第240話
「レギュラオン総帥……今何て……」
信じられない発言を聞き、司は聞き間違いを信じてレギュラオンにそう問う。しかし悲しい事に彼の聞き間違いなどでは無かった事はすぐに判明した。
「お前たち5人の参戦は考えてやらん事も無いが、コハクだけは何があっても認めん。そう言った」
「……っ! ふざけないで!」
レギュラオンの答えにコハクは先ほどまでの喜の感情を全て捨て、怒りの籠もった目で睨みながら声を荒げる。
「どうして……どうして私だけは認めてくれないの!? 私は……私はただ……!」
「ふん。私の事が心配だから、か?」
「……」
コハクの言いたい事を先回りしてレギュラオンは言った。その言葉に、鴻仙を含め、2人を除いた全員が困惑の表情を浮かべた。
今の言葉をそのまま受け取ると司たちが知りたがっていたコハクの新旗楼設立動機や界庭羅船に挑みたい動力源は、レギュラオンが心配だからという事になりそうだ。
仮にそれが本当の事であるならば、一体何故コハクはレギュラオンの為にここまでの事をしているのか。
そんな疑問が当然のように浮かぶがその答えを求める空気感では無い。そして2人は他の者を置き去りにしたまま更にヒートアップしていく。
「この際だからハッキリと口にしてやる。……大きなお世話だ。お前に心配される筋合いなど、私には無い」
「――ッ!」
恐らくその言葉がコハクの中の理性を焼き切った。気付いた時にはコハクは体を前のめりにし、右手でレギュラオンの頬を思いっ切り引っ叩いていた。
「……」
レギュラオンは何も口にせず、そして反撃もして来ない。ただ静かに黙り、コハクの次の言葉を待っているかのようだった。
衝撃的な展開に痛いほどの沈黙が訪れ、全員が言葉を失う。
「大きなお世話? 心配される筋合いは無い? 本気で言ってるの? 私が毎日……毎日毎日! どれだけ心配して、そして――『姉さん』がその日を生きてくれた事実に安心する日々を過ごしていると思っているのよ!?」
コハクの口から飛び出た、2人の関係性を知るには十分すぎるほどのそのワードに驚かない者など居なかった。
レギュラオンとコハクは姉妹だった。名字が異なる事から親の離婚や腹違いなど、その背景は色々と考えられるが、今は名字の違いなどという些細な事を気にしている場合では無い。
鴻仙ですら知らなかったこの事実。当然ながら司たちも今初めて知った事であり、大きなインパクトを与えた。
「WPUでもトップの実力を持つ姉さんは、そりゃあ周りからも頼りにされるでしょう。それこそ界庭羅船が絡んだ時でもね。だけど私はその事を考える度に不安で不安で仕方が無いのよ! もし今日……ううん、今この瞬間にでも命を落としたらどうしようって。姉さんに私の気持ちが分かる!? 分からないでしょうね! いつもいつも世界とWPUの事しか頭に無いあなたに、たった1人の妹の気持ちなんて! 私は少しでも姉さんの側に居たくて、少しでも力になりたくて、新旗楼を立ち上げたのに……! どうして分かってくれないの!? 一体どうして……ッ!」
我慢できなくなったコハクは目に涙を浮かべ、その涙はゆっくりとテーブルの上に滴り落ちた。これまでずっと我慢して、それでも周囲にはトップとしての姿を見せ続けていたのだ。その気持ちを簡単に踏みにじられた悲しみは想像を絶するものがある。
この時レギュラオンはようやく口を開いた。そしてその際の彼女の表情と声は、親心に近い愛を感じさせた。
「どうして分かってくれないのかだと? お前の方こそ何故分からない……? たった1人の妹を死地へ、危険な世界へ飛び込ませる訳にはいかないと考える私の気持ちが、何故分からない!?」
手こそ出さなかったものの、レギュラオンの声は部屋中に響き渡り、珍しく感情を曝け出したように見える。
あのレギュラオンがそんな人情味のある理由で、と思うかも知れないが、彼女も結局は人の子だ。司が蒼を、コハクがレギュラオンを想うように、彼女もまたコハクの事を妹として大切にしているという事だ。




