第二十九番 旧図書館と赤子とブロンドの女性
さて、本格的に熱くなってきましたが読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。
雨音たちはまだ、長尾を連れていくことが出来ていないようですね。
少女を乗せた黒銀の毛並みを持つ大きな犬が森の中を駆ける。その速さは人間の足では追いつけないもの。木々をよけて走っているのだろうけれどまるで木々がよけているようにも感じられる。
背に乗る少女は慣れているらしくこの速さに身を任せている。頬にあたる風は心地よく、腰の位置まである髪はなびいている。
やがて、目的地に到着する。少女が降りやすいように体を低くするゆめの。長尾はゆめのの頭をしっかり撫でて、傍から離れないように告げる。
二階建ての古びた館が目の前にそびえたつ。あちらこちらに錆が見られ、風化してしまっていることが見て取れるがこの館は確かに存在している。
古びた館、村長のいうところの旧図書館は確かに鍵がかかっていた。村人たちが図書を必要とするときは村長の住まいの隣にある図書館を使用するため、誰もこの場所まで足を運ばない。だいたい使用している図書館に入っている図書でみんな解決してしまうためここに来る必要がないのだ。
「こんなところにあったなんて知らなかった。ゆめのはこの場所を知っていたの? 」
長尾は旧図書館にくぎ付けになりながらも傍らにいるゆめのに問いかける。いつもならばゆめのは何らかの反応をするのだが、今は何も答えてはくれない。
「まぁいいや。早く鍵を開けて……四条さんたちのもとに帰ろうね。ゆめの」
やはり答えない。それどころか何かに警戒しているようだ。一体何に警戒しているのかわからないがなんだかよくないもののようだ。
首にかけられている鍵を鍵穴に差し込むと緩やかに右に回した。鍵穴が少し錆びているのか回した時に鈍い音がした。
「えっと。これで開いたのかな? 中が気になるけど大人しく帰るしかないよね? 」
ゆめのは答えないが静かに体を低くした。長尾が乗れるように。その行動を見ただけで、長尾はこれでいいんだと分かり、ゆめのの背中に乗る。
「ゆめの。お願いね」
ゆめのは再び森の中を駆けてゆく。
誰も通らないせいか背の低い草が生い茂ってしまっている道を歩く。村長の後ろに続くのは雨音、颯真と楓真、杏樹、西中島、撫子、四条、枚方。置いていかれないように、必死にその背中に続く。
村長の歩は止まらないがふと、言葉が発せられた。
「長尾はな、正式にはこの村の娘ではないんだよ」
一瞬耳を疑った。長尾ちゃんがこの村の娘ではないって? だって、村長さんのお孫さんだってさっき……
「あの子はな、ある日、どこかの国の女性が連れていた赤子でな。まぁ、その女性の子供でもないらしいんじゃが」
『黄道十二宮』の各星座は性別が固定されている。例えば魚座であれば女性であるし、天秤座ならば男性である。そのため、母親から継承されるもの、父親から継承されるものに分かれる。そして、『磨羯宮』の長尾であれば母親からの継承になる。ということは長尾の本当の母親は別に存在することとなる。生きているのか死んでいるのかは定かではない。
そのことを思えば、村長はずっと独り身らしいからこの時点で矛盾が生じることになる。
「今から向かおうとしている旧図書館の前に捨てられたんじゃよ。いや、違うな、その女性は涙を流していた。赤子を置き去りにしてしまうことに悲しんでいた」
記憶を呼び戻しつつ話をする村長。雨音たちは静かに話を聴いている。
「いやな、ゆめのを連れて旧図書館に向かっているときに、女性の姿をみつけたんじゃよ。一瞬声をかけようとしたんじゃが、あっという間に姿をくらませてしまったんじゃ。もちろんその頃はゆめのも小さかったから今ほどの速さで走ることが出来なくて、追うことも出来なかった」
悲しそうな表情をする。涙を流してはいないがどこか儚げな表情である。
長尾を置いて姿をくらませてしまった女性は天然のブロンドを持っていた。それだけだが、この国の女性ではないと確信した。そして、旧図書館の前に残された長尾は真っ黒な髪を持っていた。すぐに、あの女性の子供ではないことに気が付いた。
どうしたものかと考えたが、この村で育てることに決めた。あの女性はきっと理由があって長尾を置き去りにしてしまったのだろうと、同情の心が先立ってしまった。そして、この赤子を見捨てるわけにはいかないと……。そうして、ゆめのと共に育てること二十三年……
あれからその女性は姿を現さないらしい。
「ん。二十三年てことは、長尾ちゃん二十三歳か! 若く見えるね 」
そういえば四条が静かだったことに今更ながら驚く一同。村長は面白そうに答える。
「そうじゃよ。見る限り四条は年下に見えるが年上の女性はどうじゃ? 」
もうひとつ、そういえば長尾ちゃんは四条が気になることを忘れていた。
「年齢って関係ないと俺は思うよ。長尾ちゃんが三つ年上でも仲良くするつもりだよ」
満面の笑みを村長に向ける四条。その笑顔を見て、少しほっとした村長は心の中で、長尾の恋にツッコミを入れた。
長尾よ、四条は善いやつだがなかなか遠いぞ。
やがて、目的地に到着する。二階建ての古びた館が目の前にそびえたつ。あちらこちらに錆が見られ、風化してしまっていることが見て取れるがこの館は確かに存在している。
この村は一体何を隠しているのか、ゆめのは何に警戒しているのか、村長が見たブロンドの女性とは誰なのか。気になる要素が盛りだくさんです。(作者はこれらをすべて回収できるのでしょうか)
今後の展開をどうか楽しみにしていてくださいね。




