治療
――目を覚ますと知らない天井が目に入った。
どうやら寝ていたみたいだ。ここは家の中か……? 何処に居るのかと思い、首を動かして辺りを見渡そうとするが、身体中が軋むように痛い。指の隅々まで動かすと痛むってどうゆうことなんだ……。
動かせない身体に悪戦苦闘していると、ドアが開いて誰かが入ってくる。
首は痛いので目を動かして確認すると、この前出会った天真爛漫な少女のルスだった。
「ラト!? 目を覚ましたの!? 身体は大丈夫? 気分は?――」
僕が目を覚ましたことに気づくとまるでお母さんかのように質問攻めをしてきた。
「おはよう……身体中が痛くて動かせないけど気分は大丈夫だよ。心配かけてごめんね。助けてくれて本当にありがとう」
「10日も寝てたんだよ? どれだけ心配したと思ってるの! 目を覚ましてくれて本当に良かった……」
ルスは涙目になっている。出会ってからほんの数時間しか関わってないのに……優しい子なんだな。
僕はふと気になったことを質問する。
「ところでルスがここまで運んでくれたのかい? 魔力の尽きていたルスがあの後運べたなんて到底思えないんだけど……」
「近くの誰かにすぐに助けを求めに行きたかったんだけどね……ラトが指名手配犯ってことがバレちゃうから……
しっかり歩けるようになるまでラトの側でしばらく休んでた。その後は荷台に乗せて夜中にこっそり運んだの」
「そうだったのか、指名手配の凶悪犯なんだから僕を王国に売ってくれても良かったのに」
「信じるって約束したんだからそんなこと絶対出来るはずないよ! それに、もう人が居なくなって悲しい思いをしたくない……」
ルスの顔が曇る。
からかうつもりで自虐気味に返したのだが、今はそんな冗談を言える時では無かったと反省する。
「そっか……ありがとう」
僕は改めてお礼を言った。
ルスは僕が倒れた原因について話しはじめた。
「家に連れて帰ってきて身体を調べたんたんだけどね、私もよく原因が分からなかった。身体の中がぼろぼろになっている感じがしたの。身体中のコアポイントが傷ついてた」
どうゆうことなんだろうか。僕はあのとき身体に感じた気分をそのままルスに説明する。
「僕もよく分からなかったんだけど、負けたくないと願っていたら全身が中心から熱くなってきて、気がついたら僕の身体じゃないように動けたんだ」
「うーん、ごめんなさい。それでも分からないや。そうだ、おばばならなにか知ってるかも。このボスケ村の長老で何でも知ってるんだ」
長老がいるのか。この世界や勇者について聞きたいことがまだまだ沢山あるし、今度聞きに行くことにしよう。
「とにかく!まだラトは身体がぼろぼろなんだから、まだ当分安静にしないと駄目だからね!
それに貴方が指名手配されてる理由についてもまだ詳しく教えてもらってないんだけど!」
そういえば、言ってなかったな。
僕は、自分の母親が魔族だったこと、家族が勇者に殺されてしまったこと、そのときに逃してもらって勇者に追われている事を伝えた。
魔王の血を継いでいる事は隠した。
やっと出会えた人間で、一時的だとしても僕を信じてくれた人に恐れられたり見捨てられるのが怖かった。
ルスは僕の話を聞いて安心したようにほっとため息をついた。
「そっか、ラトも大変だったんだね。やっぱりあなたみたいな人が指名手配犯なんておかしいと思ってたの」
「僕が亜人なのは本当なんだよ? それは怖くないの?」
「うん、魔族も悪い人達だけじゃないって知ってるから。ラトのお母さんは人間と仲良くしてたんでしょ? それなら絶対悪い人じゃないし、その子供のラトも大丈夫」
「ルスはやっぱり優しいね、ありがとう」
家族を肯定してもらって、ずっと心に残ってたモヤモヤが少し晴れた気がした。僕の家族はやっぱり悪くはなかったんだと。
――それから1週間、僕はしっかりと療養しなんとか歩けるぐらいにはマシになった。
身体の節々はまだギシギシなっている感覚だがリハビリも兼ねて歩いている。
そして現在、僕はルスに時々助けてもらいながら村の中を案内してもらっている。
片足が義足の女の子に助けてもらってるなんて不甲斐なさすぎて涙が出てくる。早く治そう。
因みに村の人に指名手配犯とバレてはいけないのでフードのついた外套を貸してもらって羽織っている。
自分の設定は森の中で仲良くなった隣の村に住んでいる友達という少し強引な設定だ。
既に雑貨店に行ってきて、色々なものを買ってきた。
資金はサバイバル生活をしていた時に厳選していた珍しい薬草や水晶を売って作った。父が商人をしていたおかげで知識だけはあって助かった。
リュックや火打ち石も購入できたのでウハウハである。
やっと火が楽に付けられることに感慨深くなる。
「――ここがね、長老のいるおばばの家なんだ」
ルスに案内された先は村の中では一番大きいと断言できる木造の建物だった。
ノックをして中に入ると、奥の方で読書をしていた人物がこちらに気付いて出迎えにくる。
優しそうな目元の皺が印象的で杖をつきつつも元気に歩いてくるお婆さんが声を掛けてきた。
「おや、ルスじゃないか。今日はどうしたんだい? おや?そちらの子はこの村の子じゃないみたいだけどどちらさんかな?」
「この子はラトって言うんだ。今日はね、おばばに聞きたいことがあって来たの」
――僕は自己紹介を済ませて、僕は身体の痛みについて尋ねてみる。
「ふむ……恐らくじゃが身体の魔力が暴走して無理やりコアポイントを増力させたのではなかろうか。……しかし、窮地に陥った者がその場を回避する為に一瞬の刹那だけ魔力が爆発する事例はよく聞くが、精霊と契約してない者が1分ほども暴走し続けるなんて事は聞いたことがない。
そんな事が出来るのは勇者のような魔力が無尽蔵にある者ぐらいじゃよ」
僕は心の中で軽く納得する。
なるほど、もしかしたら僕は魔王の血を継いでいるから、魔力が人より多いのかもね。ありがとう、お母さん。
「ありがとう、なんとなく辻褄があったよ。あと、この痣みたいなのが急に出来てびっくりしてるんだけど何か知ってたりする?」
そう言って僕は胸の痣をおばばに見せる。
「むっ!? むむむむ!? これは……神の加護紋ではないか!」
おばばは目を見開いて僕の胸の痣を凝視している。
「間違いない、これは神の加護紋じゃ。ラトといったか? お主、これを何処で手に入れたのじゃ」
「これは僕もよく分からないんだ。ある日気がついたらあった。その加護紋っていうのは何なんだ?」
「うむ、簡単に言えば、神に選ばれた者が特別な力を授けられると聞いておる。加護によって力は様々で、模様はその者の心が影響していると聞いたことがあるな。
お主は何の加護がついておるのじゃ?」
そう言われても特に思い当たる節がない
必死に時を遡っていると、あの日の夜に何かが聞こえていたのを思い出した。
中性的な声なのに無機質さを感じさせる声だ。
なんとなく【魔王の加護】と言っていた気がする。これが本当なら流石におばばに言えるわけがない。
「きっかけはわかった気がしたが何の加護かは分からないんだ。申し訳ない」
「大丈夫じゃよ。久しぶりに面白いものが見れただけでも満足じゃわい」
僕は、また色々教えてほしいとお願いしたあと、長老の家を後にした。
長老の家を出てからルスは羨望の目をこっちに向けている。
「神の加護紋っていいなー! 凄いかっこいいね、私も欲しいなぁ」
「といっても、今のところ力が発動した記憶がないから僕もいまいち実感がないんだ。あってもなくても変わらないよ」
実際分からないのは本当である。この前の身体能力の向上も魔力の暴走なら、いよいよ何の能力か説明がつかない。
【魔王の加護】か……実際に勇者を倒したい自分にとっては願ったり叶ったりの加護である。
どのような力があるのか分からないのが不安であるが、直に分かるだろう。
――夕方になり辺りも静かになり始めたので僕らも家に帰ろうと帰路についていると、突然鐘の音が鳴り響いた。
「魔族だー! 魔族が襲ってきたぞー!」
高台から見張っていた男が一心不乱に鐘を鳴らしながら叫んでいる。
「魔族!? どうしてこんなところに?」
ルスは焦って周りを見回している。
入り口を見ると、村の松明が魔族を呼んでいるかのように不気味に揺れ動いていた。




