第十番 偶然か必然か
なかなか次話が投稿できなくて申し訳ありません。期待してくださっている方やそうでない方もいるでしょう。ですがどうか気長にこの物語を楽しんでいただければ作者は励みになります。
さて、再び行く当てがなくなってしまったユメノたちはひとまず隣の街まで歩いて向かうことになった。ミシェルさんに手渡されたお弁当を片手にぶらぶらと道を進んでいく。どれぐらい歩いたのだろうかもうすっかり街の影は見えなくなっていた。道を歩くたびに多くの人とすれ違った。彼らは仕事から帰ってあの街に向かっている途中だったんだろう。年配の男性がほとんどであったからだ。しかし、彼らにユメノたち一行がどのように映ったのだろうか、不思議そうな目を向けてくる人もいれば下を向いて足早にすれ違っていく人もいた。十人十色ではあるものの、あきらかにユメノたちを気にしている感じであった。
「ずいぶん歩いたよね。ユメノ大丈夫?疲れてない?」
雨音がユメノの傍らを歩く。歩幅を合わせるように。ユメノの身長は雨音の顎ぐらいの高さしかない。その分二人の歩幅は大きく変わっていくのだが雨音はそれを感じさせず、しっかりユメノのペースに合わせている。
「雨音。大丈夫だよ。たまには歩かないとね。身体がなまっちゃう」
ユメノはジョギングするような仕草で雨音の横を歩く。大きなトランクを引きながら。
「まぁ、確かにそれはそうだね」
雨音も健康には気にかけているのか、歩くことに納得している。
「僕たちも歩くの好き。電車は飽きちゃった」
「汽車もバスも飽きちゃった。歩くのいいよね」
颯真は友里亜に、楓真は撫子に手をつながれたまま、楽しそうに歩いている。歩くことを楽しめる子どもって素敵だなと一瞬思ってしまう。
「そういえば、一つ、気になっていることがあるんですが、今話しちゃっても大丈夫かしら?」
友里亜は静かにユメノを見つめる。ユメノも友里亜を見つめ返す。友里亜の口調から真剣な話であると分かる。雨音も静かに二人のやり取りを見ることにした。
「大丈夫です。話したいことって、もしかして、天文学者の……?」
最近目にすることが増えた、ポスターが真っ先に頭に浮かんだユメノ。そういえば初めて見つけたときは枚方さんに観光案内してもらっているとき……。そういえば、枚方さん、どうしているんだろう。
「そう。彼、フェニックスについて。チラシには毎回『zodiac』という文字が書かれているじゃない?あれって、『黄道十二宮』のことじゃない?」
いつの間にか手にしていたチラシを友里亜はユメノに見せてくる。本当だ、『zodiac』って書かれている。これが日本語でなんていう意味かユメノには分からない。
「あ、書いてある。黄道帯、十二宮図……だってさ。まさかそのフェニックスって人も私たちを探しているのかな」
雨音の手には小さな電子辞書がおさめられていた。雨音は気になった言葉や単語をすぐに調べる癖がついてきたらしい。それよりも、フェニックスが雨音たちを探しているとなるとユメノの願いが叶えられなくなってしまう可能性があるということだ。
「え、待って。フェニックスは……。いや、でもそんなこと、どうしよう!雨音、私」
「落ち着きなって、ユメノ。この人天文学者だからどちらかというと探求の方じゃないかな?」
雨音がユメノをなだめる。何度かユメノの混乱を目の当たりにしてきた雨音はすでに彼女のなだめ方を熟知している。願わくば、もう少し心を強く持ってほしいものだけど。
「だ、だだだだよね!天文学で天文のこととやらなかったらおかしいよね。あはははは……」
最近、ユメノは新しいキャラを生み出したようだった。友里亜は頃合いを見て口を開く。
「そうだね、まぁ。それも含めて一度彼には会っておいた方がいいんじゃないかなと思ってね」
そんなにすぐに会えるものなのか疑わしいところだけど、でも今はそれが最優先であろうと考えた。
どれほど歩いたのだろうかようやく隣の街までたどり着くことが出来たユメノたち一行は休憩のために小さなカフェの中に入った。近くには有名なカフェやフード店、ブランド店があるためか、ここの小さなカフェにはそんなにお客がおらず、ゆっくりと落ち着いた空気が漂っている。
「それにしても、この街にいるらしいね、天文学者のフェニックス、すごい偶然じゃない?」
雨音は先程、店の人に聞いた情報を引っ張り出してきた。砂糖とミルクたっぷりのコーヒーをすすりながら話す。
「旅をする天文学者ってのも初めて聞くし、もしかしたら、変人なのかもしれないね」
撫子は冗談っぽく双子に笑う。
「変人だよ。きっと」
「変人だよ。多分」
ケーキを頬張りながら双子も撫子に笑い返す。
「変人……かどうかはともかくとして、これを絶好のチャンスだと捉えるべきだね」
友里亜はカフェラテをすすりながら分析する。今自分たちがどのように行動するべきなのか、この機会をどのように対応するのか。考える、友里亜の天才的な頭脳で。
「私も、友里亜みたいに天才だったらな……」
ユメノは少し落ち込む形で呟く。両手を見つめながら。あの時の光景が脳裏に浮かび上がる。炎に向かって飛び込む母に何もできなかった自分の姿が。
「ユメノにはユメノのいいところがあるんだからそれでいいんじゃないの?私は今のままのユメノが一番だと思うよ。今のまま……というか、まぁ」
雨音にしてはやけに言葉尻を濁しているがユメノは気づかなかった。
「うん。ありがと。雨音」
いつの間にかほかのお客さんが見当たらなくなっていた。店の人もカウンターでくつろいでいる。すると、静かに店のドアが開き、小さくベルの音が鳴った。ユメノたちの位置からはどんな人物が入店してきたのかまでは分からない。声のトーンから、足音から男性客だということが分かる。
足音はこちらにだんだん近づいてくる。どうやら後ろの席に座ったらしく、低いトーンの声が聞こえてくる。いきなり振り返ったりなんかしたら、失礼かなって思い、振り返らなかったユメノは双子の姿が見えないことに気が付いた。
「枚方お兄さん!久しぶりだね」
「枚方お兄さん!少し痩せた?」
双子の声が後ろから聞こえてくる。ユメノと雨音と友里亜は一斉に振り返った。そして、驚きの表情をしている。撫子だけが状況についていけず、ポカンとしている。
彼女たちの目に映ったのは二カ月ぶりの枚方の姿だった。
面白いことを表現するのも難しいですね。そして何より、自分の中の物語を表現することの難しさに今更ながら通関いたしております。
こちら、処女作である『星座が導くままに、進め、少女たち。』はかなりごちゃごちゃした内容になっていますので、ご指摘等あればどうぞお願いしたいです。