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Shining Heart  作者: 201Z
38/71

9−1


〜???〜


「おかえり…」


薬品や香料が入り交じった匂いが漂う薄暗い部屋の中、大人一人入る位の透明な容器があり、中は液体で満たされいて眠るセリウスが安置されている。


「愚かなだなキルティング、せっかく与えてやったのにこの程度の出来とは…」


嘆きと落胆したような声で言った。


「やはり、君は僕の手で完成させなければな」


透明な容器に頬を付けて愛しい者を見るような表情で言った。


〜???〜


「私はいつまで此処にいればいいの?解放してくれたことには感謝してるけど、こう退屈じゃ死んじゃうわ」


獣と人を掛け合わせたような姿の女、霊獣ベルデは退屈をもて余していた。


「クックックッ……それは失礼したね、君の血と私が持っているキマイオスの羽の化石を使って面白いものを造っているところですよ、もう少し待って頂けると有り難い」


「へぇ〜それは面白そうね」


「博士、準備は整いましたよ」


黒のローブを着た黒髪の男、ビーゼルスがキルティングに言った。


「では始めるか、クックックッ…」


キルティングは楽しいのだろうが表情は見るからに怪しく。

セットされた機械でベルデの血をキマイオスの羽の化石に数滴落とすと三つの神具からエネルギーを照射する。


照射されたエネルギーの光で容器の中が見えなくなる。


「実に素晴らしい皆、見たまえこの創造の光を!」


突然、三つの神具と容器に亀裂が入った。


「そんな馬鹿な!神具にヒビだと…有り得ん!」


計器類が振り切れ、機具の隙間から蒸気が吹き出し辺りに充ちていく。


「博士、危険です離れてください、シュラフ!」



いつの間にかビーゼルスの傍に黒い鹿のような生き物がおり身構える。すると神具が砕け、容器が割れた。


「神具が…まさかコピーか!奴め騙しおったな!」


割れた容器の中から何か出てきたが溢れた蒸気ではっきりとは確認できない。

神具が砕けたことによって機械が緊急停止し蒸気が止まり徐々に晴れていく。


「子供!?」


そこには裸の少年が立っていた。

少年の肌は黒く、紅い瞳が輝いていて背中にはスティグマが刻まれている。


「まぁ、いいコピーだとしても…クックックッ…こうして完成させることが出来たのだ」


「ほんとに面白いものが見れたけど、その子が使えるか私が試してあげるわ」


ベルデはそう言い終えると共に針の様に細いものを数本、少年に投げた。

針は真っ直ぐ少年に向かって飛んでいくが何かに阻まれ少年の鼻先で止まって落ちた。


「ふ〜ん、こんなのはどうかしら?」


ベルデの手が電子を帯び、何かを放とうとした瞬間にビーゼルスに腕を掴まれた。


「どうゆうつもり?」


「失礼、だがよく見てください」


ベルデは周囲を見回して見ると目に見えないほどの細い線が幾つも張り巡らされている。


ベルデはまだ電子を帯びている手から張り巡らされた線に雷撃を放つと線を伝い、全体像が露になった。


「いつの間にこんなもの…」


「素晴らしい、さすが私が作り上げただけはある」


張り巡らされた線と雷撃は一瞬、羽根の姿がちらつき消えた。


「…誰?」


少年は問う。


「私は君を造った者だ」


「僕を…造った者…主…」


「そうだ、クリフォト」


「クリフォト…」


少年はキルティングの言葉を復唱する。


「ビーゼルス、彼に纏う物を」


「分かりました」


ビーゼルスは少年を連れ、その場を去った。


「それで私はまた死にそうな程の退屈な時間か」


「そうだな、良い退屈凌ぎがある」


キルティングは机の資料の山から一つの資料を取るとベルデに渡した。


「そいつに伝言を頼めるかな」


ベルデは資料を見た。


「たしかに退屈凌ぎになりそうね、いいわよ」


「伝えた後は君の好きにして構わない」


「そうするわ」


空間が裂け、ベルデは暗闇へと消えた。




冥界〜魂を喰らう霧〜


崩壊したデア城から遠く離れた場所。クレイル、ルナ、レルク、ワグの四人は拓けた崖の上にいた。


「アメリア高原、かなり離れた所まで来ましたね」


「急ぎで離れたからな仕方ないだろう」


『レルクが元の姿に戻っていますね』


クレイルのレルクを見る視線に気付いてルナは言う。


「覚醒後、直ぐの闘いで力を消耗したのだ」


ルナは地面に座りうなだれるワグを見た。


「あれは大丈夫なのか?」


「そうですね、見兼ねて思わず連れてきましたがどうしましょう」


そうしてるとレルクの意識が戻った。


「うぅ………」


「気が付きましたか?」


「私は一体…(確か私の地下室で…)」


「何があったか教えてやろうか?」


「いえ、大丈夫です…」


レルクの内に精霊キマイオス時の記憶が流れ込む。


「私の中で眠っていた者が覚醒めたのでしょう?」


レルクは記憶に整理がつき思い出したかのように言った。


「あぁ」


「それでこれからどうしますか?」


「私が闘ったあの者達が何者なのか調べる必要があると思いますが…」


「その意見には私も同感です」


「それに…これは私の推測ですが、セレディナス様の居場所も彼等が知っているかと」


「では、あそこでウジムシの如く意気消沈している奴に聞くのが早いだろう」


「それは…(仕方ないでしょうね、大切な人を奪われたのですから)」


ルナはワグに近付いて言い放つ。


「まだ死した訳ではなかろう!だったらその手で奪い返せ!」


ルナの言葉に身体が少し動き反応を見せた。


「…俺は妹なしでは…」


「はは〜ん、分かったぞぉ〜おぬしシスコンというやつだなぁ」


「ちがっ…」


ワグは振り向きながら言い返しが言葉に詰まった。

なぜなら振り向いた先にはニヤリと笑うルナがいたからだ。


「まだそんな元気があるではないか」


「くっ…(くそぉ!何をしているんだ、俺はまだ何もしていないというのに諦めて…)」


「この場から離れた方がいい」


ルナは何かを感じそう言うと辺りが暗くなる。


「いえ、もう遅いみたいですよ」


クレイルも何か嫌な気配を感じて周囲に気を張ると高原に生えている植物が次々と萎れていく。




四人を囲むように黒紫色の霧が現れ、不気味な獣の姿へと変わった。

獣の身体の一部には様々な髑髏の仮面を一つ身に着けているがどれも何故かひび割れている。


クレイルは武器を構えようとしたが武器は無かった。


「此処へ来るまでに落としてしまいましたか」


「少し力を使うぞ」


ルナはレルクの胸の前で引き出すように手を動かすと光の球が抜け出る。


光の球は剣へと変わり、それをクレイルに渡した。


「これを使うといい」


「これは?」


「プリシラ」


「わかりました」


クレイルはプリシラを構え、肩に割れた仮面を着けた獣がまだ座り込んでいたワグを見つけて襲い掛かる。


「いつまでそこにいるんです!」


クレイルはワグにそう言い、肩に割れた仮面を着けた獣に向かってプリシラを振り抜くと、獣はプリシラの刃を歯で挟み口で受け止めた。


「クソッ!」


ワグは背中に携えている黒い大刀を掴み、プリシラを口で受け止めている肩に割れた仮面を着けた獣へ黒い大刀を突き刺した。

獣は叫び声を上げると黒紫色の霧に戻り、その後を追うように他の獣達も霧に戻る。すると黒紫色の霧は消えた。


「ルナ様、今のは…」


「アーデルリンガー(しかし、何故あ奴が普段なら愚者の森の奥深くで外界とは関わりを持たぬというのに…)」


ルナは先ほどの獣達の名称を言い、心に思った。


「すまない、助けられたな」


ワグは何も言わずに黒い大刀を仕舞う。


「これをお返しします」


クレイルはルナにプリシラを差し出した。


「それは所持していて構わない」


「良いのですか?」


「武器がなければ不便であろう?」


「分かりました」


クレイルは素直に受け取った。


「それで先程の者達は何だか分かりますか?」


「愚者の森の住人、アーデルリンガー」


「愚者の森?」


「此処から見える森がそうだ」


アメリア高原の崖下に深い森が広がっているのが見える。


「此処から降りましょう、此処にいたらまた彼達が来るわよ」


ルナはそう言い、高原から降りる為一人そそくさと森とは反対方向へ歩いていった。

レルクとクレイルはルナの後をすぐに追い、ルナと共に歩く。一方、ワグはそこから少し離れて歩いていく。




王宮ルシファール〜国王執務室〜


執務室に国王代理バルディ、側近メリル、王宮騎士団長ラズゥールがいた。

バルディが書類に目を通していると突然、衛兵が入ってきた。


「陛下!」


「突然、なに?ノックもせずに」


メリルが叱咤する。


「失礼しました、急いでいましたもので」


「それで何があったの?」


「北方司令部よりメルテクスにて住人の集団石化が発生との報告が入りました」


「なに!?北方で何が?」


バルディは執務机に手を突いて乗り出す。


「メルテクスと言えばアメリア高原の麓町、確かあそこはタクリ公爵の領地だったな」


「ラズゥール、神官一名を連れ、メルテクスへ向かってくれ」


「分かった」


「恐れ多いのですが、王宮騎士団長自ら出向くなど…先日の事件や負傷のこともありますゆえ」


「ん〜確かに…」


「傷ならもう何ともない、それに何か起きても副官のラトに任せておけば対処できるからだ」


「そうか、では向かってくれ」


ラズゥールは執務室から立ち去った。


「全く王宮騎士団長ともあろう人が」


「そう言うな。メリル、国王代理の僕が決めたんだ逆らうのか?」


バルディはメリルを睨むように言った。


「そうではありませんが私は自らの意見を陛下に進言をしたまでで」


メリルは慌てて弁解をした。


「冗談だよ、だが北方で何が起きているのか…」


バルディはそう言いながら椅子から立ち上がり扉の方へ向かって行く。


「待って下さい何処へ行かれるつもりですか?」


バルディが扉の取っ手に手を掛けようとした瞬間に言われた。


「いや、ちょっと…」


バルディがそう言うと扉の鍵が締まる。


「今日こそは溜まっている執務を処理していただきますよ」


メリルはバルディの肩を掴み、執務机まで引っ張っていく。




ラズゥールはある部屋の扉を叩いた。


「リベル、いるか?」


扉が開いて法衣に身を包む、頭の左右に渦巻いた角を持つ女性が現れた。


「ラズゥール様どうしたんです?」


「今から北方司令部に向かう着いてこい」


「そんな事を急に言われましても…」


リベルは困り顔して言った。


「これは国王代理からの勅命だ」


「分かりました…(はぁ…上級神官になって早々、北方に向かえなんて…)」


二人は身仕度を整え、北方司令部に繋がる部屋へ向かう途中、副官であるラトに出会った。


「団長、何処かへ行かれるのですか?」


「これから任務で北方司令部に向かうところだ」


「メルテクスのことですね?」


「あぁ、だから後は頼んだぞ」


「分かりました、お気を付けて」


ラズゥールとリベルは北方司令部に繋がる部屋に向かった。

中はケルベルの間より多少、大きいが同じように何もない部屋で違うと言えば四隅に方位を象徴する絵が飾られている。


「準備はいいですか?」


「いいぞ」


ラズゥールとリベルは北を象徴する絵の前に立つとリベルが呪文を言う。


「ルペネート」


二人は部屋から消えた。


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