↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/14

送る途中で

6 送る途中で


再び土井のショップに戻って同級の二人を降ろして、僕たちは帰宅することにした。

僕が言った。

「今日はもう遅くなっちゃうから、詳しいこと、土井と話して決まったら連絡くれる?」

鈴木は答えた

「勝手に決めちゃって大丈夫?」

「いやいや。実はその前にさ、土井がどういうか想像つかないんだ」

「土井なしでも飲みたいね」

「それはOKよん」

「わかった、とにかく連絡する」

「うん」

僕はそう言って頷き、クルマを転回させた。

恵子と陽子は、鈴木と高橋に手を振って挨拶した。

「じゃ、悪いな、僕のギャランほっぽって帰るけど」

「俺らで適当に手伝うからさ」

「ああ、サンキューな!じゃ!」

僕はセリカを立川方面に向けて、右手で挨拶しながらゆっくり加速した。

「三崎さん、今日はありがとう、私にも気を使ってもらって」

「いやいや、恵子の友達じゃ、何か役に立ちたいじゃん?」

「あ、三崎さん私のこと、今言ったよね、恵子って」

「え?言ったっけ?ごめんね」

「ううん、いいよ私・・・嬉しい」

「いいな恵子は。最初にOKしなきゃ良かった・・・」

陽子はそう言って外の景色を眺めていた。

「海から僕が上がってくる前に決めておいたの?」

僕はルームミラーで陽子の顔を見ながら尋ねた。

「ううん・・・ちがう。恵子が両手で拳作って胸につけたでしょ」

「ああ、あれがサインなんだ・・・」

「サイン・・・じゃないけど恵子が最初に惹かれたからかな」

「ああ、そのあと二人で頷いたのは・・・」

「そう、私はOKよっていう感じ。私も今言うと、三崎さんいいなって思った」

「陽子さんは、彼氏とかいるの?」

「いるって言えばいるけど・・・ねぇ、恵子?」

「そうね、もう長いよね、っていうか良く続いてるよね」

「でもね恵子、ここ一ヶ月位デートしてないんだ」

「そういえば私といる時間多いよね」

「だって恵子といる方が楽しいもん」

「これから夏休みなのに、陽子さん大変そうだね」

僕はどう言ったら気が利くのかわからず、そう言ってバックミラーで見て顔をそらした。

陽子は無言のまま、暫く外の景色が流れるのをぼんやりと見ていた。

恵子はコンソールに置いてあったテープを一つ取り出し、それをステレオにセットした。

ボズ・スキャッグスの「ジョジョ」の落ち着いたイントロが疲れた体に心地よく響いた。

「私、良くわからないけど、最近良く聞く曲だね」

恵子が言った。

「そう?」僕は取敢えずこれ以上趣味の話を広げないよう、軽くそう答えた。

次第に甘いヴォーカルに酔ったように陽子がスースーと寝息をたてているのに気がつき、

僕は軽く恵子を見て左手の親指を陽子に向けた。

恵子は、にっこり笑って、シフトレバーの根元に手を置いた。

僕はシフトする度にその手を確認するようにあてていた。

そのうち、恵子は僕の肩に頭を寄せて目を瞑った。

僕はちょうどその後の右にカーブする奥多摩街道を少し加速しながら曲がった。

「あん・・・イジワル・・・」

「もう少し・・・我慢してね」

再び離れた肩に不満そうな恵子。また、口を尖らせてチラッと僕を見た。可愛い。

「恵子・・・はさぁ、何かスポーツとか・・・」

僕は聞いてみた。

「うん・・・上手じゃないけど高校のときテニスしてたよ」

恵子は左の景色を見たまま反射する僕の顔を見て、答えた。

「そう・・・所沢・・・って言ったよね、入間川沿いの市民コート・・・」

「なんで知ってるの?やだ~、ちょっと分かったけど聞かない」

「え?聞かないの?わかった」

恵子は僕の肩を少し強く叩いた。

「もぅ・・・」

「僕、家に寄ってラケット取ってくるよ」

「え?今から行くの?」

「どうする?市民コート、夜は見えにくいけど、蛍光イエローのボール持ってるからさ」

「もう2年くらいやってない、私」

「僕も千駄ヶ谷の壁打ち専門だよ」

「じゃ、私が壁になってあげるね」

「だめだめ、壁は正確に帰って・・・」

「フンっ・・・私、壁になんか負けないもん!」

僕は青梅街道から入る狭い小道を左折して家に向かった。

「ちょっと待っててね、そこのプレハブが僕の部屋なんだけどね」

セリカのドアを開ける音で陽子が目を覚ましたようだった。僕は家にに向かって歩き、母屋に行って友達を所沢まで送ってくることを告げ、自分の部屋に行こうとすると、恵子と陽子が部屋のドアの前に来ていた。

「なんだ、来ちゃったの?ラケットとボール、取るだけだよ」

「ちょっと見てみたいの」

恵子が言った。当然今日会ったばかりの男のことだから早く色々知りたいのだと思い、承諾して、部屋のドアを開け、電気をつけた。

少し驚いたように二人は部屋にあるレーシングサイクルとツアー車(自転車)や以前乗っていたサーフボード、ラジコンカーやプレーン(飛行機)、剥き出しになったオーディオの自作スピーカー、二台のギターなどをを見ていた。

「・・・とにかく入りなよ」僕は二人を誘った。

「目が覚めちゃった、夢の中のおもちゃ箱みたいだ」陽子が言った。恵子は黙って見ていた。飾られた幾つかの賞状を見て、聞いてきた。

「三崎さん、あれ優勝じゃん・・・」

「ああ、ラジコン大会のだね、中学生の時かな、コーヒー入れようか」

「レコードいっぱいあるね、何かかけてくれる?」

僕は恵子の引っ張り出したイーグルスの、「ホテルカリフォルニア」を持ってアンプのスイッチを入れ、カチッと音がしてからターンテーブルに盤を乗せ、針を落としてアンプのボリュームを四分の一ぐらいまで上げた。十二弦ギターの少し重いイントロが始まったが、二人は良く知っているのか、落ち着いて聞いていた。

「音が綺麗・・・」陽子が言った。

僕はにっこり笑って母屋にサイフォンの水とカップを取りに行った。

部屋に戻ってアルコールランプに火を付け、サイフォンの下にセットした。

「ねえ恵子、三崎さんと上手くやっていけそうじゃん。っていうかうらやましいよ、ねえ三崎さん、私のことも考えておいてね。今の彼氏と比べちゃ彼がかわいそうだけど、もうこれ見て吹っ切れちゃった」

「・・・そう」僕は物に圧倒された彼女たちを見て、僕が以前に別れて来た人たちのことを思いながら、実は物に対する僕の執着心が、彼女らが苦しんだ原因の一つであることが分かり掛けた自分を、どう説明すればいいのかわからず、黙って、上がったサイフォンのお湯を見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。