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星座が導くままに、進め、少女たち。  作者: 大川魚
黄道十二宮を探せ
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第十七番 ユメノの叫び

 笑い声は消えた。笑顔も消えた。ただ二人の間に再び溝が生まれたようだ。

 「どうしても、ユメノに伝えておきたいって思ったから」

 嫌な予感しかない。ユメノはそう思い、目をそらし雨音の話を聞かないようにした。そうすることでこれ以上話は続かないと思ったからだ。でも、雨音は既に決心している。

 「ユメノ。私はこの旅で、一つの答えに至ったわ。ユメノの願いのために『黄道十二宮』の力を使うことはできない。でもね――」

 はっきりとそんなことを言われてしまった。一番傍に居てくれた一番信用できる、一番の友達……。雨音からできないと言われてしまった。理由など分からない。続けて雨音が何かを言っているが何も聞こえてこない。どうしよう。どうしようどうしよう。考えても無駄になってきた。雨音が何を言おうともユメノの中の焦りは消えないどころかますます悪化していく。

 「ユメノ。旅は一度中断させよう。今のユメノには旅は続けられないし、ユメノの努力が無駄になる――」

 無駄になる。雨音の気を遣った台詞がユメノの何かにスイッチをつけてしまった。

 「無駄?無駄だったの?私が!私が村を復興させようと努力していたのは雨音にとっては無駄なことだと思ってたの」

 自我が統一できない。自分で自分をコントロールできなくなっていく。ユメノは感情のままに雨音をまくしたてる。

 「そうだよね?そうだよ。雨音は知らないでしょう?今でもずっと帰る場所がある雨音なんかに私の気持ちはわからない!私は!自分の目の前でお母さんも故郷も失ったのよ?それに、生まれた時にはすでにお父さんはいなかった!その中でも私は考えたわ!」

 「ユメノ、違う。最後まで話を聞いて!」

 「うるさい!死んだ人が生き返ることは絶対に出来ない!私はちゃんと理解しているわ!もし、私の願いがそれで、そのことについて雨音が出来ないというならば私だって納得する!だけど、私の願いは誰かに咎められるべきものじゃないわ!」

 雨音が何を伝えたかったのか、私にはもう、どうでもいい。だって、雨音は私を否定したのだから……。

 自分を否定した相手がだれであろうともユメノは敵と考えてしまったのか相手をまくしたてていく。

 「それとも、雨音は私のことを笑っていたの?そうよね、本当ならもっと早い段階で、いや、出会った段階で断ればよかったじゃない。それが今、あと数人で十二人が揃い、力が使える状況になる今までずっと、黙っていたのよね。私の一番近くにいて、私の一番の理解者のように見せかけて、心の中ではさぞかし笑っていたのよね。無駄な努力をしてる可哀想な女の子って」

 こうなることを想像していなかった雨音は何も返すことが出来なかった。いや、ユメノにそんなことを言われてもなお、ユメノを放っておくことはできなかった。だけど、今の状況では何かを言ったところで状況が悪化するだけだと判断した。自分に対して敵意を抱いたユメノのことを悲しいとも思ったがそれ以上に一人で抱え込んでいたユメノのことが一番悲しくなった雨音は自然と涙で頬を濡らしていく。ユメノが一人で抱え込んでいたものが、今、ユメノの外へと零れだしていると考えると次々に涙が流れていく。

 「何?弁解もないくせに涙を流すなんて、雨音はやっぱり偽善者だったのね。もういい、もういいよ。先に帰る」

 雨音のことを放り出し、ユメノは足早に旅仲間が待つ場所まで帰っていく。



 友里亜と撫子、土師、枚方、凛音は雨音から話を聞き、ミーティングを行っている。これからどうしたものか、ユメノを一人、村に返してもよいのか。

 雨音を含める六人が頭を悩ませる中、ユメノの様子をうかがいに行っていた颯真と楓真、杏樹、西中島が帰ってきた。一緒にユメノのところに行っていたフェニックスの姿だけが見当たらない。

 「フェニックスさんは今、ユメねぇとお話ししているよ。どうやら、だいぶん落ち着いたみたい」

 杏樹は静かに事の悦明をする。大人びた言葉遣いで。

 一部の人間はフェニックスとユメノが二人きりになっていることに不穏を感じたが、それをどのように 凛音たちに話そうか困った。彼らは長らくフェニックスと行動を共にしていたからである。

 どうしたものか頭を悩ませる中、凛音が話し出す。

 「実のところ、俺たちにもフェニックスさんが何を考えているのかはわからないんだ」



 静かに流れる小川の前でユメノは膝を抱えたまま何回目かのため息をついた。そのたびに小川の中を魚がキラキラ光りながら泳いでいく。ユメノの背中は沢山の木々で遮っている。現実世界から切り離された空間が傷ついたユメノの心を癒している。

 「なんで、あんなこと言っちゃったんだろう。私。なんで雨音の話を最後まで聞かなかったんだろう。私」

 はぁ……

 隣で何も話さず、ただずっと傍に居てくれるフェニックスはユメノの頭を優しく撫でる。

 「私、信じてたのよ。ううん。あんなこと言われてもまだ、どこかで雨音のこと信じてる……。だって、私、雨音しか信じられる人いなかったから……」

 ただただ、独り言のようにつぶやく自分のことに意見するでもなく頷き、傾聴してくれるフェニックスのことをユメノは信頼しきっていた。

 「私ね、お父さんに会ったことがないの。生まれた時にすでに亡くなってたんだって。私のお母さん、隠し事が苦手な人だったから、お父さんがなんで亡くなったのか教えてくれた。事件に巻き込まれたんだって」

 ユメノは雨音にも言っていなかったことをフェニックスには話しても大丈夫だろう、逆に、話を聞いてほしいとさえ思った。

 「事件か……。うん、続けて」

 事件と聞いて一瞬頭を悩ませたフェニックスだがユメノの話を遮るのは違うと思い、続きを促した。

そろそろ一段落つきそうです。

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