟いた。誰かを見つけるのも、誰かに見つけてもらうのも、難しいとは分かっているけれど、それでも言葉を留めるのは難しかった。
ぎゅっと目を瞑って、大きく深呼吸をする。
ぽんぽん、とあやすように叩かれた大きな手に、大丈夫、と小さな声で返した。
「まもなく、鐘楼へのご案内を始めます。ご希望されます方は、どうぞこちらへお集まりください」
立ち入り禁止の札を外したシーン神官が、階段の前で声を張る。
「行くか」
「そうですね」
親方とグレンに促されて進むと、既にロランとユズは最前列で待っており、後ろでそれに気付いたグレンはそのままでいいと、手ぶりで二人に伝えた。
「それではみなさん、どうぞこちらへ」
観光スポットでもあるのか、鐘楼への案内希望者はタルトたちの他にも何人かいた。一般人と一緒ならば、あまり大きな行動はできない。
「突飛な行動をしないといいんだが……」
「ある程度空気は読める子ですから。……最悪ロラン少年もいるので、大丈夫でしょう」
本人が聞いていたら憤慨するであろう会話に、タルトは呆れた。ヒントを見落とさないように、しっかり探しださないとと、人知れず気を引き締めた。
神官について階段を上る。狭いながらもしっかりした足場と手すりに安堵しながら、大きな鐘が吊るされた鐘楼へとたどり着く。
全員が鐘の元へとたどり着くのを確認したシーン神官が、ゆっくりと口を開いた。
「この鐘楼は、六百五十年前に建設されたと伝えられています。三百年前の<カナリス消散>の時に、一度は破壊されましたが、シーンを信仰する人々の努力によって、その五十年後に再建を果たしました」
「鐘と、神殿は二百五十年前くらい」
「てことは、魔動機文明語の刻み付けパターンかもな」
「鐘、よく見ておきますね」
顔を寄せ合い、ぽそぽそと小声で言葉を交わす三人。時代の換算をして魔道期文明語で書かれている可能性が高い結論に達すると、ユズたちを気にするのをやめた。
当の二人は魔道期文明語が読めない。それどころか、ぽかんと圧倒されるかのように鐘を見つめながら、シーン神官の説明に聞き入っている。
「以来、一日に三回。七時、十二時、十八時に鐘を鳴らし続けています。この鐘は今や人々の生活に欠かせないものとなっていますが……」
説明などもはや聞いてはいない。三対の目はじっと鐘を見つめ、その表面に刻まれた模様に目を凝らす。
寄付したものの名前の羅列。シーンの聖印を連ねて模様のようにあらわされた部分。教義が簡単に書かれている。そんな中、親方が見つけた。
とんとん、とグレンとタルトに知らせる。
それは、よくよく見なければ分からなく来に薄く、同様のヒントのパターンを理解していなければ分からないように刻まれていた。
【獅子の狩場 空を恋しがる緑の宝石箱】
遅くなりました。繁忙期……特に忙しい時期は終わったはずなので、再び更新します。
ストックはそんなにないですが、ヒント二つ分くらいは最低でも連続更新できるように努力します




