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シャオ VS パーフェクション

 放課後の日ノ本文化部部室。

 琴美が両手で抱えてきた箱を、応接テーブルの上にどんと置いた。

「さあ、見なさい!」

 箱の中央には、どこか外国っぽい派手なロゴ。

 中にはいろんな形の赤いピースがぎっしり入っている。

「エポック社の『パーフェクション』よ!」

 真平は箱を見て、嫌な予感しかしなかった。

「名前からして、絶対パーフェクトにならないやつだろ」

「何言ってるの! これは昭和レトロ玩具の名作中の名作よ!」

 琴美は胸を張った。

「決められた時間内に、この穴に全部のピースをはめるの!」

 沙羅が身を乗り出して盤面を見る。

「へえ……ただの型はめ?」

「ただの型はめではないわ!」

 琴美は人差し指を立てた。

「時間切れになると――」

 そこでわざと間を置き、にやりと笑う。

「全部、ぶっ飛ぶのよ!」

「嫌な玩具だな!」

 真平が即座に突っ込んだ。

 勇馬はすでに本体を持ち上げて裏側を見ている。

「なるほど……ゼンマイ式ですか。シンプルなのに嫌な緊張感を生む、実に良い設計ですね」

「勇くん、それ褒めてんの?」

 萌香が笑う。

「でも、こういう失敗が派手な玩具ってバズるよね」

「バズりを基準に語るな」

 巫鈴が冷たく言う。

「見ているだけで知性が削られそうです」

「うふふ、でもなんか楽しそうですね~」

 美優はすでにニコニコしている。

 ズーハンが箱をのぞき込んだ。

「シンプルだな。これ、誰から行く?」

 その時、シャオがすっと前に出た。

「私、やるね!」

 目がきらきらしている。

「こういうの得意です! パォ!」

「おっ、いいじゃん」

 琴美が勢いよく盤面を整える。

「じゃあシャオ、トップバッターお願い!」

 真平は椅子にもたれたままぼそっと言った。

「一発目から爆発しそうだな……」

「爆発じゃないわ。飛び散るのよ」

「訂正になってねえよ」

 琴美がタイマーをセットする。

 カチ、カチ、カチ、とゼンマイの音が妙に不穏だ。

「よーい、スタート!」

 シャオが勢いよくピースをつかむ。

「パォ! これは簡単ね!」

 最初の丸は入った。

 四角も入った。

 三角も入った。

「おっ、普通にうまいじゃん」

 真平が言った、その次の瞬間。

 シャオは明らかに星形の穴に、どう見ても六角形のピースを押し込もうとした。

「んっ……んっ……!」

「いや違う違う違う!」

 真平が身を起こした。

「それ星! お前が持ってんの六角!」

「大丈夫ね! たぶん入る!」

「入るわけあるか!」

 シャオは両手でぐいぐい押し込む。

「パォォ……!」

「気合いで図形をねじ曲げるな!」

 沙羅が吹き出した。

「なにやってんのあの子」

 勇馬は真顔で分析している。

「力任せにいけば一部は欠けるかもしれませんが、玩具側の敗北ですね」

「敗北って言うな!」

 萌香はもうスマホを構えていた。

「ちょっと待ってこれ最高」

「撮るな!」

 真平の声を完全に無視し、シャオは今度はクローバー型の穴に、細長い長方形を当てた。

「こっちか!」

「もっと違う!」

「パォ!」

「パォじゃねえ!」

 ゼンマイの音がどんどん不穏になる。

 カチカチカチカチ――

 美優が心配そうに言った。

「シャオちゃん、落ち着いて探した方が……」

「大丈夫! 見えてきたね!」

「何が見えてきたんだよ!」

 真平が頭を抱える。

 シャオは焦っているのか、今度は穴を見ずにピースを置き始めた。

 明らかに合っていない。

 だが、本人だけは真剣だ。

「よし、これはここ!」

「違う!」

「これもここ!」

「もっと違う!」

「パォ~~~~!」

「猿か、おまえは……」

 真平がついに吐き捨てる。

 一瞬、部室が静まり――

 次の瞬間。

 パン!!

 盤面が跳ね上がった。

「パァォォォォォォーーーー!!」

 赤いピースが四方八方に飛び散る。

 シャオは両手を上げて飛び上がった。

 ひとつは琴美の額に当たり、

 ひとつは勇馬の肩に当たり、

 ひとつはズーハンの膝に落ち、

 ひとつは美優の膝の上にぽこんと乗った。

「痛っ!」

「なるほど、これが醍醐味ですか」

「いや痛いんだけど!」

「うふふ、乗っかりました~」

「ナイス跳ね」

「どこがだ!」

 萌香は笑いすぎて机に突っ伏した。

「だめ、だめ、今の猿かおまえはで耐えられなかった……!」

 沙羅も口元を押さえて肩を震わせている。

「確かに、最後もう図形認識を捨ててたわね……」

 巫鈴が静かに言う。

「力で解決しようとするあたり、知的玩具への冒涜です」

「ご、ごめんなさいね……」

 シャオはしゅんと肩を落とした。

「でも急ぐと、ぜんぶ同じ形に見えてきたよ……」

「末期症状じゃねえか」

 真平が呆れる。

 するとズーハンが立ち上がった。

「じゃあ次、オレやる」

「おっ、弟参戦」

 萌香が顔を上げる。

 シャオがすぐに兄の腕をつかむ。

「ズーハン、気をつけるね! これは敵、かなりずるいね!」

「玩具に対する評価が重すぎる!」

 琴美は飛び散ったピースを拾い集めながら、満足そうに頷いた。

「いいわ……非常にいいわ……」

「何がだよ」

「見なさい真平」

 琴美は胸を張る。

「これこそ昭和玩具よ。成功しても楽しい。失敗しても楽しい。しかも失敗の方がもっと面赤い!」

「性格悪いな、その設計思想」

 真平が言うと、勇馬が真顔で補足した。

「でも理にかなっています。上手くいかない時の絵が強い玩具は、観客まで巻き込める」

「わかる~」

 萌香が頷く。

「今のシャオちゃん、一人でやってたのに全員笑ったもん」

「私、笑われたね……?」

 シャオがちょっとだけ涙目になる。

 だが美優がにこっと笑って、その手に丸いピースを乗せた。

「でも、すごく可愛かったですよ~」

「パォ……ほんと?」

「うん。すごく一生懸命だったもん」

 シャオは少しだけ持ち直した。

「……じゃあ、もう一回やるね!」

「立ち直り早っ」

 真平が言う。

 沙羅はニヤリとした。

「次はちゃんと形を見なさいよ」

「大丈夫! 今度は見る!」

「さっきも聞いた」

 真平がぼそっと言った、その時だった。

 シャオは再びピースをつかみ、開口一番こう言った。

「これは丸っぽいから、だいたい丸!」

「雑!!」

 部室にまた笑い声が響いた。

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