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魔族

 僕は入り口の近くまで来ていた。

 逃げたい気持ちもあったが、魔族がどんな者なのか見てみたかった。


 何故かルスもついてきた。危ない目にあって欲しくなかったので、家に帰って欲しいと頼んだのだが、ラトが心配! と気迫に押されて何も言い返せなかった。


 

 直ぐに村の自警団が集まってくる。

 彼らは村で有志を募って出来た団体らしい。

 十数人の小規模な人数だが、鍛錬しているのか腕に自信のありそうな者たちが多い。しかし、魔族の襲撃自体が滅多にないせいか酷く緊張してるように見える。

 

 

 僕らと自警団で待つこと数分――


 ついに入り口に人影が現れた。

 段々と姿が明らかになっていく。

 人数は……ひい、ふう、みい……たったの4人か。


 

 そして、完全に姿が見えるまで近づいた時、僕は絶句した。

 ――魔族は殆ど人間と変わらない姿だった。

 

 男が3人と女が1人だろうか? 

 

 男1と女は頭に犬のような耳のついた魔族だった。

 20代後半を思わせる風貌で、武器はないのか縦長な石を持っている。


 男2はぱっと見だと普通の人間と変わらないのだが、手と足が魔族であることを表していた。

 普通の手よりも大きく平べったい形で指が鎌のように下向きに尖っている、全体的に鋤のようなイメージを彷彿とさせる。

 

 中でも男3は異質を醸し出していた。

 人間でいう50〜60歳ぐらいの見た目をしているが、背筋がピンと伸びており重心がブレることなく綺麗に歩いている。

 とても歳をとっている雰囲気ではなかった。

 すらりとした身体と合わさって外見だけでも律儀で紳士な印象を与えられる。

 中でも目を引くのは頭に生えている2本の角である。

 後ろに流れるような立派で年季の入った角はそれだけで手練れを感じ取るには十分だった。


 

 角の生えた男は想像通りの丁寧な口調で口を開く。


「人間の皆様、突然驚かせてしまい申し訳ありません。

 私、ディンシアと申します。現在王国軍に追われておりまして、私達にはもう後がありません。大変心苦しいのですが、皆さまを人質として、利用させてもらうことにしました」


 とても丁寧だが内容は物騒だ。隣に控えている魔族達もこちらを睨んできて、敵意を剥き出しにしている。


「お前ら、奴隷達だろ! 首の刻印が見えているぞ。こんな村を人質にしたところで、貴様らは勇者が来たら殺されるだけだ。もう諦めろ!」


「うるさい! 俺らにはこうするしか道はないんだ! お前らに何がわかる」


 自警団の言葉に犬の男が激怒している。


 あいつらは奴隷なのか、薄々察してはいたがやはり魔族は魔王がやられてから人間の手に落ちているのだろう。


 ディンシアと名乗る角の男は右手を握り固めたかと思うと、そのまま振り被り荷車に裏拳をかました。

 するとなんということだろうか、木製の2.3メートルもある荷車は木っ端微塵に砕け散った。


「私はあなた達をこうしたくはありません。どうか抵抗はしないで頂きたい」


 おいおい……只者じゃないと思ったが強すぎるだろ。化け物じゃないか。自警団が勝てるわけがない。


 自警団も無残な荷車を見て言葉を失っている。

 しかし、彼らは村の命が掛かっているからだろう、死ぬ覚悟を決めたのか顔つきが変わった。


 

 一触即発の空気だ。誰かがきっかけを作るだけでこの場は争いになるだろう。

 結果は大体予想できる。人間側が殺されてしまう。


 僕はどうするのが正解なんだろうか……正直なところ僕の母が魔族だと知ってしまってから、人間も魔族も無駄な争いをして欲しくない。

 この前の賊2人のような襲ってきた場合は例外である。

 流石に自己防衛が第一優先だ。


 色々な考えを巡らせる中、遂に痺れを切らした自警団の1人が叫びながら突撃する。

 それをきっかけに戦いの火蓋が切られた。

 

 お互いが雄叫びをあげながら走り出す。


 もう時間がない。僕はルスを一瞬見つめて様々な取捨選択をした後、覚悟を決める。


 僕は全身全霊の力を込めて叫んだ。


「やめろ! 僕なら君達を助けることが出来る!」


 突然の叫びに自警団も魔族も足を止めてこちらを見た。

 後ろを見るとルスも僕の行動に不安そうに見つめている。


 叫んだ以上後戻りは出来ない。僕は服を脱いで上半身を見せつけて吠えた。


「僕は、魔王の加護の付与者だ! 僕が勇者を倒して争いの無い世界に戻してやる! だから、こんなところで争うのはやめろ!」


 自警団は子供が戯事を言っていると聞き流すように聞いていたが、僕の胸の紋章を見て本物だとわかると顔を青ざめさせている。


「あれは……そんな……まさか……」


 ディンシアは僕の胸を見て目を見開いていた。感嘆とも驚愕とも言えるような声を出している。


「僕は亜人だ。人と魔族のハーフだ。だからこそわかる。人と魔族は共存して仲良く生きることが出来る。

 敵は勇者だ! ここで殺し合うのは間違ってる。……だから……やめてくれ」


 言った。言ってしまった。気がつくと足が震えていた。

 ルスは呆然と僕の方を見ている。信頼を裏切ってしまったような気持ちになり心が締め付けられる。

 

 沈黙が起こる。過ぎていく1秒がとても長く感じた。


 10秒ほど経ってディンシアが問いかける。


「貴方のお名前をお聞きしてもよろしいですか?」


「僕の名前はラトだ。お母さんの名前がスタナ、お父さんの名前がゼムだ。」


「ありがとうございます。スタナ……そうでしたか。お嬢様はあの時上手くお逃げになられて……」

 

 ディンシアは感慨深そうに遠くを見つめている。


「ラト様、いえ、偉大なる魔王様、よくぞお戻りになられました。私、ずっと待ち望んでおりました。たとえこの身が滅びようともお仕えする所存で御座います。」


 ディンシアが僕に跪き、他の魔族も後を追うように跪いた。僕は自警団の方を向いて説得する。


「自警団の皆、申し訳ないがこの魔族達は僕が預かっていいか? 今日中に長老の元へ説明に行く」


 自警団は色んなことを言いたそうにしていたが、このまま戦っても魔族に勝てないと察していたからか黙って了承してくれる。


「ルス……黙っていてごめん」


 僕はルスやこの村に見捨てられるのを覚悟してこの選択をした。

 ずっと信じてくれたルスを裏切ることに最後まで抵抗があったが、人が争い合うのがどうしても許せなかった。

 

 ……また明日から逃亡生活が始まる。


 ルスに合わせる顔がないので謝って早くこの村を出て行こうと思っていると、ルスがポツリと呟いた。


「……よかった」


「え?」


 それは僕の足を止めるのには十分な言葉だった。

私情で更新が遅くなります。

1週間以内には投稿します。 

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