ファンタジー世界と地理学 ②― 魔王領と人間領、本気で戦うとどっちの領土が有利?
今回は、魔王のいる魔王領vs王都のある人間領では、リアルに戦うとどっちの領土の方が強いんだい問題を地理学を用いて考察していきます。
※よくある魔法でぶっ潰すとかチート勇者のハチャメチャ攻撃は一旦封印しておきます。
0、前提設定
まず、今回は条件をかなり絞ります。
・人口、兵力、武器の質は同じ
・魔法、勇者補正、魔王の超火力は封印
・人間側の拠点は「平野部の王都」
・魔王側の拠点は「山岳・火山地帯の魔王城」
→判断材料は、地理・地形・交通・補給・環境のみ
つまり今回は、勇者の圧倒的なチートスキルや魔王の最強の魔力による攻撃ではなく、地理学的な地形のみで考察していきます。
必殺技の剣技で地形もろとも一刀両断してしまえば全て解決ですが……
1、守るなら魔王領が強い
山岳地帯の最大の強みは、攻め手の進路を勝手に絞ってくれることです。
平野では軍は横に広がれます。複数方向から攻めることもできます。
しかし山岳地帯では、進める道が谷筋・峠・尾根道に限られます。
これを軍事地理では、「チョークポイント」として考えます。
つまり、敵の大軍を狭い場所に押し込める地形です。
実例で言えば、山城が強かった理由もここです。
備中松山城や竹田城跡のような山城は、単に眺めがよいから高い場所にあるのではありません。攻める側の道を限定し、守る側が上から有利に対応できるからです。
魔王城が山岳部にあるなら、守備側はかなり有利です。
攻め手は大軍を連れてきても、一気に展開できません。結局、細い道をぞろぞろ登ることになります。RPGなら勇者一行のみで済みますが、現実の軍なら山の中腹で「おい、押すなよ!危ないじゃないか!」という喧嘩みたいな悲しい状態になります。
小結
防御力だけで見るなら、魔王領が有利。
理由は、地形そのものが城壁の役割を果たすからです。
2、攻めるなら人間領が強い
次に見るべきは、移動のしやすさです。
地理学では、距離は単なる直線距離ではなく、時間距離や移動コストで考えます。
地図上で近くても、山を越えなければならないなら実質的には遠い。
逆に少し距離があっても、街道や川があれば移動は楽になります。
平野部の王都は、この点で有利です。
・道を作りやすい
・荷車を使いやすい
・部隊を動かしやすい
・複数方向に展開しやすい
一方、山岳・火山地帯は移動が遅くなります。
道は少なく、迂回も多く、部隊の再配置が難しい。
つまり、魔王領は守るには強いが、自分から大軍を動かすには不利です。
魔王軍が「よし、王都まで攻めるぞ」と言っても、最初にやることは進軍ではなく道路事情との戦いです。ラスボスなのに、まず悩むのが道路整備となるのです。かなり地味ですね。
小結
攻撃や機動戦では、人間領が有利。
平野は軍を動かしやすく、山岳は軍を止めやすいからです。
3、長期戦は補給で決まる
戦争で一番大事なのは、実は剣でも魔法でもありません。
食料・水・燃料・医療品を運び続けられるかです。
これを兵站、つまり「ロジスティクス」として考えます。
地理学的には、補給はかなり重要です。
平野部は補給に向いています。
・農地を広げやすい
・河川や街道で物資を運びやすい
・倉庫や市場を集めやすい
・輸送の安定性が高い
逆に山岳・火山地帯は補給に不利です。
・農地が少ない
・斜面が多く輸送しにくい
・道が細く荷物が詰まりやすい
・火山灰や崩落でルートが止まりやすい
ここで大事なのは、人口を勝手に多い少ないで考えないことです。
同じ人口でも、その人口を支える地形条件が違います。
平野は食料を作り、運び、集めるのに向いています。
山岳地帯は守るには強いですが、大量の物資を安定して回すには不利です。
つまり、魔王領が山岳・火山地帯なら、短期防衛は強い。
しかし長期戦になるほど、補給の細さが問題になります。
魔王軍がどれだけ強くても、飯が届かなければ士気は落ちます。
「闇の軍勢」も空腹には普通に弱い。たぶん作戦会議もやつらは気を悪くして荒れます。
小結
長期戦では人間領が有利。
理由は、平野の方が生産・輸送・備蓄に向いているからです。
4、情報戦は一長一短
戦いでは「見えること」と「伝わること」が重要です。
山岳地帯の強みは、見晴らしです。
高い場所からは、敵の接近を早く察知できます。狼煙や見張り台とも相性がよい。
つまり魔王領は、監視には強いです。
一方で山岳地帯は、情報の伝達には弱点があります。
谷や尾根で空間が分断されるため、隣の部隊と連絡が取りにくい。
迂回が必要になり、伝令も遅れます。
平野部はその逆です。
高所からの監視力は山岳ほど強くありませんが、道が多いため情報が広がりやすい。
伝令、物資、部隊の移動がつながりやすい。
ここで整理すると、
魔王領:敵を発見しやすいが共有が困難
人間領:情報を共有しやすいが発見が困難
という違いになります。
山は「見えるけど届きにくい」。
平野は「見えにくいけど回しやすい」。
まるでグループLINEを見ているのに返信が来ない状態です。見えているのに伝わらない。地味に困ります。
小結
監視は魔王領、情報伝達は人間領が有利。ここは五分とします。
5、環境そのものが敵になりうる
山岳・火山地帯では、敵と戦う前に環境と戦う必要があります。
・気温が低い
・風が強い
・酸素が薄い
・足場が悪い
・火山灰で視界や呼吸が悪くなる
・水場が限られる
これは軍事的にはかなり大きいです。
攻め込む側は、移動するだけで疲労します。装備も傷みます。隊列も乱れます。
これを地理学的に言えば、環境負荷が高い地域です。
人間領の平野から来た軍が、いきなり火山地帯や高山帯に入ると、本来の能力を発揮しにくくなります。
一方、そこに慣れている魔王領側は、相対的に有利です。
つまり魔王領は、兵士だけでなく土地そのものが防衛戦力になります。
ただし、これは魔王側にも弱点があります。
魔王領に住む側も、その環境で補給・建設・移動をしなければなりません。
土地が厳しいということは、攻め手にも守り手にも厳しい。
ただ、慣れている側が少しマシ、という話です。
小結
短期の防衛では魔王領が有利。
ただし、厳しい環境は魔王領自身の維持コストも高めます。
6、じゃあ王都は弱いのか
では、平野部の王都は防御に弱いだけなのでしょうか。
そうではありません。
平野の王都は、自然地形では守りにくい代わりに、人工的な防衛施設を発達させやすいです。
城壁
堀
道路
倉庫
兵舎
監視塔
市場
行政機能
平野都市は、地形に守ってもらうというより、都市機能で守ります。
大阪城のような平野の城も、堀や石垣によって防御力を高めています。
つまり平野の王都は、天然の要害ではない代わりに、作り込むことが可能でそれによって強くなる都市です。
ここが山岳の魔王城との違いです。
魔王城は天然の要塞に守られているが、人工的に何かを作ろうにしてもかえってその地形が邪魔することになるのです。
魔王城:地形に守られる
王都:インフラと都市機能で守る
王都は「地形に甘えられない分、自力で頑張るタイプ」です。
クラスに一人はいます。才能より事前の準備で勝つタイプです。
小結
王都は自然防御では不利だが、都市機能と人工防御で補える。
7、戦い方で有利不利は変わる
ここまでをまとめると、単純に「魔王領が有利」「人間領が有利」とは言えません。
魔王領が有利な戦い
防衛戦
山岳戦
短期決戦
侵入路を絞る戦い
環境で敵を消耗させる戦い
魔王領は、敵を奥まで引き込んで疲れさせる戦いに向いています。
人間領が有利な戦い
長期戦
補給戦
機動戦
平野での会戦
複数ルートからの進軍
人間領は、道と物資を使って継続的に戦うのが得意です。
つまり、
魔王領は「来るな」と言う地形。
人間領は「動けるぞ」と言う地形。
この違いです。
8、最終結論
地形だけで考えるなら、こうなります。
魔王領は、防衛に圧倒的に強い。
人間領は、移動・補給・長期戦に強い。
だから、魔王領を攻める人間側は、正面突破してはいけません。
峠や谷に誘い込まれ、補給線を伸ばされ、環境で確実にドツボにはまり削られます。
逆に魔王側が人間領へ攻め込む場合、平野での機動戦と補給戦に対応しなければなりません。
山では強くても、平野では隠れる場所も少なく、補給線も伸びます。この場合、平野部に展開し、有利に運べる人間側が有利となります。
ですが、もし魔王軍が平地展開を巧みにこなしてくるようであれば、やや魔王側に有利になるでしょう。
とりあえず、考察より最終的な答えはこれです。
守るなら魔王領。
攻め続けるなら人間領。
そして最終的に勝つのは、地形を味方につけた側です。
ファンタジー世界の戦争は、勇者や魔王だけで決まるわけではありません。
むしろその前に、山、谷、川、道、平野、火山がすでに戦っています。
剣を抜く前から、地図上ではもう勝負が始まっていると言えるのです。
※考察・これはどう?みたいなものがあればリクエストください!
まぁ、結局は召喚されたチート勇者様が魔王城ごとぶち壊して事なきを得るのですが……
勝敗は勇者様と魔王に任せましょう




