第14話 原因と対処。
田村大地は、まるで自分が冷静で、声を荒げる雨空晴こそがアンガーコントロールもできない野蛮人だと言いたげな顔をしている。
「ちげえよ馬鹿野郎!仮に綿堂商事さんがくれてる仕事の年間売り上げが一千万あったら、お前のその22,500円のミスで全部がなくなるかもしれねーんだぞ!綿堂商事さんとの取引が無くなったら、お前は毎年一千万の案件を引っ張って来れるのか!?」
雨空晴は山田を指して「山田さんが頑張ってくれてたのに、台無しに出来るのか!?」と続け、そのまま止まらずに話し続けた。
「お前はアタシ達の生活を面倒見切れるのか!?営業の相田さんは未婚だが両親の世話をしている。相田さんのご両親をお前は養えるのか!?デザインの堀切さんの所は赤ちゃんが生まれたばかりだぞ!養えるのか?育てられるのか!?お前のミスだぞ!お前のせいなんだぞ!」
怒りに顔を染めた雨空晴は一気に同僚の名前も出して、田村大地のミス一つで何が起きてもおかしくない事を伝える。
「アタシ達は営業なんてすげぇ事はできない!山田さん達はデザインが出来ないからアタシ達が代わりにデザインをやらせて貰ってるんだ!ふざけんな!」
ここで済めば良い話だが、怒り任せに再び顔面を殴りつける雨空晴は、部長に押さえつけられてしまう。
部長はそのまま田村大地に「田村、言いたい事は大体雨空が言ってしまったが、会社は給料を貰うだけの場所じゃない。働いて売り上げて、はじめて給料が貰える。心しろ」と伝える。
「後はお前の言いたい事はわかる。こんな時のために営業がいる。こうならない為にも校正がいる。だから自分だけが悪いわけじゃない。そう思うかも知れないが、デザイン、校正、営業、印刷、お客様、それぞれに落ち度があっても、山田は『営業は悪くない、デザインと校正が悪い』なんて言わない。校正も印刷もだ。お前の心は聞いていないが、自分以外のせいにするのはお前だけだ」
そう言って注意をした。
シンとなる中、雨空晴は「そろそろ離してください。セクハラって言いますよ」と部長に言う。
「セクハラはやだなぁ…。殴りかからない?」
「…3回我慢して4回目に殴ります」
「今の会話までで何回我慢した?」
「12回です」
「え?後1回殴るじゃん」
「指導、躾です」
「…一応我慢しとけ」
「…わかったんで離してください。流石に男の人に押さえつけられるのは照れます」
こうして解放された雨空晴は、皆と会議スペースに集まり、最終校正紙から遡ると、責任の殆どは田村大地にあった。
綿堂商事から上がってきた注文を、校正の秋田や営業の山田にはキチンと申し送りをせずに「申し送りを添えたのに見ない奴が悪い」と挑発するように、まるで情報戦のような事をしていた。
人名に関しては今回も手入力をしていたり、これまでの実績でふりがなを振らない人にまで、原稿にあるからと言ってふりがなを付けたりしている。
秋田は[前例・実績を確認して]と赤字を入れていたのに確認を無視し、原稿にあるからと押し通し、受け取った人が今までと違うとクレームを入れてくる。
「お前、秋田さんは一度全部を見た後は、赤字箇所しか見ないって教えたよな?なんで赤字修正の入らない箇所を勝手に直してんだよ!?」
コレが今回1番の問題で、ビル名が[ウイニングビル4階]の箇所が[ウィニングビル4階]になっている。
問い詰められてモゴモゴしていた田村大地だが、最後に「ネットで調べたらビル名がウィニングビルだったから、良かれと思って直しました」と説明をした。
それは田村大地の独断で変えられていて、せめて秋田と山田に話を通して、山田から綿堂商事に確認をしていれば良かったのに、それに気付いたのは下版直前の最終チェック時で、田村大地は勝手に変えて黙っていた。
なので秋田のチェック時はウイニングになっている。
落とし所が見つかった事で、山田と雨空晴は説明と方向性を決めていて、田村大地は不思議そうにそれを見る。
「ルビに関しては原稿にあったからをプッシュして、山田さんには確認不足を謝ってもらって」
「それはやるよ。住所は?」
「今検索したけど確かに上位候補はウィだからそれをプッシュして修正した事にしよう。で、ダメだった時の方が問題だよ」
「印刷所は押さえて、今日中に刷り直してもらって、朝イチに回収して部長と納品してくるよ」
頷いた雨空晴は「まずは入谷さんに謝りに行こう。アタシも行く。刷り直しはした方がいいから、今から堀切さんに修正を頼もう。秋田さんと部長にフルチェックして貰ったら、フライングで印刷所に入稿しておこう」と提案をして、山田は「助かるけど、雨空らしくないミスだから、入谷さんはかえって気を悪くしかねないよ。チェックはウチの部長にもチェックを頼もう」と考えを返す。
そのやりとりを見ている田村大地に、部長は「ついて行ってこい。キチンと立場の違いなんて関係ないところを見て来るんだ」と言った。




