九月対九月 前編
朝5時程だろうか。寝室で寝ていたじいちゃんが目を覚まして、朝食も取らずに外へ出て行った。
祖父「おぉ、クー坊。起きとったか。感心感心…。そんで、また夢は見たんか?」
九月「うん、なんとか今回も守れた」
祖父「そいつぁ良かった。じゃ、守ったついでに仕事の手伝いでもしてもらおうかな」
九月「わかった」
じいちゃんと一緒に古ぼけた木造の家を出て、すぐ前にある畑に向かう。
祖父「畑の方はまだいいから、鶏に餌やってくれ。いつもの場所にあるから」
はーいと返事をして、昔よくかくれんぼで使っていた家畜小屋に向かう。
小屋は一切変わっていなかった。かれこれ10年ぶりだが、餌が置いてある場所、ボロボロでそれほど手入れされてない木の柵。その奥にいるブタや牛や鶏。
九月「久しぶり…って、皆違うよね」
もう10年も経っているのだ。あの時自分が餌をやっていた家畜たちは、皆どこかへ売られてしまっているだろう。
祖父「いや、一匹だけおるぞ」
祖父が小屋の一番奥を指差す。そこには一匹の茶色い牛が暇そうにモッサモッサと牧草を食べている。
九月「…?」
もう時間が経ちすぎて誰なのかを思い出せないでいる自分に、じいちゃんは言った。
祖父「百子じゃよ。覚えとらんか?百子の出産にはお前も居ったはずだが」
九月「…。あ!」
思い出した。5歳くらいだっただろうか。夜に、一匹の牛の出産を自分は確かに見ている。そしてそこから1年は一緒に過ごしていた。名前を付けたのも自分だ。思い出した瞬間に、心はこれ以上ないほど晴れ晴れとして、スッキリとした気分になった。
九月「百子!」
百子に呼びかけながら駆け寄る。自分を見てもボーっとした表情の百子は、未だに口を動かして牧草をほおばっている。
九月「久しぶりじゃないか…元気にしてたか?」
言葉は分からないし、何の素振りも見せないが、只、「久しぶり」と言い返してきたように思えたのが嬉しい。
九月「元気そうだね。後で散歩行こうな。今はちょっと仕事があるから」
祖父「百子は今家の荷物持ち担当だ。力持ちじゃからな。お前を乗せることもできるぞ」
九月「そうなんだ、百子頼りにされてるな~」
頭を撫でて、仕事に戻る。鶏が居る柵の出入り口を開け、を少量ずつ撒きながら5~7羽の鶏を誘導する。
コッコッコッコ、と鶏特有の声を出しながら地面をコンコンと突いて餌を食べる。外まで誘導して、日の光りを体一杯に浴びせた。
九月「やっぱりここの朝日は良いね。なんかスッキリする」
祖父「だろ?」
その日の仕事は、牛の散歩と畑の周りの草むしり、そして野菜の箱詰め作業。
どれも汗を流せる程体力を使い、都会で育ってきた自分にはかなり堪えるものばかりだった。
九月「や、やっと…終わった…」
居間にぐったりと倒れこむ自分を見て、ビールを片手にじいちゃんが膝を叩く。
祖父「な~に疲れた顔してるんだ。明日は今日以上にキツイ仕事が待ってるぞ?根性ださんかいっ!ハハハハ!」
高らかに笑うじいちゃんを見て、自分も笑う。そして、仕事の疲れを発散させるように、布団にも入らずその場で寝てしまう。
祖父「もう行ってしまったか…。戻って来いよ、クー坊」
目を開けると、何時もの縁側…ではなかった。何処かはわからない森の中。風が吹く度にザワザワと自分をあざ笑うように、自分に恐怖を植え付けるように木々が揺れる。
九月「どこなんだここは…」
?「どこって、ここは幻想郷だよ」
後ろから声がして振り向く。しかし、誰もいない。
?「お前、九月っていうんだろ?」
九月「誰だ…。出てこい!」
辺りを警戒しながら、鞘に差したまま刀を握る。
?「誰だって…俺は俺だよ」
木の影から一人の男が出てきた。しかし、子の声は聞き覚えがある。ゆっくりと月の光りに照らされて、足、腰、胴、肩…とゆっくり下から正体を表す。
同じ服・同じ刀・同じ身体・同じ声・同じ顔。ソイツは自分自身だった。言うなれば、偽九月だ。
九月「そんな…お前、俺の姿を真似やがったのか!」
偽九月「真似るなんてしないよ。俺は俺、お前はお前。それぞれ違うよ。まったく別…」
九月「どういうことだよ…」
刀を構えたままの自分に、ヤレヤレと言った感じで首を横にふる。
偽九月「お前は外の世界の九月、そして俺は幻想郷の九月。そういえば早いかな?」
九月「もう一人の俺っていうことか…。て、じゃあそれぞれ違うって訳でもないじゃないか」
偽九月「『もう』違うんだよ!お前がここに来るまでは!この世界の九月は俺一人だった!けどよ、お前がこっちの世界に来るようになってからは、俺の存在が消えかかってる…」
九月「そんな…、でも、俺だって阿求を守るって役目が」
偽九月「そんな奴しるかよ!俺は平凡な暮らしをして、何の変化もない生活が送れると思ってた。なのに夜になると身体が薄くなっていくのが分かる。お前がこっちに来てる間だよ…。お前、邪魔なんだよ」
刀を抜いたソイツは、幻想郷に来て身体が軽くなり動きやすくなった自分に負けない速度で走ってきた。
自分も刀を抜いて横にし、ソイツが振り下して来る攻撃を防ぐ。
もう一人の自分、力も互角であろうソイツの攻めは異常なものだった。戦い方は自分とは全くことなり、死ぬことを恐れてないような戦い方だった。それが、自分が守りに徹するしかない程の差を生んでいる。
刀を持ってる相手に対して、斬られるかもしれないのに蹴りやパンチを繰り出してくる。自分もそこを狙って刀を振るが、全て避けられてしまう。
九月「なんて戦い方だよ…!」
偽九月「俺は死にたくない!俺はこの世界で生まれて育ってきた!それだけなのに外から来たお前みたいな奴に!俺の存在は消させない!」
ガンガン刀を振り回すソイツの攻撃を防ぐので精一杯だったが、一瞬だけ隙が見えた。刀を振る前の一瞬だけ、左脚はなんの防御もない。そこを突ければ、コイツを倒せる!そう確信して、偽九月の猛攻に耐え続ける。
偽九月「死ねよ!死ね!死ね!死ね!消えろ消えろ消えろぉ!!」
自分が両手で刀を持っているのに対し、ソイツは片手。なのに刀を振る速度は一緒だった。大振りになる筈の攻撃も、突きや寸止めなどを使いきれる程巧みな戦い方だ。
九月「確かに俺のせいでお前が消えるかもしれない!でも!俺にだって使命があるんだ!」
偽九月「うるせぇ!!」
刀を大きく後ろに構えたソイツの左足は、隙が出来ている。そこだ!刀を逆に持って左脚目がけて突き刺しにかかる。
偽九月「そんなこと知ってるよ!」
偽九月が刀をから手を放した。刀が無い分速く動ける偽九月はすぐに体勢を変えて、九月の顔面を殴りつける。
九月「っ!?がはぁ!!」
殴られて地面に倒れた拍子に刀を放してしまい。それを偽九月は遠くに蹴り飛ばす。そして、自分が放した刀を拾い、立ち上がろうとする九月の右腕を斬りつける。血が木に飛び散り、地面に突っ伏す様に倒れた九月は、苦しみの声を上げる。
九月「うぐううう…ぁぁぁあ!」
偽九月「この世界の九月は俺だけで充分だ」
そう言って懐から一つの小さな箱を取り出す。白く、ルービックキューブと同じ大きさの箱は、音も無く開いて行き、6面全てが開き切った時。それは起こった。
九月「!?う、うわあぁぁぁああ!」
身体がどんどん箱に吸い込まれていく。数秒の内に跡形も無くその場から消え、6面の箱の色は赤・青・緑の三色に二つずつ変化していた。
閉じた箱を懐に直して誰に言うでもなく呟く。
偽九月「この箱はある妖怪から貰った特殊なものでな。殺したい程恨む相手を閉じ込められる優れもの…。体・心・魂の三つを封印する。これが開かれない限り、お前は元の世界に戻ることもできない。箱の中で永遠を過ごすんだな」
箱を紐で縛り、懐に戻す。そして阿求の屋敷に向かって歩き出した。
1時間ほど歩いただろうか。薄暗い森を抜けて静まり返った人里に入った偽九月は、阿求の屋敷を探す。
偽九月「屋敷に入って即、阿求とかいうガキを殺してもいいが…それはそれでつまらないな。数日間アイツに成り済まして、最後は絶望を味わわせてやろう、フフフ」
人里を進んでいくと、自分が歩いている横の塀がやけに長いことに気づく。
偽九月「阿求って野郎はたしか金持ちって聞いたな…ここか?」
塀に跳び乗り、中の様子を確認する。そこには、いざ縁側に上がろうとしている子鬼4匹が居た。
偽九月「アイツら…俺より先に阿求を殺そうってのか。させるかよっ」
塀を飛び降り、落下途中で壁を蹴って垂直に跳んでいく。縁側に上ろうと跳んだ一匹の子鬼を抜刀で縦に真っ二つにし、鮮血を全身に浴びる。
偽九月「はっはぁ!来いよぉ!」
阿求「あの声、九月さん…?やっときてくれたんですね」
部屋の片隅で布団に包まりながら怯える阿求は九月の声を聞き取り、安堵の息を漏らす。そこには、不信感の一片も無かった。
一方、外では偽九月による虐殺ショーが行われていた。一匹を軽々と持ち上げ宙に放り投げる。子鬼が地面に落ちるよに速く刀を振り、叩き斬る。残った2匹も悲鳴を上げて逃げ出すが、跳んで一匹を踏みつけた偽九月は刀を容赦なく後頭部に突き刺し、横に倒して血をまき散らす。
偽九月「大したことねぇなぁ!ああ!?」
塀を飛び越え、逃げようとする最後の一匹となった子鬼。ほかの子鬼を惨殺したのとは裏腹にジッとその姿を眺めているだけで、その子鬼を逃がしてしまう。
それから数分後、やっと人里の出入り口まで来た子鬼は、先回りしていた偽九月に口から刀を突っ込まれ、絶命した。
薄い青色をした着物は所々赤く染まり、灰色の袴も同様に真っ赤だ。刀に付着した血を振り払い、刀を鞘に納める。
偽九月「さてと…これからどうなるかな」
不敵に笑う偽九月は、屋敷に戻って行った。
屋敷に戻った偽九月は、襖を開けて阿求の姿を確認する。
阿求「あ、九月さん…子鬼は」
偽九月「ちゃんと全部殺したよ」
偽九月(コイツが阿求とかいうガキか…。話には聞いてたが本当にガキじゃないか)
阿求「今晩もお疲れ様でした。ありがとうございます」
偽九月「大したことはしてないさ。俺は妖怪を殺しただけだ」
偽九月(そういえば、アイツが使命がどうのとか言ってたな…)
阿求「怪我はしていませんか?」
偽九月「服が汚れたくらいだな…それも構わないぜ。俺の使命だからな」
阿求「ふふ、頼もしいです」
偽九月(コイツ、俺とアイツの見分けがついてないみたいだな。好都合だぜ。このまましばらく騙してやるか。最後には、これだけの豪邸だ。金の在り処もその内調べておくか。コイツを殺した暁にはその金を俺が手にする。アイツは大事な人も守れず俺に敗北し、俺は生き長らえた上に大金を手に入れられる。なんて最高な人生だ)
本人は気づいていないが、その計画と喜びから成る笑みが表情に出てしまっていた。
阿求「…? 何か可笑しいですか?」
偽九月「え、俺笑ってたか?」
阿求「はい、こう、ニヤ~って」
そう言って指で口の両端を持ち上げ、下手な物まねをして見せる阿求。
偽九月(なんだそのフザケタ態度は、だからガキは嫌いなんだよ)
偽九月「はは…。そんなに笑ってたかな」
阿求「笑ってました。怖いですよ。何かあったんですか?」
偽九月「いや、何もない。ただ笑ってみたくなっただけだ」
偽九月(お前のオチャラケたその態度も。その内恐怖の表情に変わるだろうよ…)
九月「ここは…俺は、一体…」
紫色の水の中のような世界。不思議と苦しくは無く。意識は朦朧としたままだ。フワフワと何もない空間を漂っているだけだが、目の前に一つの映像が見える。大画面のスクリーンのような映像。枠はグニャグニャと不規則に曲がり続けているが、全体的な形は四角を保っている。そのスクリーンに阿求の笑顔が映し出されている。
九月「あ、阿求」
阿求「ねぇ九月さん。今度どこかに出かけてみませんか?この人里は長く住んでますが、まだ言った事のない店も多いと思うんです」
九月「阿求…、俺はどこにいるんだ」
偽九月「そうだな。面白そうだし行ってみようか」
九月「!?アイツ!」
その声を聞いた途端。意識は明確なものになっていった。思い出した。アイツに負けて箱の中に吸い込まれて…つまりここは箱の中ということだろうか。
フワフワと浮いているような空間では、身体は動くが移動することはできなかった。
九月「阿求!ソイツは俺じゃない!気付いてくれ!」
聞こえる筈は無かった。自分の気も知らないで、画面の奥の阿求は優しく笑っている。自分そっくりの惨忍な偽物に微笑みかけてる。
九月「アイツ、俺に成り済ましてるのか…!ちくしょう!」
拳を強く握りしめるが、どうすることもできない。
九月「阿求…阿求ううぅぅー!!」
楽しそうな雰囲気のソイツと阿求は気づかない。紫色の空間に、九月の叫びが木霊した。
奇怪な箱に閉じ込められてしまった九月。偽物の九月は、阿求を弄ぶように不敵な笑みを浮かべる。九月、最大の危機。奇跡を起こせるか?!
次回、夢からの守り人『九月対九月 後編』
次も暇つぶし程度にみてください。
※この次回予告的なものは、自分が特撮が好きなので入れてみているだけなので、深い意味などは一切ありません。




