海からの帰りに
5 海からの帰りに
シャワーから出でくると、恵子はすでに買い物を済ませていていた。
「何か決めたの?」
「はい、ほとんど決めて貰ったんですけど・・・。」
奥さんが言った。
「恵子ちゃん、少し見せてやったら?」
「ううん・・・今度会ったとき、着てくるから」
「僕はそれでもいいや、奥さんありがとう御座いました、すっかり汗も潮も落とせたし」
またすぐ、来るんでしょ?
「うん、ボード預かってもらいましたので」
「今月中?」
「うん、バイト休みの日に。来月は混むから」
「そうね、来月はうちも稼ぎ時だし!頑張んなきゃ」
「じゃ、また来ます」
「気をつけてね」
「はーい」
僕はセリカのドアを開け、シートを前に倒して恵子の友人の陽子を後ろに乗せた。
恵子は薄く延びた特徴あるドアノブを少々戸惑いながら引っ張って、助手席のドアを開けた。リクライニングを少し倒して、陽子と僕の間くらいに顔が来るようにして座った。
その半分寝たような体が、綺麗なボディーラインを描いていた。陽子が言った。
「やだー。三崎さんから体が丸見えだよ」
「あははっ。」
笑ってるだけで、直そうとしない。
「三崎さん、脇見は駄目よ」
「えっ?・・・」
二人は、またクスッと笑って、陽子が恵子の額を人差し指で軽く押した。
「いたーい!・・・んもう、陽子のバカっ」
「あははっ、二人は、仲が良いんだね」
「うん、小学校からの友達だよ。恵子はね、男運がないんだ、いい加減な奴ばっか。ねえ恵子?」
「大丈夫だよ、今度こそ」
「え?僕?・・・どうかな~」
セリカのエンジンを目覚めさせ、少しハイな気分でクラッチを繋ぐと、軽くキュツとタイヤが鳴って、すぐに回転が上がり加速が始まった。
「やだー、このクルマ、速くない?」
「このクルマが速い秘密、知りたい?」
「え?どこに行くとわかるの?」
「いい男のとこ」
「え~?それじゃわかんな~い」
僕はギャランの進行状況と来月の予定や秋の事を聞くために、八王子に寄るつもりで走った。
「ねぇ、どこ行くの」
「友達のところだよ」
「ああ、それがいい男なんだ~・・・楽しみっ」
陽子は、少し期待している。
「陽子、なんか期待してない?」
「してるよ!」
恵子はさっきの仕返しに、陽子の内股をちょんと叩いた。
「あん、こら~」
「へっへっへっ・・・」
「恵子のイジワル!」
間もなくして、僕は国道16号を左へ曲がり、八王子に出てサマーランド方面に向かった。
市街地が過ぎて、辺りが畑や小さな工場があるところで減速して、土井のショップに頭から入り込んだ。高校時代の友人が2人来ていて、なにやら作業を手伝っていた。
土井が聞いた。
「おう、三崎・・・あれ?カノジョ?」
「うん、今日から。」
「なんだそれ?」
「あははっ」
「まぁ、いいや、いつもの事だし」
「あっ・・・それ、ひどくねぇ?」
「だって事実だし・・・ギャラン、いまエンジン降ろしたとこ」
ぼくはセリカに戻って、二人を連れて来た。
陽子が僕に聞いた。
「あれが・・・いい男?」
「あははっ・・・そうだよ、ちょっと話、してみたら?」
陽子は、少し汚れたツナギ姿の土井に、挨拶した。
「こんにちはっ!」
土井は、びっくりして、ギャランのエンジンルームの下にスパナを落としてしまった。
「あっ、ごめんなさい、仕事してたのに」
陽子は、リフトしていたギャランの下からスパナを拾って、土井に渡した。
土井は、黙ってそれを受け取った。そして作業を続けていた。
困って、僕のところに陽子が泣きそうな顔で来た。
「ああ、大丈夫だよ。あれ、ぼくが乗ってる競技用のクルマ。今直してるの」
恵子が聞いた。
「え?三崎さんて、サーフィンだけじゃなくて、レースもしてるの?」
「レース・・・じゃないんだけど、今度見にくれば分かるよ」
「なんか、三崎さんの周り、すごいね。私なんかでいいのかしら・・・」
「あははっ・・・今までの男が、からっぽ過ぎたんじゃない?大丈夫、別に普通」
僕は土井のところに行って、食事に行ってくることを告げてセリカに乗った。
「乗りなよ」
僕は二人を誘った。
「あの・・・向うの二人は?」
「ああ、高校の時の同級。一緒に来るか誘ってみて」
二人は、友人二人を連れて来た。セリカに5人乗って、すかいらーくに入った。
「えっと、鈴木と高橋。二人は、土井と高校の軽音部だった」
「鈴木です」
「高橋です」
「私、佐藤恵子、友達の鈴木陽子。さっき土井さんに、挨拶したら驚かれちゃって、今へこんでる」
鈴木が言った。
「あははっ・・同じ苗字だね、陽子さん、気にすること無いよ、あいつは駄目なんだ、女の子。三崎みたいに免疫出来てないからね、まあ、三崎は特別酷いけどね」
「え?僕、なんか酷いかなぁ・・・」
「ちっ・・・バラすぞ!」
「いいよ別に・・・ってなんか僕、悪いか?」
「自覚してない」
恵子が聞いた。
「ちょっと話した感じ、シャイだけど、プレイボーイっぽい」
「ピンポーン!・・・気をつけてね」
「今までにないタイプ。三崎さん、知り合い多いし、すごいし。私ちょっと引いてる」
僕が答えた。
「大丈夫だって、全然普通」
鈴木が言った。
「普通じゃない。土井のチームのドライバー。一番速いんだ」
「やっぱり・・・でも、もう駄目かも」
恵子は、そう言って僕の横で距離を近づけて、肩を当てた。
僕が言った。
「それよか、土井。僕さぁ、どうにか彼女作ってやりたくてさ、陽子さんどうかな、って」
陽子が言った。
「今まで土井さん、ずっと仕事なさってたんですよね?」
高橋が答えた。
「そうだね、卒業してから整備工場でずっと修行して、家に帰るとみんなの車直したりして、遊ぶ暇なかったね。でも、それで大変とは思っていないと思うよ。好きなことだからね。あのショップは、自分で開いたんだよ」
「そうなんだ・・・カッコよすぎる。私、でもあの一生懸命さに惹かれた」
「多分、簡単には話はしてくれない。職人気質っていうのか、仕事してないときは、すごく優しくて、いい奴だよ」
鈴木が言った。
「今度、みんなで飲もうか、僕たちも女友達連れてくるよ、なぁ高橋?」
「おぅ!」
僕が言った。
「そういうときの土井見れば、きっと安心するよ。今日の事なんか気にしてないからさ」
高橋が言った。
「そうだね、立川辺りで場所決めて、やろうか」
僕たちは早々にみんなで集まって、ひとまず4対4で飲むことにした。