第三十三番 決戦の時
フェニックスから解放されたユメノは土師達の方に向き直った。そして、ミッシェルとしっかり目が合った。
「さんざん振り回したのは、本当に申し訳ありませんでした。私が弱いばかりに皆さんを旅に参加させて、混乱させて……」
ユメノは深々と頭を下げた。その行動に驚いたものの、質問の余地を与えさせてはくれなかった。すぐに頭を上げ、言葉を紡ぐユメノ。
「ですが、私はもう。弱くありません。『蛇遣い座』の化身、オフィウクスとして生まれ変わりましたから。だからどうか。皆さん。私のことを忘れてください」
「本当に、それでいいのかしら? ユメノちゃん……いえ、オフィウクスさん。あなた、まだ雨音さんときちんと話をしていないんじゃなかったかしら?」
この状況でもなお、対応できるミッシェルの大人力はすごいと思わざるを得ない。そして、またも核心に触れる。
「雨音……。そう。もういいんです。彼女とはわかりある気がしませんから」
ユメノはそれだけを言い終え、力を放出させようと構えた。土師達は何が出来るでもなく、構えることしかできなかった。その時だ。
「私はそうは思わない。私達がユメノとオフィウクスの両方を救ってみせる」
声だけが先行してユメノたちに届いた。一瞬の瞬きの後にユメノは目の前に一匹の犬とその上に乗る三人の女性を確認した。そして、少し遅れて二羽の鳥に乗っていた、撫子、枚方、四条、、颯真と楓真、杏樹、西中島がやってきた。一人の女性、長尾が二羽の鳥を優しく撫で、村に帰るように指示した。人間を乗せていた大きな鳥はその見事な翼を羽ばたかせて、やってきた道を戻っていった。
「これはどういうことだ? クリスティア。お前にはオフィウクスと共に一冊の本を持ってくるように頼んだはずだが。『黄道十二宮』を連れてこいとは言っていないぞ」
ユメノが一人で戻ってきたことに何かおかしさを感じていたフェニックスであったが、クリスティアのことを信頼していただけあって、かなり、憤りを感じている。
「申し訳ございません。私は、もう。あなたのもとには帰りません」
裏切り宣言だ。クリスティアの精一杯の裏切り宣言。すべては彼を運命のしがらみから解放させるため。それでもクリスティアの心は痛んだ。
「そういうことか。お前には失望した。けどそれももうどうでもいいことだ。ブライオンもターマックもお前も、これからの私に必要ないからな。私にはオフィウクスだけで――」
フェニックスがオフィウクスを自身に引き寄せようとした瞬間に、ユメノはゆめのの攻撃を受けていた。完全に油断していた。すぐに攻撃態勢に入るものの、ユメノは相手が犬なので、どう対応しようか悩み、動けないでいた。あれ以来、ゆめのも攻撃を仕掛けない。いつの間にか彼女の周りに雨音たちが集まっていた。フェニックスの方はというと、クリスティアに指輪を見せつけられていた。
長尾が土師達に今までの経緯を手短に説明した。クリスティアが味方に付いたこと。フェニックスのもとに向かう前に自分と合流できたこと。村の災難は免れ、ゆめのを介して動物たちの力を借りてここまで来たこと。『黄道十二宮』の力をどのように使いたいのか。ここにいるみんなが納得した。
「うわぁぁぁぁ」
ユメノの叫びと共に、衝撃波が飛んできた。吹き飛ばされることは無いが、傷が出来ないのにとても痛かった。それでも、みんな動かない。ユメノの名前を呼んでいる。ユメノが睨みながら両腕で、力を乱れ撃ちしているにもかかわらず、みんなは崩れない。何故? どうして? どうしてみんな、私なんかに構うの?
「なんで? みんな私なんかに……構うのよ」
ユメノの瞳には涙が浮かんでいた。今にも零れ落ちそうな涙。うっかりしたなんか見てしまったら零れてしまいそうな。ゆめのがゆっくりとユメノに近づいていく。足元まですり寄った。ゆめのは自分を撫でるように催促した。促されるままにユメノはゆめのの頭を撫でた。その行為にユメノのわだかまりがほどけてゆく。頬に涙が伝っていく。
「ユメノ。私はあなたと仲直りがしたい。喧嘩別れなんてしたくないよ。ユメノは?」
攻撃がやみ、静かになったことで雨音の声がユメノによく届いた。
「私だって! 本当は! ……だけど、出来ない。もう戻れないの。彼を一人になんてできないし、これは私の運命だから……」
ユメノはしまい込んでいた本を取り出し、その本の最後のページに書いていることを読み始めた。呪文の最後にオフィウクスとフェニックスの名を叫んだ。
クリスティアに指輪を見せつけられ、大きく取り乱したフェニックスであったが、自身の身体が光りだしたことにより、正気に戻った。
「はは、その指輪気に入ったのなら君にやるさ。私はもうそれなんかなくたってこの世界の神になれるんだから」
時すでに遅し、ユメノが呪文を呟いたこと、名前を入れ込んだことにより、神認定が始まってしまっていた。二人の身体が光りだしたのが何よりの証拠である。
「雨音さん! 強行突破です! 間に合わなくなる!」
ミッシェルの合図により雨音はこくっと頷いた。そして、みな、順に叫びだす。
「わが名は長尾。『白羊宮』の星座よ、輝け」
「わが名は花江。『金牛宮』の星座よ、輝け」
「わが名は颯真と楓真。『双児宮』の星座よ、輝け」
「わが名は撫子。『巨蟹宮』の星座よ、輝け」
「わが名は凛音。『獅子宮』の星座よ、輝け」
「わが名は友里亜。『処女宮』の星座よ、輝け」
「わが名は枚方。『天秤宮』の星座よ、輝け」
「わが名は杏樹。『天蠍宮』の星座よ、導け」
「わが名は西中島。『人馬宮』の星座よ、導け」
「わが名は長尾。『磨羯宮』の星座よ、導け」
「わが名は土師。『宝瓶宮』の星座よ、導け」
それぞれの手の先には魔法陣ではなく、星座のマークが光っている。ユメノの身体の光りに負けないぐらいの光りである。雨音も、構える。
「わが名は雨音。『双魚宮』の星座よ、輝け」
十二の星座の光りはとてもまばゆいものであった。すべての闇を浄化させる光りのようで。とても温かみを帯びていた。




