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はじまり

 扉を開けると奥の方からこっちにおいでと僕らを呼んでいる。

 従って進むと通称おばばと呼ばれている長老が椅子に座って僕らを手招きしていた。


「お主と会うのは昼以来ぶりだねぇ。こんなにすぐに会うことになるとは思わなかったよ」


 声音は優しいが、顔は笑っていない。僕は気を引き締めて椅子に座る。


「さて、大体の事情は既に聞いておるがとんでもない事をやってくれたねぇ」


「嘘ついていてごめん。本当はあの時に自分が【魔王の加護】って事は知ってたんだ」


「その事じゃない。お主が【魔王の加護】である事は知っておった。あの時は知らんぷりをしていただけじゃ」


 衝撃の事実に僕は目を開く。


「え、なんで知ってたんだ? 加護は心によって模様が違うって言ってた気がするんだけど」


「確かに心によって模様は様々だと言ったがそれは雰囲気が変わるだけでベースの形は変わらん。お主が模様を見せた時自警団の奴らもびっくりしてたじゃろう? それぐらい魔王の加護紋は有名でみんな知っておるのじゃ」


「そうだったのか……じゃあとんでもない事って何なんだ?」


「お主は魔族を匿ったじゃろう? しかも自分自身が魔王である事もばらしよった。つまり今わしらの村は4人の魔族と魔王を隠している村になる。こんな情報が外に漏れたらこの村は無くなってしまうじゃろうな」


「そんな……」


「おばば! そんなのは嫌! どうしたらいいの?」


 あの時の自分の行動が浅はかであったと気づく。ルスが解決策を聞くと長老は言いづらそうに口を開く。


「……悪いが村から出て行ってくれんかの。この村に居残られてはいずれ確実にバレてしまう。お主らの事を情報規制するだけでも手一杯なのじゃ」


「……わかった。この後すぐに出ていくよ。迷惑をかけてしまって本当にごめん」


 長老は何も悪くない。全部僕が巻き込んでいるのだ。


「でも、なんでこんなにも優しくしてくれるんだ? 僕が魔王って気付いていたら王国軍に情報を渡すことも出来たんじゃ……?」


「お主の加護紋を見た時に最初は本当に驚いたさ、【魔王の加護】と同じじゃったからな。しかし、わしが見てきた紋様の中で一番優しくて穏やかだったんじゃ……。あの勇者達も含めてな」


「――だから信じたかったのじゃ。この子なら何かやってくれると。実際お主は誰も殺さずに先程の場面を鎮めてくれた。わしの見立ては間違いじゃなかったってことじゃ」


 長老は次にルスを見て微笑む。


「ルス、ラトに付いていくと決めたようじゃな。お主なら大丈夫じゃ。この近隣の村の中で1番魔法のセンスがあると長老が太鼓判を押しておる」


「えっ……まだ言ってないのにどうして」


「わしには全部お見通しじゃ。お主の親も娘が立派に成長しててきっと喜んどるよ。フォッフォッフォッ」


「おばば……ごめんね」


「むしろ何もしてやれなくて申し訳ないわい。せめてもの手向で、お主が魔王である事もこの村に居たことも村の連中には喋らせないようにするから心置きなく旅に出るがよい」



 ――そんなこんなで僕たちは村を追い出されることになった。


 出来る限りの準備を行なって僕は村を出る。

 当然ルスとディンシア含む魔族4人も連れてきた。


「ラト! これから頑張ろうね! 今度は私がついてるよ!」


 ルスが励ましてくれている。不思議とこの子に応援されると頑張ろうと思えてくる。


 とりあえず僕が以前お世話になっていた洞窟に向かおう……まさかもう一度お世話になる時が来るとは……

 これも運命なのかなと僕は肩を落とす。


 しかしだ、今は火打石も服もある。自主的な荷物持ち――ディンシアもいたので、その他の準備も完璧だった。


「ラト様、先程私の話を聞かせてくれと仰いましたが、何から話せばよろしいですか?」


 ディンシアが問いかける。

 歩きながら話そうと思ったのでお願いしていたのだ。あと、魔王様と呼ばれるのはまだむず痒かったのでラトでお願いした。

 

「そうだなぁ、ディンシア達の今の現状について改めて詳しく教えてくれないかな?」


「畏まりました。私は元々魔王様の執事を務めておりましたが、魔王様が死んでしまった影響で力を失い奴隷として捕まりました。それからは労働力としてずっと働かされておりました」


「しかし、あいつら人間に一泡吹かせたくて前々から計画しておりました脱走計画を実行し、先日このナーズ達と結託して逃げ出してきた次第です」


 獣耳の男がうんうんと頷いている。


「話を聞く限り簡単に逃げ出せそうなんだが、そんなに難しいものなのか」


「ええ、仰る通りです。普通に逃げるだけなら簡単なのです。しかし我々にはこの奴隷紋がありますので」


 ディンシアは鬱陶しそうに奴隷紋を触っている。


「それがあると何が起きるんだ?」


「はい、所持者が命じれば奴隷紋が発動して首が飛びます」


 めちゃくちゃおっかないじゃないか。そりゃあ逃げられんわな。でもじゃあ、なんでこいつら生きているんだよ。


「ラト様はなんで私たちが生きているんだと疑問になっていると思われます。私たちもそれが問題でした。

 そこで何年も探り続けて遂に、一度に1人しか殺せないということと、奴隷紋には効果範囲があることが分かりました」


「――といっても1人に掛かる殺す時間はたった7秒程ですし、対象範囲も約3Kmあってある程度離れすぎると所持者に離れていることが伝わることも分かりました」


「そんな弱点有って無いようなもんじゃないか」


「だからこそ作戦が必要でした。あの日、私たちは100人ぐらいで徒党を組み街を中心にばらばらに一斉に逃げました。

 夜中に逃げたのですぐにはバレず、半分ほどは順調に逃げられたのですが、離れている事が伝わりバレてからは地獄絵図でした。」


「数十秒単位で人が次々と死んでいってるのですから生きた心地がしませんでしたね。私も次が自分ではない事を祈りながら走り続けてあの村にたどり着いたのです」


 壮絶だったんだなぁ……だからあの時も切羽詰まっていたのか。


「あの村も長居してはどの道死ぬだけでしたので、ある程度食料や道具を調達して逃げるつもりでした。

 しかし、そこでラト様に出会う事が出来たのです。まさに神の思し召しとしか思えません」


「ん? それって今後も逃げ続けるってことか? それはきついな、奴隷紋ちょっと見せてくれないか?」


 ディンシアに紋を見せてもらう。王国のシンボルと首輪の様なデザインが合わさったなんとも悪趣味な文様だ。


 ふと奴隷紋を触ってみると再びあの声が聞こえてきた。



『個体名:ディンシアは種族名:人間によって隷属状態となっています。隷属状態を解放しますか?』


 びっくりする。急に聞こえてくるのは心臓に悪いから本当にやめて欲しい。それにしても解放出来るのか……? 脳内で肯定の返事を念じる。



『個体名:ディンシアは隷属状態から解放されました』


 するとみるみるうちにディンシアの首元の奴隷紋が薄くなっていき、終いには消えて無くなってしまった。


「なんと……これがラト様のお力……ありがとうございます。これで心置きなく全てをラト様に捧げられます」


「う、うん。本当によかったよ」


 それにしても凄い、これが神の加護紋の力なのか。

 僕は流れで他の3人も解除してあげた。それぞれほっとしたように喜んでいる、獣の耳の付いた女性は泣き崩れてしまった。今まで本当にしんどかったのだろう。


 


 ――それから色んな事を話しながら数時間歩いて僕の思い出の洞窟に戻ってきた。


「ここがラトが住んでた洞窟なんだ! 聞いていた通り住みやすそうな場所だね。あー疲れたー!」


 ルスが岩場に腰を下ろす。僕も流石に疲れてしまった。

 荷物を置いてルスの側に座る。


「ここは確かに隠れ住むには良さそうですね。ここを拠点にしましょうか。ラト様、お話しした通り明日から修行を行います。その為にも今日は早く寝ましょう」


「ありがとう。明日からよろしく頼むよ」


 僕はここに向かってる途中にディンシアに強くなる為に鍛錬を申し込んでいたのだ。


 同じ場所で第二の幕が開けた。でも前とは何もかも違う。道具や食料はあるし、何よりも皆んながいる。


 ――必ず僕は強くなる。

 

 ここからがはじまりだ。絶対に僕は誰よりも強くなってやる。

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