第292話
「止めろ! キュルキオネ―――!」
司は來冥力を解放し、形態変化をした上でレギュラオン救出に向けて駆け出したが、もう遅い。
「ああああああああああああああああ!」
レギュラオンが覚悟を決めたその直後、彼女の頭を掴んでいるキュルキオネの手から特大の光線が放たれ、レギュラオンはゼロ距離でそれを食らってしまった。
「――ッ!」
「レギュラオンさ―――ん!」
司とテトラが見たのはキュルキオネによってレギュラオンの顔が光線によって焼かれるシーンであった。キュルキオネの手から放たれたその光線はそのままレギュラオンの顔の背後にある木々に直撃し、けたたましい音と共に焼野原へと変える。
やがて光線は徐々に収まっていき、最後には完全にキュルキオネの手から消えた。
「……」
攻撃を食らった時も、食らっている最中も決して声を上げる事は無かったレギュラオンは、今もなお無言状態を貫いている。
あのレギュラオンの事だ。もしかしたら保険で残していた來冥力の防御機能で、上手くダメージを最低限に抑えたのかも知れない。
そして実際にその予想は半分正解、半分不正解といったところだった。
正解部分は残っている來冥力を全て使う事でキュルキオネが放った光線に対抗した事。不正解部分はダメージを最低限に抑えたのかも知れない、という部分。
「レギュラオン……総帥……!」
キュルキオネがレギュラオンの顔を掴んでいた手を放した事によって、何とか彼女は解放された訳だ。だが負ったダメージは致命的なものであったのか、來冥者形態が解除されてしまったレギュラオンはその後膝をつき、うつ伏せに倒れてしまった。
ダメージを最低限に抑えるには残っていた來冥力が足りなかった事を意味しており、命を落とさなかっただけでも奇跡と言えるだろう。
その光景には司も、そしてテトラも戦意喪失に近い感情を覚えた。
彼女たちが負ける未来をどれだけ覚悟しようとも、そんなものは言い聞かせの域を脱していない脆いものだ。このように実際にその展開が訪れてしまえば簡単に絶望感で満たされてしまう。
「レギュラオン総帥……レギュラオン総帥!」
光線が放たれた事で思わず止めてしまった足を再び司は動かす事で彼女に駆け寄ろうとする。しかしキュルキオネがそれを許してくれなかった。
「うううううああああああああああ!」
「……!」
近付いた瞬間に司はキュルキオネの跳び蹴りをもらってしまい、豪快に後方へと吹き飛ばされてしまった。テトラの居る位置を通り過ぎ、木へと激突する。
「う……ぐ……!」
「つ、司くん……」
今すぐにでも駆け寄りたい。その気持ちはレギュラオンに対しても司に対しても沸き上がっているテトラであったが体が言う事を聞かない。そしてその事実が悔しくて仕方が無い。
状況は最悪と言っても過言では無かった。だがそんな時でもゲーテだけは理想的な展開になったと言わんばかりに、愉快そうに笑っている。
「ふふふ……はははははははは! 最高ですねぇ! これは僕にとって嬉しい誤算だ!」
「っ……ふざけないでよ……この、状況で……何が嬉しいの!?」
怒りを爆発させたテトラは倒れながらもゲーテにそう問う。彼女の質問と疑問に対してゲーテは1度自分を落ち着かせるように数秒ほど間を空けてから答えた。
「何がって……キュルキオネの親の認識が僕からあなたに変わった時と同じですよ。いわゆる『上書き』が、今のキュルキオネには起きているんです」
「上書き……?」
「はい。彼女はもともとシャックスによって暴走を引き起こしました。ですが非常に優れたどこかの來冥者さん2人のご活躍で、強制解放されている來冥力の量が引き上げられましたよね? ここまではご承知の通りかと思います。ですがここでもう1つ……ある変化が彼女の中で同時に起きていたんです。今真に排除すべき対象は誰なのか、誰を排除すればキュルキオネを危険から守れるのか、この部分に対する認識変化がね」




