第18話 神代家と御三家
ゆっくり、楽しんでいってね。
潜水艦、それは水中航行が可能な軍艦であり、敵にその存在を気付かれることなく敵哨戒網を突破し、敵艦艇や輸送船を沈め、機雷を敷設、特殊部隊の潜入支援や情報収集任務などに運用を主に行う究極のステルス兵器と呼ばれるもの。
現在、弥恵佳さんの直属部隊の潜水艦に乗り、優香さんが提督をしている岩戸鎮守府に向かって潜航中だ。
この潜水艦は、涙滴型―潜水艦といったら思い浮かべるような形状―で、長さは100mくらい.
艦名は『くじら』だそうだ。…艦名の由来は優香さんの長女、真里菜ちゃんがこの潜水艦を見て「クジラさん!」と言ったからだそうです。
内部は意外と広く、閉塞感をあまり感じさせない造りとなっており、然程苦しまずに目的地である岩戸鎮守府へ向かえる、と思っていたが…。
「あの…これはいったい?」
現在自分は弥恵佳さんの膝の上に座らされている。今いる場所は、この潜水艦唯一の個室である艦長室。
部屋は二~二.五畳くらいで小さいデスクに椅子、壁側に簡易ベッドが固定されており、その壁には方位計、内線電話が付いる。
そしてベッドに優香さん、椅子に弥恵佳さん、その膝の上に自分と座らされ、掌にはムーがいる状態だ。
やはり潜水艦の為、個室とはいえ、かなり狭いがそれでも大人二人幼児一人は普通に座れる。しかし何故か自分は弥恵佳さんの膝の上に座らされているのだ。
「嫌ですか?」
「嫌というか、恥ずかしいのですが。というか自分28ですよ?いいんですか?」
「それは内面です。外見は五歳なので何の問題もありません。恥ずかしいのは貴方だけです」
いや、そうだけど。
助けて欲しくて、弥恵佳さんと自分の正面にいる優香さんへ目を向けてみる。
弥恵佳さんを羨ましそうに見ていた彼女はこちらの視線に気付くと、こちらに腕を伸ばし「こっちにおいで」と言っている様な顔をした。
どうやら自分一人で座るという選択肢は無いようだ。
「それで?何か話すんです?」
諦めて個室に集まった理由を尋ねる。
「先程アウラさんがおっしゃった我が神護家と他の二家、我らが主の神代家の事についてと、貴方の名前を決めようと思いまして」
「ああ、そうですね。お願いします」
「では――「ちょっと待って」――何ですか?優香」
話始めようとした弥恵佳さんを優香さんが遮る
「母様に訊きたい事があるんだけど?」
「何ですか?」
「あの無人島の秘密ドックについてよ!どうやって、いつ造ったのよ!私全く知らないんだけど!?」
そういえば優香さん、あの無人島の秘密ドックについては知らないみたいだったな。
「ああ、それは秘密ドックですから。敵を欺くにはまず味方からと言いますからね。ちなみにあの島は、神護家が買たので神護家の所有です。その内リゾート施設なんかも造りましょうか」
「…もういいです」
「そうですか。では神代家と御三家の事についてから――」
疲れた様子の優香さんを放っておいて、弥恵佳さんは話始める。時々優香さんが茶々を入れ、弥恵佳さんにシバかれる光景を眺めながら聞いた話では、
神国は名前の通り神の国。
大昔、神がこの地で人の政を司っていた時代があった。
ある日、この地の政を司っていた一柱の女神が人の男に恋をした。
その女神の従属神三柱が、大慌てでその女神を止めたが全く耳を貸さず、あっという間に男との間に子供を授かった。
女神は以前から人の政は人、自らがするべきであると考えていた。
しかし、人は過ちを起こす生き物、正しく導ける者がいなければ人は自らの過ちによって滅んでしまうと心配した女神は、自分の子供にこの地の政を任せることにした。
女神は子供が大きくなると政を任せ、夫となった男と共に天へ帰った。
その子供は後に、神の代わりに政を司る者として神代と名乗った。
従属神三柱も気付けば人の男と恋に落ち、子供を授かった。
三柱も子供が大きくなると、主の子供を三人で協力して守り、支えるよう伝え、夫となった男と共に天へ帰った。
そしてその子供らはそれぞれ、
神の代わりとなった者の相談に乗り、道を開かせる者として神道
神の代わりとなった者の盾となり護る者として神護
神の代わりとなった者の剣となり戦う者として神武と名乗った。
そして、その子孫が今の神代家と御三家らしい。
神代家の当主は帝とも呼ばれているらしく地球で言う天皇、御三家の当主は三種の神器みたいな感じみたいだ。
神国の政治形態は上院と下院に分かれ、上院は帝と御三家の当主が、下院は半分はそれぞれの分家の者達、残りの半分は国民より選ばれた者達によって構成されている。
そして下院で制定された法案は、上院が否決すれば廃案にとなる制度になっており、立法権は上院が絶対の権利を持っている。
だが上院の決定権はほぼ帝が持っているため事実上、上院は帝の物であるらしい。
しかしそんな事をすれば、帝が好き放題して神国を窮地に陥る可能性が高くなる、でも今までの帝は誰もが神国に、国民にとって良い指導者であり、ほとんどの国民、家臣から愛され、崇拝されているらしい。
また行政は基本的に下院で施行される。しかし、あまりにひどい場合や戦時下においては上院の元に組み込まれるそうだ。
それぞれの血筋も特徴があり、神道家の者は音を操る超能力フォノンキネシス、神護家の者は水を操る超能力アクアキネシス、神武家の者は炎を操る超能力パイロキネシスが出現しやすいらしい。
超能力についてはアウラから聞いた通り、この世界の人は超能力を持っているが、そのほとんどが扇風機の強。くらいだったり、マッチくらいの炎を指先から出るくらいの弱いものだ、でも御三家や、特に神代家などからは強力な超能力を持った者が生まれやすいそうだ。
特に神代家は特別であり、強力な超能力を持つ者が生まれやすい他に、世界でも唯一、神代家にだけ予知系の超能力が出現するらしい。
つまり自分の事を予知夢で見ていたのは神代家の人物という事になる。
そして予知夢を見た人物は帝の娘だそうだ。
帝には二人の娘がおり、下の子が予知夢の超能力を持っているとのこと。
予知系の超能力は神代家の直系にだけに出現するらしいがそれでも滅多に出現しないらしく、前回の予知系の持ち主が亡くなってから1000年程経っているそうだ。
そして現在、その予知能力を持っている帝の娘は他国から狙われているらしい。
何でも神代家の予知能力の事は神国のトップシークレットのはずなのだが、最近、何処からかその情報が漏れたらしく各国が裏で動いているらしい。
それに合わせてか神国内でも不穏な動きが裏であるらしく上層部では緊迫した状態なんだとか。
その為今は少しでも戦力が欲しいという時に…
「そんな時に自分達は来た、と」
「…ええ、貴方達を利用しようとしていることは否定できません。いえ利用しようとしているとしか思えないかもしれませんが、決して悪いようにはしないと誓います」
弥恵佳さんの方を見るとその目は真剣そのもので、嘘をついているようには見えなかった。
本当は、これは演技で自分は騙されているのではないか、と疑うべきなのかもしれないが、もうここまで来たら引き返せそうにないので腹をくくった。
「…信じます。でも、裏切るような事が在れば…」
「ええ、アウラさんが相手になりますね。全く勝てる気がしませんが」
弥恵佳さんと優香さんは大きな溜息を吐き、凄く疲れた顔をした。
ホント、何を送ったんだろうかアウラは?
「それで、自分の名前はどうなりますか?」
「はぁ~…ぁあ、そうですね。何がいいでしょう?」
そこから三人で話し合いをした結果、律となった。
この名前は死んだ両親が勇とどちらにするか悩んだらしい。
その名前が何故か、ふと思い出したのだ。ちなみにこのことは婆ちゃんが教えてくれました。
そしてその名前を思い出したのと同時に弥恵佳さんが「律はどうでしょう」と提案したのでこの名前になった。
「さて、名前も決まったことですし。さっそく律?」
「…あ、はい。何ですか?弥恵佳さん?」
すぐには慣れないので返事が遅れてしまった。
呼ばれたので顔だけだが、弥恵佳さんの方を向くと彼女は『違うそうじゃない』と言っている様な、悲しそうな顔をして首を横に振る。
「違います。貴方は神護家の猶子となったのですから、そんな他人行儀ではいけません。本当の親子の様に接してください」
弥恵佳さんの言う事も分かるので少し恥ずかしいが言ってみる。
「な、何?弥恵佳さ「違います!!」―!?」
家族に接するような砕けた感じで言ったのだが、どうやら違うらしい。
「焦らさないでください」
「いや。何を焦らすんですか」
弥恵佳さんが言っていることがよくわからない。
すると優香さんが笑い出し、こちらに耳打ちをしてきた。
「母様は貴方に『お義母さん』って呼んで欲しいのよ」
ああ、なるほど。そう言う事だったのか。
そうとわかれば……すごく恥ずかしいけど
「お、お、おかあさ「違います」!??」
また違たらしく、声が冷たい。
優香さんを見ると、彼女も分からないらしく疑問顔だ。
「――と呼んで下さい」
「へ?」
「ママ、と呼んで下さい!!」
「「……いやぁ、それはちょっと」」
その後、何とか弥恵佳さんを説得し、お義母さんと呼ぶことになった。
「それじゃあ、今度は私ね!私の事は―」
「優香さんは優香さんで」
「なんで?!」
仕方ないので義姉さんと呼んであげることにした。
「言葉遣いも年相応にするべきですね」
弥恵佳さん…ではなく、お義母さんが突然言い出す。
でも言いたいことはわかる。
「僕、とかですか?」
「敬語になっちゃてるわよ」
「おっと、でも僕はちょっと恥ずかしいから俺かな?……俺もなんか恥ずかしいな」
今まで自分自身の事は自分や私と呼んでいた為、僕、俺呼びするのは何だか少し恥ずかしい。
「俺でいいんじゃない?ちょっと背伸びしている子みたいで可愛いわ」
「そうですね、俺で行きましょう」
二人には俺呼びが何かに触れたらしい
何故か恥ずかしくなってきたので話題を変えることにした。
「いつ鎮守府に着くの?」
「そうですね、あの無人島からだいたい五時間くらいでしょうか。出港した時刻はフタマルマルキュウ
だったのであちらに着くのは大体マルヒトマルマル、午前一時くらいでしょう」
「…その間、俺はこの状態?」
「眠ってしまっても構いませんよ?」
「母様ずるい!私もりっくんを膝に乗せたい!」
「……この先大丈夫だろうか?」
「キュ~?」
二人が言い争うのを尻目に、先行きが不安になった自分の独り言に答えてくれた(?)のはムーだけだった。
言い争いが落ち着いた後、ムーを紹介し、潜水艦の夕食をいただいた後、自分いや俺はお義母さんの膝の上で眠ってしまった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
楽しめていますでしょうか?
勝手ではありますが、最近忙しいので次の投稿が最悪7月になるかもしれません。
またノクターンの方で新しい物語を投稿しようと手を出しています。もちろんエ〇な方向で。
ええ、ええ、わかります。そちらを書かずに早くこちらを書け、とそうおっしゃるのでしょう?
…仕方ないやん、書きたかったのだもの。
ノクターンの方は不定期にする予定なので、基本はこちらです。
もしノクターンの方が人気が出ればそっちがメインになるかも…
では、問題が無ければ来週投稿します。次回が楽しみなら……楽しみにしててね。




