第1話 死体を拾う仕事
死体を拾う仕事をしている。
そう言うと、大抵の人間は一歩下がる。
「……死体?」
「ああ」
「えっと……死体って、あの?」
「他に何があるんだ」
「いや、そうなんだけど……」
今もそうだった。
依頼人の男は、俺から半歩だけ距離を取っている。
別に傷ついてはいない。
慣れている。
俺の職業は、遺体回収人。
冒険者や兵士、旅人。
魔物に襲われたり、山で遭難したり、ダンジョンから帰ってこなかったり。
そういう人間の遺体を探して、回収して、家族のところまで届ける。
それが俺の仕事だ。
「それで、息子さんが亡くなった場所は?」
「西の森だ。昨日、薬草を採りに行って……」
「魔物は?」
「出る。ゴブリンが多い」
「分かりました」
俺は依頼書に必要事項を書き込んだ。
「報酬は銀貨八枚」
「……高くないか?」
「普通です」
「死体を運ぶだけだろ?」
俺はペンを置いた。
「じゃあ、ご自分でどうぞ」
「……八枚でお願いします」
「ありがとうございます」
仕事とは、そういうものだ。
危険だから高い。
汚れるから高い。
そして何より――
遺体は、文句を言わない。
これが一番ありがたい。
西の森までは歩いて二時間。
俺は一人で向かった。
昼過ぎには目的の場所へ到着した。
森の中には、折れた枝と足跡が残っていた。
依頼人の話では、この辺りで最後に息子を見たらしい。
「……ゴブリンか」
地面に小さな足跡。
三匹。
いや、四匹。
俺は腰の短剣に手をかけた。
遺体回収人は、戦士ではない。
魔法使いでもない。
だから強くはない。
ただ、この仕事を七年もやっていると――
「死体を探すのは上手くなる」
誰もいない森で呟く。
すると、少し離れた場所に血痕があった。
木の根元。
さらに奥へ進む。
そして見つけた。
青年が一人、倒れている。
「……」
俺はしゃがみ込んだ。
呼吸はない。
脈もない。
身体はまだ温かい。
死んでから、それほど時間は経っていない。
「残念だったな」
誰に言うでもなく呟いた。
俺は遺体を丁寧に拭き、持ってきた布で包む。
そのとき――
ガサッ。
背後で音がした。
振り返る。
ゴブリンが二匹。
こちらを見ている。
「……」
「……」
「悪いな」
俺は短剣を抜いた。
「今日は仕事中なんだ」
十分後。
俺は青年の遺体を背負って森を歩いていた。
ゴブリン二匹は気絶している。
殺してはいない。
殺してしまうと、あとで村の衛兵に説明するのが面倒だからだ。
ちなみに俺は、ゴブリンより弱い。
正確には、ゴブリン二匹に勝てる程度の強さしかない。
つまり――
ものすごく普通だ。
町へ戻ると、依頼人が待っていた。
息子の遺体を見た瞬間、男はその場に崩れ落ちた。
「……ありがとう」
「いえ」
「本当に……ありがとう」
「仕事ですから」
俺は報酬を受け取った。
銀貨八枚。
そのうち二枚を見習いの給料として受付に渡す。
残り六枚。
今日の夕食代。
宿代。
それから――
「また依頼か」
受付の女が、一枚の紙を差し出した。
「今度は北の山」
「遠いな」
「報酬は金貨一枚」
「行きます」
「早いわね」
「金貨ですから」
「本当に死体が好きなの?」
「死体は金を払ってくれないので、好きではないです」
「じゃあ何が好きなの?」
「生きている人間です」
「意外」
「報酬を払ってくれるので」
「最低ね」
俺は依頼書を受け取った。
北の山。
遭難者、一名。
捜索開始から三日。
生存の可能性は低い。
俺は依頼書を折り畳んだ。
いつもの仕事だ。
生きていれば助ける。
死んでいれば連れて帰る。
どちらにしても、家族のところへ届ける。
それだけ。
それが俺の仕事だった。
――このときまでは。
その依頼書の一番下に、小さな文字でこう書かれていたことを。
俺はまだ知らなかった。
「なお、現場付近に古い墓標が一つあるとの報告あり」
そして、その墓標には。
俺たちの誰も知らない名前が刻まれていた。




