表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン湖畔の休憩地 〜限定オリジンスキルで始めた小さな宿屋に、探索者たちが帰ってくる〜  作者: 小狐


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/5

第4話 湖畔休憩地、二日目の昼ご飯

 有給を取った二日目の金曜の朝、俺は東京湾岸ダンジョン十階層の湖畔で目を覚ます。


 タープの布越しに、薄い朝の光が入ってくる。

 俺は毛布をどけ、しばらく湖の音を聞いていた。

 昨夜は地上へ戻らず、この場所で朝を迎えている。


 【休憩地】を発動しっぱなしにすると、どれだけ時間が持つのか。

 その確認のために、わざわざ地上へ戻らずにおいた。


 昨夜、発動直後にステータスを開いた時、最大維持時間はまだ十二時間と出ていた。

 寝起きのまま確認すると、数字が変わっている。


 ――――――――――――――――――――

 湖畔休憩地

 休憩地Lv.2

 範囲:半径約7メートル

 連続発動時間:15時間18分

 最大維持時間:20時間

 設備登録数:7

 成立コンボ:休息コンボ/食事コンボ

 利用者数:4

 未成立コンボ:飯テロコンボ/解体コンボ/衛生コンボ

 備考:継続使用により最大維持時間が増加中

 ――――――――――――――――――――


 「……使えば使うほど、発動時間が伸びるのか」


 昨夜は簡易コットに毛布を敷き、タープの下で横になった。

 最初はさすがに眠りが浅い。

 それでも夜の間、休憩地の光は消えないし、モンスターも中へ入ってこない。


 朝の湖畔は、思っていたより静かだ。

 木々の向こうから光が差し、湖面が薄く白んでいる。

 体は少しこわばっているが、地上で寝不足のまま起きるよりはずっと楽だ。


 昨日のうちに背負ってきた荷物には、食材も少し入れてある。

 中には、無洗米、醤油、塩、胡椒、にんにく、少量の油が入っている。

 紙皿と割り箸、予備の布巾、蓋つきの水タンクもある。


 昨日は、ほとんど勢いで湖畔休憩地を作った。

 タープを張り、椅子を置き、スープを作り、まさかのアクシデントはあったものの、探索者たちに振る舞うところまで進んだ。


 その結果、休憩地はLv.2になっている。


 「レベルアップの法則がいまいちわからないが…単純に何かを成せば上がる、というわけでもなさそうだな」


 今日もまだわからないことが多い、この休憩地スキルについて調べることにする。

 そしてこのスキルを使って本当に湖畔の宿屋構想が上手く行くのかも、確認していかないといけない。

 ただの思いつきで終わらせるのか。

 それとも、本当にここを休憩地として育てていくのか。


 それを決めるためにも、もう少し諸々を検証しておきたい。


 俺は視線を湖畔へ戻す。


 正直、少し心配していた。

 ダンジョン内に泊まるのは、あまり褒められたことではない。

 盗難もあるし、モンスターに襲われる可能性もある。


 ただ、この場所は道から外れている。

 そして昨日から発動し続けている休憩地の光は、夜を越えてもなお残っている。


 「……まあ、油断はできないけどな」


 俺は毛布を畳み、昨日と同じ草地に立つ。


 湖から風が吹いてくる。

 木の葉が揺れ、陽の光が水面に反射していた。


 やっぱり、ここは悪くない。



 ◇



 そして朝から昼に変わろうとしていた。

 

 足元の淡い光は、昨日から消えていない。

 昨日より、ほんの少しだけ広い。

 半径で言えば七メートル弱くらいだろうか。


 昨日の初期表示では、ここまで長く持つとは思っていない。

 だが一晩発動しっぱなしにしただけで、最大維持時間はかなり伸びている。

 

 「今の所、最大維持時間が勝手に延びていってはいるが…スキルの再行使時間も調べたいところだな」


 最初は2時間ごとにスキルを更新すればいいか、なんて思っていたが勝手に維持時間が延びており、使用時間が最大維持時間に到達して強制解除、までは至っていない。

 最初に一度スキルが最大時間まで来たので解除したものの、それ以降は試せてはいない。


 だが、使い続ければ、いずれ最大維持時間に到達するだろう。

 それが寝ていた時にきてしまうと、それがダンジョン事故の始まりでもある。

 ここに宿屋を作るのなら、この部分の解明は最優先だと思う。


 とはいえこのペースなら、二十四時間維持もそう遠い話ではない。

 少なくとも、朝から夕方までしか使えないスキルでは収まらないはずだ。


 乏しい情報しか書いていない俺のスキルステータスを眺めてから、昨日置いた設備をひとつずつ確認する。


 タープは張ったままだ。

 ロープも緩んでいない。

 ローチェア、折りたたみテーブル、ハンモック、簡易コットも昨日の位置に残っている。


 寝る前に片付けたのは、食材と刃物、使い終わった食器類くらいだ。

 毎回タープから張り直すとなると、宿屋どころの話ではない。

 

 俺は簡易キッチンの位置だけ少し直し、作業台と水タンクを使いやすい場所へ寄せた。


 朝の準備は、それだけで済んだ。


 「成立コンボは、休息と食事か」


 表示の下に、プラスマークが表示されていることに気付き、そこに触れるとさらに小さな説明が開いた。


 ――――――――――――――――――――

 コンボ詳細


 成立中:

 休息コンボ

 条件:簡易屋根+椅子+寝床

 効果:休息時の疲労回復をわずかに補助


 食事コンボ

 条件:火元+作業台+食事提供

 効果:温かい食事による回復をわずかに補助


 未成立:

 飯テロコンボ

 条件:魔物素材+地上食材+温かく美味しい食事+利用者の反応


 解体コンボ

 条件:作業台+水場+保管箱+廃棄処理


 衛生コンボ

 条件:手洗い場+洗い場+ゴミ処理

 ――――――――――――――――――――


 飯テロコンボという名前は少しどうかと思う。

 ただ腹に入るものを出すだけでは足りないのだろう。


 それから、解体コンボと衛生コンボ。

 どちらも、今の設備では足りていない。


 「宿屋にしていくなら、結局そこだよな」


 寝床だけあっても、人は戻ってこない。

 安全なだけでも、まだ弱い。


 疲れて、腹が減って、足が重くなった時に、温かい飯がある。

 それを出せるかどうかで、ここに戻ってくるかが変わる。


 昨日のスープは悪くない。

 だが、あれはあくまで簡易食事だ。


 もうすぐ昼に差し掛かるし、今日は米と肉で、ちゃんと腹に残るものを作ってみたい。


 俺は保冷バッグを開ける。

 中に入っているのは、昨日、三人を見送った後に仕留めたワイルドボアの肉だ。


 昨日、探索者たちを追っていた二体は森へ戻った。

 その後の周辺確認で、別の一体と遭遇している。

 正面から受ければ危ない相手だが、休憩地の境界で動きが鈍ったところを、なんとか仕留めた。


 正直、戦闘は得意じゃない。

 だが、素材を無駄にするのはもっと性に合わない。


 ワイルドボアは市場だと角と牙、皮の方が扱いやすい。

 肉は硬く、臭みも出やすいので、安値で加工業者に流れることが多い。

 

 けれど、全部が駄目なわけではない。


 俺は作業台に肉の塊を置き、包丁を入れる。


 【解体】の感覚が、筋の走りを教えてくれる。

 ここは硬い。

 ここは煮込み向き。

 ここは脂が強い。

 そして、骨に近い赤身は、火入れを間違えなければいける。


 「ステーキ……いや、丼だな」


 白米がある。

 醤油もある。

 そしてにんにくもある。


 疲れた探索者に出すなら、皿の上に綺麗に並べるより、飯の上に肉を乗せた方がいい。

 肉汁とタレが米に染みる。

 それだけでかなり…それも腹を空かせた探索者にとって凶悪な一品になる。


 俺は無洗米を小さな飯盒に入れ、水を加えてしばらく置く。

 その間に、肉の筋を外して、厚すぎない程度に切る。

 硬い部位は今日は使わない。

 柔らかい赤身と、香りづけ用の脂を少しだけ切り分ける。


 塩と胡椒をしっかりと赤身肉表面に振る。

 にんにくを薄く切っておく。

 小さな鍋で醤油とみりん風調味料を合わせ、少しだけ煮詰める。


 「そろそろ米を炊き始めるか」


 携帯コンロの火をつけると、飯盒の中で米が音を立て始める。


 少し経つと湯気が上がる。

 米の甘い匂いが、タープの下に広がっていく。

 俺はお米が炊き上がっていく時の匂いがたまらなく好きだ。


 やがて炊き上がった米を蒸らし、その間に肉を焼く。


 フライパンにワイルドボアの脂を落とす。

 じわりと溶けた脂に、にんにくを入れる。

 熱した油とにんにくのあの匂いが周囲に充満していく。


 その瞬間、自分の腹が鳴る。


 「……これは、凶悪なまでに反則だな」


 油ときつね色に染まったにんにくが熱されているフライパンに、肉を優しく置く。


 じゅう、と音がする。

 表面が焼け、脂が跳ねる。

 赤身の色が変わっていき、焼き目がついていく。


 ワイルドボアの肉は性質自体は牛肉に近く、豚と違ってそこまで熱を通す必要もない。

 だが俺はミディアムレアが好きなので、しっかりと両面に焼き目を入れて、そこから火の勢いを落とす。

 ゆっくり火を通すことによって、芯まで完全なレア状態を作り上げていく。


 「……そろそろかな」


 フライパンからいい色に焼けた肉を取り出し、残った肉汁に醤油をかける。

 焦げた醤油と肉の匂いが一気に広がり、この匂いを嗅いで俺は確信する。


 「これは傑作の予感…」


 湖畔の風が、その匂いを森の方へ運んでいく。


 俺は炊きたての米を紙皿によそい、その上に焼いたワイルドボア肉を食べやすいように一口大に切って乗せる。

 フライパンに残っていたたれを少しかけ、仕上げに黒胡椒を振る。


 これで、ワイルドボアのステーキ丼だ。


 店で出すにはまだ荒い。

 だが、ダンジョンの中で食う夕飯としては、かなり……いや、相当良い。


 「いただきます」


 一口食べる。


 肉は少し歯ごたえがある。

 だが、硬いというほどではない。

 程よい固さの肉を噛むと、赤身の味が強く出る。

 そこに、にんにくと醤油だれが絡む。


 後追いでタレを吸った米が肉と絡み合う。

 米に染みた肉汁が、これまた旨い。


 「……うん」


 これはいける。

 探索で消耗した体には、たぶんこっちの方が確実に刺さる。


 そこで、森の方から聞き覚えのある声がする。


 「……あった」


 「本当に昨日の場所だ」


 「よかった、まだあった……」


 顔を上げると、昨日の三人が立っていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ