9−2
冥界〜アメリア高原〜
クレイル達は山を降りる途中、何度もアーデルリンガーに襲われた。
「次から次へと…」
「気をつけてください、来ます」
レルクは全員に警戒するように言うと黒紫色の霧が発生しアーデルリンガーが現れた。
その瞬間にワグが黒い大刀でアーデルリンガーを蹴散らした。
「もう吹っ切れているようだな(自暴自棄になってるようにも見えなくもないが…)」
ルナがそう思っていると返事が返ってきた。
「あぁ、あんたには感謝してるが俺は行く」
ワグは一人でどこかへ行こうとしたところをルナが止めた。
「まあ、待て」
「なんだ?」
「感謝してるというならば私の手伝いをしてもらおうか、案ずるなそれがお前の力にもなろう」
「俺の力に?」
「お前の妹をさらっていった輩は私を狙っているようだからな」
「………」
ワグは少し考えて答える。
「…分かった」
再び、四人は麓へと歩き出す。アーデルリンガーの出現頻度は麓に近付くにつれて減っていった。
辺りは日も暮れて薄暗くなってきた。
「奴らはもう出て来ないようですからあそこに見える町で一休みしましょう」
クレイルは前にぼんやりとした灯りが見える町を指して言った。
「ん…そうだな」
ルナは何かを感じ取り、表情が曇った。
四人は繁栄の町、メルテクスと書かれた木製の町の入り口を通り抜けた。
「これが繁栄の町…です…か…」
町の至る所に人の形をした石がある異様な光景にクレイルは町の謳い文句に疑問を抱く。
「全くそのようには見えないですね」
レルクはクレイルの気持ちを代弁するように言う。
「魂無きただの器となっているっと言った所でしょうか」
「強制的に魂を引き剥がされたのだろう」
ルナは人の形をした石に触れて言った。
「この町から立ち去った方がいい、もう町は朽ちる…」
一人の青年が四人の目の前に現れた。
「(生きてる人がいたんですね)何があったんですか?」
レルクは青年に聞いた。
「早く立ち去れ…」
そう言い青年は何処かへ行ってしまった。
「妙ですね」
「気付いたようだな」
「はい、あの青年も魂がないですね」
「ん?早く何処かに隠れろ!」
クレイル、レルク、ワグはルナの言う通り、建物の陰に隠れた。
冥界〜北方司令部〜
ラズゥールとリベルの二人は北方司令部に着いた。
着いた部屋は王宮と同じように何もない部屋の四隅に方位を象徴する絵が飾られている。
「ここが北方司令部?」
「この部屋は全ての司令部共通だからな」
二人は部屋から出ると一人の兵士が声を掛けてきた。
「お待ちしておりました、こちらへ」
二人は兵士に案内されるままついていくとある扉の前で止まり、兵士は大きな声ではきはきと言った。
「失礼します!」
扉を開けた。
「大佐、お連れしました」
「分かった」
ラズゥールとリベルは部屋に入ると兵士は部屋の扉を閉め、立ち去った。
部屋の中には短髪で丸眼鏡を掛けた痩せた男が重厚な机で執筆をしている、その隣には鼻筋を斜めに走る傷を顔に持つ女が立っている。
「中央も大変だというのにわざわざ御足労して頂いてすまない。俺はグレン・タルヒム、役職は大佐をやっている」
「それで事件の詳細は?」
ラズゥールは早々に訊ねる。
「詳細は派兵した部下から聞いてくれ、現地には此処にいるネフィル少佐が案内してくれる」
「着いてこい」
ネフィルはそう言い、扉へ向かう。
「まぁ、無愛想だが気にしないでくれ」
ネフィルはその言葉が聞こえたのか振り返りグレンを睨む、リベルはその目の鋭さにビクッと背筋が伸びる。
ネフィルは扉の方に向きを直り、扉を開けて出ていく。
「はぁ、恐かったぁ…」
リベルはホッとして心の声が漏れる。
「行くぞ、リベル」
「は、はい」
ラズゥールとリベルの二人は部屋を出た。
「後は任せたよ、ネフィル」
グレンは立ち上がり、吹雪でガタガタと揺れる窓から外を見てそう呟いた。
ネフィルは何も言わずに北方司令部の正面口まで歩いてきた。
「これを着ろ」
ネフィルは二人に厚手のコートを投げ渡し早々とコートを着て扉を開けた。
その瞬間、建物内に冷たい風が雪と共に流れ込み、ラズゥールとリベルの二人は急いでコートに袖を通し前を閉めて三人は北方司令部を出た。
冥界〜カウリア雪原〜
視界不良の吹雪の中、ネフィルは一心不乱に突き進んで行く。
「凄い女だな」
「そうですね、私にはとても」
ネフィルが突然、足を止め、ラズゥールとリベルがネフィルに追い付くと吹雪の止んだ場所に出た。
「なんだ此処は?」
「…」
ネフィルは拳銃を抜き、ラズゥールとリベルの方に銃口を向けた。
「何のつもりだ!」
ネフィルは何も答えず拳銃の引き金を引いた。
鳴り響く銃声の後、苦しむ声がラズゥールとリベルの後ろから聞こえた。
二人は振り向くと額に風穴の開いた全身白い毛に覆われた怪物エブリルが口を開けたまま死んでいる。
「気をつけろ、部下であれば放っておくところだが、二度目ない」
そう言ってまた歩き出した。
「どうやら助けてくれたみたいですね」
リベルはホッとした。
「あぁ、そうだな…」
二人も歩き出すとすぐにまた吹雪の中に入った。
「何なんでしょうか、雪が降ったり止んだりと」
「気になるならネフィル少佐に聞いたらどうだ?」
「それはちょっと…」
「また吹雪を出るぞ」
「はい」
二人は気構えてまた吹雪が止んだ場所に入る。
そこにはネフィルが二丁の拳銃を持ち、前進しながら動き回る羽虫のように小さな怪物ギーギーを一度も外さず次々、撃ち抜いていく。
「うわ、こっちにも来た!」
ラズゥールは剣を抜き、リベルは身構えた。
「バーフェス」
リベルは向かって来るギーギーに炎を放ち焼き払った。
「旋風剣技一ノ型、凩」
ラズゥールは剣を回転させ巻き込んで倒していく、三人は吹雪の止む場所のギーギーを全て殲滅させた。
「王宮に仕えるだけあって、腕は持っているようだな」
二丁拳銃を仕舞いながら言った。
「貴女ほどではありませんが」
「当たり前だ、温室育ちの貴君らより劣っていては腹立たしい」
「反貴族体制か、残念だが私はこれでも東方北部の貧しい村の出だ」
「そうか、それはすまなかったな…」
ネフィルはそう言いまた歩き出した。
「あっあぁ…」
ラズゥールは素直に謝罪するネフィルに驚く。
『東方北部…レイベンフェルドか…住人は全て死んだと聞いていたが生存者がいたとはな』
「どうしたんでしょうか」
「さぁな」
二人もネフィルの後に続き歩き出し、三人は三度吹雪の中に入ると吹雪は少しずつ弱まっていき、雲の透き間から日の光りが照り出した。
「やっと吹雪がおさまりましたね」
「あそこに見えるのがメルテクスだ」
遠くに霧がかる町が見えた、町の周辺はさっきまでの吹雪の跡や動く影一つ無い。
冥界〜繁栄の町〜
三人は何事も無くメルテクスの正門に着いた。
「ネフィル少佐」
正門にいた兵士が敬礼する。
「それで生存者は?」
「これは少佐、ようやくお出ましかね」
声の主は割って入り、嫌味ったらしく言った。
「ちっ!」
聞こえないほど小さく舌打ちした。
「タクリ公爵、よくご無事で(しぶとい)」
ネフィルは態度は大きいが小柄で小肥りの男性に向かって言う。
「それで少佐、そこの二人は誰なんだね」
「王宮の騎士団長と神官です」
「なんと王宮の方々か、どうぞ、我が邸宅にて状況説明を。少佐、君も来るかね」
「私は結構。二人を案内しただけで直ぐに司令部に戻る」
「そうかね、ではお二人はこちらに」
リベルはタクリ公爵についていき、ラズゥールもそれに続き一歩踏み出そうとした時、背後からネフィルの声が聞こえた。
「公爵には気を付けろ」
ラズゥールは振り返るとネフィルはもう背中を見せて何処かへ歩き出していた。
ラズゥールは黙って向きを直り、リベルとタクリ公爵を追う。
タクリ公爵に案内されて二人はと大きな屋敷の前に着いた。
「お帰りなさいませ、タクリ様」
門番の兵士が出迎える。
「どうです?我が邸宅は中々のものでしょう」
タクリ公爵は自慢たらしく言う。
「はぁ〜」
「ささぁ、中へ」
兵士が邸宅の扉を開け、中へ入るとタクリはラズゥールとリベルの二人をゴシック調の内装の部屋に案内し、三人掛けの椅子へと促す。
「どうですかな、中も大したものでしょう」
『自慢ばかりで面倒な人』
リベルは作り笑顔をしたままうんざりに思う。
「この屋敷にはこだわったもので……」
タクリは一人で邸宅の自慢を始めた。
「失礼します」
右目に眼帯、身体の至るところに包帯を巻いたメイドが入ってきて、紅茶とお菓子を置いた。
ラズゥールは自分の前に置かれたそれを一瞥して鼻をひくつかせる。
仕事を終えたメイドは一礼して出ていった。
「そろそろ詳細を聞かせていただけませんか?」
「そうでしたな、とっその前に一ついいですかな」
「なんです?」
「王宮へ帰っていただけますか?」
タクリは今まで話していた表情から一変、鋭い眼光で言った。
「できない」
ラズゥールはキッパリと断る。
「そうですか、では仕方がありませんね」
二人が座っていた椅子の床が抜け、椅子ごと真っ逆さまに落ちていき、床は元通りに戻った。
「グレンの差し金か、余計なことを今度はしくじるな」
部屋の前の廊下に立っているさっきのメイドに向かって言った。
「はい、マスター」
メイドは何処かへ向かった。
クレイル、レルク、ワグ、ルナの四人は建物の陰に隠れていると大蛇が身体をうねりながら現れた。
大蛇はクレイル達が隠れている場所に近付くと動きを止め、尻尾で建物を破壊した。
四人は破片と一緒に弾き飛ばされた。
「…動物的感は鋭いですね」
瓦礫を退かしプリシラを手に取った。
大蛇はクレイルに気付いて、牙を剥き襲い掛かってきた。
クレイルはプリシラを盾にして受け流し、身体を切り付けると大蛇は直ぐさま身を引いてクレイルを威嚇した。
「これだから野蛮な生き物は…」
「大丈夫ですか?」
レルクは手を差し出すとルナはその手を取り立ち上がる。
「あぁ、心配ない」
「嘗めた真似を」
ワグは剣の形状のデスヴァルクを構え、大蛇に向かって突きを放った。
デスヴァルクは大蛇の右目を捉え、大蛇は苦痛の叫び声を上げて頭を捩るとデスヴァルクを引き抜ける。
そして、大蛇は石化した人を薙ぎ倒しながら逃げていった。
「もしや今の蛇がこの石化を引き起こしている根源でしょうか?」
「違う」
ルナは地面落ちている銀色の大蛇の血を見て言った。
「あれは単なる使い魔に過ぎない、この状況を起こしているのは、あれの創者が要因(だが一介の創者に魂を抜き取るなど、よもやこうも早く…)」
「創者?」
「クリエスターという滅びた血族の器を創り出す者のことをいいます」
クレイルの疑問にレルクが答えた。
「そいつが私の力のカケラを持っているようだ」
「では、その力を使って…」
「察しがいいな、恐らく」
四人は大蛇の傷口から流れ落ちた血の跡を追った。




