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修行

 僕は大の字で仰向けになって肩で息をしながら、ぼんやりと空を見つめていた。


 普段なら木々の隙間から漏れる太陽の光や葉っぱのコントラストが美しいなぁと思うところだが、今は呼吸をするのに精一杯だ。


 そう。現在僕たちはディンシアの元で鍛錬の真っ最中である。

 覚悟していたとはいえディンシアの教えはとても厳しかった。


 

 ――時は8時間前に遡る


「ラト様とルスには基礎から練習をして頂きます」


「基礎?」


「はい。身体中の魔力をコントロールする技術で御座います。ルスもラト様も全く出来ておりませんので」 


「そんなこと出来るのか、どうしたらいいんだ?」


「精神統一をして身体の魔力の流れを感じとり、コントロールの方法を身につけるのが正統法なのですが、ラト様達には時間がありませんので別の方法を取らせていただきます」


「別の方法って……?」


 ルスが恐る恐る尋ねる


「はい。私が徹底的に追い込ませて頂きます。魔力が身体を動かす原動力になっているのはご存知のはず、それを身体が動かなくなるまで使い果たしていただきます」


「ひっ……」


 ディンシアの説明にルスが小さな悲鳴を上げる。

 つまり今から体力が無くなるまで追い込まれるということだ。僕も悲鳴こそ上げなかったが足は震えている気がした。



 


「――ラト様には私とひたすら組み手をしていただきます。そうですね、ラト様は私に1発でも攻撃を当てることが出来たら休憩を差し上げます」


 僕は組み手か、ルスと同じようにえげつないものじゃなくて良かった。

 僕はちょっと離れたところで死に物狂いで頑張っているルスを一瞥する。


「うわーん! だれかたすけてー!」


 ルスは身体に重りを垂らされて延々と飛ばされている。

 地面に重りがついたら後でペナルティらしい。

 

「ラト様、ルスの方が大変だと思ったら大間違いでございます。私はラト様に休憩を与える気なんて全くございませんので」


 ディンシアはそう言い終えるとこちらに爆発するように飛んできた。

 油断していた僕はそのままディンシアのボディブローを喰らってしまう。


「ぐぇっ……」 


「私は攻撃しないなんて一言も申しておりませんよ。私に攻撃を当てるのも大事ですが、避けるのも頑張って下さいね」


 そのままの流れで僕も組み手がスタートした。


 ディンシアは全力を全然出していないだろうが全ての動きがめちゃくちゃ速い。

 それでも次々と飛んでくる拳を全身を使ってなんとか避けてみせる。


「ふむ……運動神経はあるみたいですね。しかしそれだけでは避けられませんよ」


 ディンシアの次の拳が止まったと思うと、気がつけば目の前まで回し蹴りが迫ってきていた。

 咄嗟に腕で受けるが折れたんじゃないかと思うぐらいの衝撃が腕に響く。


「ぐぅっ……」


「まだ受けられないのなら避けるしかありまねんね。頑張って避けてくださいね」


 こいつ……見た目は紳士の癖に容赦のかけらもないじゃないか……。

 この前自分のことを鬼の魔族だと言っていたが、頭の角を見ていると悪魔と言われても絶対信じるぞ。


「いつ休んでいいと言いましたか?」


 少しディンシアから意識を逸らしただけなのに、この鬼は瞬く間に距離を詰めて次の右ストレートを繰り出している。


「えっ……ちょっと待っ……」

 

 上半身を全力で捻ってギリギリ躱してみせる。

 しかし、その後入れ替わるように飛んできた左のフックを僕はダイレクトに浴びた。


「ごはっ……」


「身体の動きが大きすぎます。極限まで集中して最小限の動作で避けないと当たってしまいますよ?」


 ――こうして、反撃の余地すら全く無いまま僕は蹂躙され続けた。




 ――先程までのいじめと変わらない鍛錬を振り返っていると、ボロボロになったルスが僕の上に倒れ込んできた。


「もう……駄目……死んじゃう……」


 顔を覗くと喜怒哀楽が無い感情を失った顔になっている。

 僕も今同じ顔になっているのだろうか。


 いい香りがしたので原因を確認すると、

 僕らが修行の間に食料を取りに行ってくれていた魔族の3人が、晩ご飯を作ってくれているみたいだった。


 美味しいであろう今日の晩ご飯の事を考えていると、僕たちをぼこぼこにした元凶の声がする


「ラト様、ルス、お疲れ様で御座います」


 鬼畜悪魔が褒め称えながら近づいてきた。


「お二人とも全く動かなくなるまで魔力を使って頂きました。これから次の工程に移ります」


 そう言うとディンシアは僕とルスの胸に手を置いた。

 よかった……一先ず組み手は終わりみたいだ。


「今から私が魔力を流し込みます。出来るだけ多くの魔力を流し込むのでお二人はその流れを感じ取ってください」


「そうゆうことか……わかった……」


 ディンシアは目を瞑って小さく詠唱している。

 すると全身が光り出して両手に光が集まってきている。 

 そのまま待っていると続々と僕の身体の中に何かが流れ込んでくるのを感じとる。


「おそらく身体中にエネルギーが流れていると思います。それが魔力です。この瞬間が大事ですので少しでも感覚を逃すまいと集中して下さい」


 僕は言われた通りに身体中に意識を巡らせる。

 水とも風とも言える感覚が身体を流れている。

 心なしか身体の所々でエネルギーが溜まっている気がする。


「……そこら中で何かが溜まっている気がする」


「はい。そこがコアポイントです。忘れないように覚えてください」


 流れを感じること数十秒経って、魔力の供給は止まった。


「これ以上は私が限界です。今日はこれぐらいにしましょうか」


 待ち望んでいた終了発言に心が晴れやかになる。


「魔力の流れの感覚を掴むまで今日から毎日これを行います」


 毎日……!? 晴れやかになっていたのが曇ってきた。


 隣のルスに至っては現実を受けいれられないのか、ぶつぶつとパパママと呟いている。



「短期間で強くなるためには仕方のないことです。半年は見積もっているので今日でへこたれたら今後やっていけないですよ」


「――半年!? 嘘だろ……」


「パパ……ママ……」



 楽しい楽しい修行が始まった。

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