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勇者の遺体を回収する仕事  作者: ななほし


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20/120

第20話 声

地下の扉が開いた。


 ギギギ……。


 古びた蝶番が嫌な音を立てる。


 俺は動けなかった。


 聞こえた。


 確かに。


 俺の名前を呼んだ。


 ――レイン。


「……今の声」


 ミラが小さく呟く。


「聞こえた?」


「聞こえた」


 三十三番も黙っている。


 老人だけが震えていた。


「ありえない……」


「何が?」


 俺が聞く。


 老人は答えない。


 ただ地下を見つめている。


「五十年間……」


 老人が呟く。


「誰も入っていないはずなのに」


「じゃあ、誰がいる?」


「分からない」


「またそれか」


 俺はため息をついた。


 だが。


 地下から再び声がした。


「……レイン」


 今度ははっきり聞こえた。


 俺は一歩進む。


 三十三番が腕を掴んだ。


「待て」


「離して」


「危険だ」


「でも、あの声は俺を知ってる」


「だから危険なんだ」


 俺は三十三番を見る。


「俺のことを知ってる人間が多すぎる」


「……」


「なのに、俺だけ何も知らない」


 腕を振りほどく。


「もう逃げたくない」


 三十三番はしばらく黙った。


「……分かった」


 剣を抜く。


「俺が先に行く」


 地下階段を下りる。


 老人は入口に残った。


 ミラもついてくる。


「私も行く」


「危ないぞ」


「レイン一人で行かせるほうが危ない」


「……そうだな」


 階段は長かった。


 かなり深い。


 途中。


 壁に数字が刻まれている。


 三十。


 三十一。


 三十二。


 そして――


 三十三。


「番号が続いてる」


 ミラが言う。


「ああ」


 さらに下。


 今度は数字が消えた。


 代わりに。


 人の名前。


 五つ。


 剣士。


 魔術師。


 僧侶。


 斥候。


 騎士。


 五人の仲間の名前だ。


「墓にあった名前と同じ……」


「ここで記録されていたのね」


 三十三番が壁を見る。


「違う」


「え?」


「ここは墓ではない」


「じゃあ何?」


「製造所だ」


 俺は立ち止まった。


「製造……」


 嫌な言葉だった。


 さらに下へ。


 巨大な扉がある。


 その中央には王国の紋章。


 そして。


 三十二


 俺の徽章を近づける。


 カン。


 扉が開いた。


 中には――


 大量の瓶。


 透明な液体。


 古い器具。


 そして。


 壁一面に書かれた記録。


 第一段階――死体保存


 第二段階――記憶移植


 第三段階――人格形成


 第四段階――再生


 俺は息を呑んだ。


「……何だよ、これ」


 ミラも顔を青くしている。


「人を……作ってた?」


 三十三番が答える。


「そうだ」


「誰が?」


「アルドだ」


「……」


「正確には、アルドを殺すために集められた研究者たちだ」


 俺は壁を見る。


 その中央。


 一番新しい記録。


 第三十二号――完成。


 その下に。


 記憶なし。


 さらに。


 人格:レイン。


「……俺」


 俺の名前。


 間違いなく。


「俺はここで作られたのか?」


 三十三番が言う。


「違う」


「じゃあ何?」


「ここで作られたのは、お前の身体だけだ」


 俺は息を止めた。


「身体……だけ?」


「ああ」


「じゃあ、俺の中身は?」


「アルドの死だ」


 その言葉と同時に。


 地下の奥から。


 カン。


 カン。


 カン。


 金属音。


 俺はそちらを見る。


 暗闇の奥。


 何かが動いている。


「……誰?」


 三十三番が剣を構える。


「下がれ」


 俺は一歩下がる。


 暗闇から。


 人影が現れる。


 長い髪。


 白い服。


 顔は見えない。


 だが。


 声だけは分かる。


「レイン」


 俺は息を呑んだ。


「……アルド?」


 人影は首を横に振った。


「違う」


「じゃあ誰?」


「お前だ」


「……俺?」


「そうだ」


 人影が顔を上げる。


 その顔を見た瞬間。


 俺は凍りついた。


 そこにいたのは――


 俺と同じ顔だった。


 ただし。


 目が違う。


 俺よりずっと冷たい。


 そして、その人物は言った。


「私は三十二号」


「……」


「お前は三十二号ではない」


 俺は言葉を失った。


「じゃあ俺は何だ?」


 その人物は微笑んだ。


「お前は――」


 その瞬間。


 背後で老人が叫んだ。


「見るな!」


 遅かった。


 目の前の人物の瞳が赤く光る。


 頭の中に大量の記憶が流れ込んできた。


 雪山。


 五人の仲間。


 アルド。


 血。


 炎。


 そして――


 赤ん坊を抱く俺。


 誰かが言っている。


『この子に、俺の死を入れろ』


 別の声。


『それをやれば、アルドは完全に死ぬ』


 そして最後。


 アルドの声。


『それでもいい』


 俺は叫んだ。


「――やめろ!」


 視界が真っ暗になる。


 最後に聞こえたのは。


 自分と同じ顔をした男の声。


「ようこそ」


 ――本当の三十二号へ。

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