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まじめと魔人の冒険奇譚 (再編集版)  作者: 春牧大介
王都ラヴィニエスタ
24/27

王都ラヴィニエスタ 3-6

         6


 イリアナとエルフィーナが城の警備を始めて三日が経とうとしていた。


 城内でも既にクラフトとアンナの回復を祝うパーティが開かれ昼夜を問わず催された。そんな喜ばしい雰囲気の裏で、城中の兵士達はわずかに殺気を帯びていた。

 兵士だけでなく、宮廷魔術師のヴィヴィアンを始め、ハヤテマルたち魔人、そしてイリアナとレオン、カーチャまでが警備に当たっている。カーチャとレオンに関しては、臨機応変に対応する傭兵としての嗅覚を、ハヤテマルに推されたためであった。

 ヴィヴィアンがハヤテマルから渡された業者を片っ端から調査をしていた。

 リストアップされた店やギルドは100を超えていたが、これをヴィヴィアン直属の部隊の三隊が調査を開始した。

 リストの中には健全な品を扱っていたものは少なくはなかったが、その大半が違法な物品を扱っていた業者やギルドで、本命の器動衆を運び込んだと思われる業者にたどり着けずにいた。

 晩餐会会場でさえ、ヴィヴィアンは終始苛立ちを感じていた。

 だが、魔人のハヤテマルも同じく苛立ちを感じ始めていた。

 というのも、リストアップした業者を数件叩けば、ぼろを出すと思っていたからだ。


「リスト漏れがあったか?」


 そう思うと、胃がきりきりと締め付けられた。

 ハヤテマルはイリアナの頭の上で、考えながらエルフィーナお手製の味噌ピーナッツをがっついていた。イリアナにしてみれば正直なところ、頭の上でものを食べて欲しくないのだが、ハヤテマル達の抱えている仕事の責任の大きさを考えると我慢するしかないと思うのであった。

 それと同時に、ヴィヴィアンとハヤテマルの二人について、


「ああ、血のつながりはなくても親子は、やっぱり似るんだな」


 とも思った。

 普段余裕のあるハヤテマルが、実は神経質だということがわかり、人の子であると少し安心もした。

 神経質にきりきりしているヴィヴィアンとハヤテマルとは別に、イリアナの肩の上にいるエルフィーナも苛立ちを露わにしていた。

 エルフィーナの苛立ちは、魔人たちの娘であり、ヴィヴィアンの妹に当たるユアのことである。

 ユアはイリアナを訓練場で叩きのめしたことをエルフィーナがユアの部屋に赴き咎めたのだ。

 両者は、顔も突き合わすことなく部屋のドアを挟んでやりあったらしい。


「まったく、都会に来て反抗期になるなんて」


 エルフィーナはぶつぶつと文句を言っていた。

 イリアナにしてみれば、自分の力が至らないばかりに招いた結果なので、なんとか親子喧嘩を収めたいとも思っていた。だが、エルフィーナの不機嫌な気配を感じるたびに気分が落ち込んでいくのであった。

 そのユアは、イリアナ達と同じ会場にいるものの、近寄ろうとはせず、ラヴィニエスタ第二王子ラキアと一緒にパーティを楽しんでいる様子であった。

 そんなユアたちを魔人たちとイリアナの三人で見つめていると、不意に目が合った。

 ユアは少し驚いたような顔をした後、すぐに顔を背けた。


「まったくもう」


 エルフィーナは悲しそうに言った。ハヤテマルもため息をついた。

 その二人の様子に、イリアナは意を決した。


「あの。先生、師匠」

「どうした?」


 ハヤテマルの言葉にエルフィーナもイリアナに注目した。


「お嬢様のこと、もう少し気にかけてあげてください」

「気にかけてるわよ?」エルフィーナが言った。

「もっとです」

「もっとって言ったって、あの子は絶賛反抗期中でこっちの言うこと全然聞きやしないのよ」

「今の時期は、親の小言が疎ましくてしょうがないもんだよ。お前だってレオンやカーチャのこと鬱陶しく思ったことがあっただろ?」


 ハヤテマルは諭すように優しく言った。


「違うんです」


 イリアナは悲しいとも寂しいとも取れる表情を浮かべた。

 魔人の二人もイリアナの変化に気づき、真摯に聞こうと一度体勢を直した。


「何が違うの?」


 エルフィーナは優しくたずねた。


「反抗期なだけで、あんな態度をとっているんじゃないと思うんです」

「どういうことだ?」ハヤテマルは不思議に思った。

「きっと寂しいんです。寂しかったんだと思うんです」

「寂しい?」


 エルフィーナの言葉にイリアナが頷いた。


「お嬢様は、私がお二人と仲良くして、自分には素気ないのが寂しいんだと思うんです」

「素気無い態度なんかとってないぞ」


 ハヤテマルとエルフィーナは、心外だと言わんばかりに口を尖らせた。


「してました」

「何時だよ」

「最初は、陛下と妃殿下の寝所で、先生がお嬢様より私の心配をしたときです」

「私?」


 エルフィーナは驚いた。それと同時に困惑した。自覚がなかったようだ。


「それから、私がお嬢さんと訓練場で交流試合をした時もです」

「交流って、おまえ。アレはお前が痛めつけられてただけだろう」

「例えそうであっても、師匠はお嬢様より私のことを気にかけてばかりでした」

「いや、あの状況は普通をそうだろう」

「それでもです」

「なにが」

「お嬢様は褒めてくれると思ったんじゃないでしょうか」

「んなわけあるか。あの状況で褒められるだなんて思うほど家の子は馬鹿じゃないよ」

「きっと、余裕がなかったんじゃないかと思うんです」

「何の余裕だよ」

「心に……」


 イリアナは伏せ目がちに言った。


「思春期や反抗期って言葉で一括りにして欲しくないって言いたいんだろうけど、本人が落ち着いたとき、結局行き着く答えがそこだろうしなぁ」


 イリアナは俯いてしまった。

 自分でも口下手な自分が嫌いだった。

 それは自分にもあった思春期の苛立ちそのもの。その捌け口を、親にぶつけるのはただ甘えているだけ。自分もレオンやカーチャに当たったこともある。だからといって親ならそれば解決できるというわけでもない。

 結局は自分自身との心の折り合いをつけること。それは分かっている。分かっているが、多感な時期に様々な悩みを抱え不安になっているのに、それを一括りにされてさも分かっているかのように片付けてしまうのには納得がいかない。納得したくない。


「俺たちこれでも他に三人も同じ様なことを経験してるんだぜ。お前の優しさはありがたいが、あいつだけ特別扱いなんかしない。それにな、きっと今のあいつには、家族ではない己の歩む道を示してくれる人が必要なんだろうな」

「人……ですか?」

「ああ。俺たち家族の言葉は近すぎて説得力がなくなることもあるんだよ。俺たちがいくらあいつにああしろこうしろって言っても聞きやしないだろうけど、あいつに家族以外に心を許せる相手が現れたら、俺たちと同じ言葉をそいつが言ったらすんなり受け入れるかもな」

「そうなんでしょうか……?」


 イリアナは真剣に考えている。だが、そんなに上手くいくものなのかなと疑わしく思っている。


「お前だって、俺たちのことレオンとカーチャにやれって言われてやったか? きっとやらなかっただろ。でなきゃレオンとカーチャは俺たちのこと、お前に隠したりしなかったよ」

「あ……」


 そう。よくよく考えればイリアナと魔人たちの出会いはレオンとカーチャが一枚噛んでいたのだ。


 それはイリアナ自身が魔人たちに触れて感じて決めることだったからだ。結局イリアナは魔人たちの真心に触れて今ここにいる。レオンとカーチャに言われたからではない。

 近くなければ伝わらないこともあれば、近すぎても伝わらないこともある。

 レオンとカーチャはそのことを分かっていた。だからあえて隠した。家族だから当たり前に触れ合ってはダメなんだ。魔人たちは親子としての距離を上手く取っている。

 今回のことはそういうことなのかもしれない。


「親としては、悪事に走るようならば口や手を出すが、親に楯突くくらいならほうっておくぞ、俺らは」


 ハヤテマルは特に心配した様子も無い。エルフィーナも大筋は同じようで、困ったような顔をしつつも何も言わなかった。


「はい」


 イリアナは納得した。そう思うことにした。自分は部外者なのだから。そしてユアのほうへと目線を向けた。

 相変わらずユアはこちらに背を向けつつ、ラキアたちと談笑している。


(お嬢様にもそんな人が現れてくれるといいのだけど)


 これは本心で思った。

 彼女のことを思ってではなく、魔人たちの気持ちを無碍にするような真似はして欲しくなかった。魔人達の悲しむ姿は見たくない。ただそれだけであった。


 そんなことを考えていた直後、である。


「イリアナちゃん。すこし覚悟を決めて。兵士とは別口べつくちの殺気を探知したわ」


 エルフィーナの声にイリアナは身を硬くした。それと同時に襲撃時の行動のプランを思い返した。

 イリアナの仕事は王と王妃の護衛ではなく、宝剣オキシダイトの安全の確保である。

 王と王妃の護衛はヴィヴィアン達、王宮の者の仕事である。

 したがって魔人たちと行動するイリアナは、器動衆きどうしゅうの狙いである宝剣の奪取もしくは破壊に備えることにある。

 ただし、今回の場合、器動衆の襲撃がない可能性もある。確証が得られなかったからに他ならない。

 だが、襲撃があるものとして行動する。


 宝剣はラヴィニエスタ城の三つの塔の内の中央の塔、その最上階に安置されている。

 地下に隠すと進入された際に、こちらの戦闘での制限が非常に厳しいものとなる。

 相手は宝剣の奪取および破壊が目的である。

 したがって彼ら器動衆は、己の生死は問わないのだ。自爆してでも宝剣を破壊すればいいのである。


 対してこちらは、戦いやすさから塔の最上階に宝剣の安置場所を選ぶこととなった。

 狭い地下では強力な術や技は、周囲への損害が大きく、下手をすれば、崩落などの大事故につながりかねないためだった。

 塔の最上階であれば最悪の場合、器動衆が自爆しても塔が崩れるにとどまるのである。宝剣を持ち去ろうにも結界が働いており、空中からの脱出は不可能であった。持ち去るには再び協力者の力を仰がねばならない。そうなれば協力者を現行犯で捕らえることもできる。


 これは単独による襲撃でも、複数による襲撃でも変らない。

 複数による襲撃の対処は、塔に立て篭もりつつ各個撃破である。

 これが作戦の流れである。

 イリアナは作戦を思い返し、自分に言い聞かせるように一つ頷いた。


「!」


 その瞬間、遠くで地鳴りのような音が二つ三つ鳴り響いた。場外で何かあったようだ。そして、会場に絹を引き裂くような女性の声が響き渡った。

 パーティ会場に潜んでいた憤怒の誓いの暗殺者が一斉に姿を現し、その内の王と王妃に近い暗殺者がクラフトとアンナに躍りかかる。

 クラフトとアンナは冷静であった。

 相手の暗器(隠し武器)にも怯むことなくクラフトは剣、アンナは小剣で迎え撃ち打ち倒した。


「怯むな。各自落ち着いて対処せよ。城外の襲撃は、ドノヴァンに任せる。兵団と各衛兵詰め所と連携し収束させよ。城内は宮廷魔導師のマーカス、ヴィヴィアン、リッチモンドが当たれ」


 クラフトの指示がフロア中に響き渡る。

 宮廷魔導師のマーカスとリッチモンドはヴィヴィアンは、弾かれたように配置につく。

 パーティ会場の紳士淑女はすぐさま戦闘態勢に入った。

 ハヤテマルが指示を出して宮廷魔術師達と騎士団を仕込んでいたのだ。


 パーティ会場は一瞬で会場が戦場と化した。

 ヴィヴィアン達宮廷魔導師が手配していた猛者達が、鎮圧と来賓の警護を開始した。

 もちろんユアとラキアも同じく警護に当たる。堂々としたもので、まるでショーの一部のように数人を叩き伏せた。殺さず気を失わせたようである。

 大事な捕虜、ということである。

 イリアナはユアたちに見惚れてしまった。


「イリアナちゃん。私達も行きましょう」


 エルフィーナはそう言うと、魔人の二人はイヤーカフスになり、イリアナの耳に張り付いた。


「はい」


 イリアナも中央の塔へと急いだ。

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