第59話「この世界、または違う世界で」
同郷のアンリ、エマさん夫婦に、そして……
かつて幼い少女の姿でボヌール村を訪れたティターニア様に励まして貰ったのは……
ジョアンナにとって、凄く良い影響が出たようだ。
元々明るい性格のジョアンナが更にはつらつとして、どんどん元気になっていったから。
アンリ、エマさん、グレースの同郷3人とは、辛い思い出のある故郷『王都』の話も、笑って話せるようになったし……
ティターニア様の真似をしたのか、時たまもっと幼い子供へ戻り、俺を『お父様』と呼び、ひどく甘えたり……
そうこうしているうちに時は流れた……
ジョアンナがボヌール村へ来てから早や1か月……
金髪碧眼の聡明な少女は、ウチの家族は勿論、村民の人気者となった。
村の日々の暮らしにも完全に慣れたのである。
午前中は、タバサ、レオとイーサン達お子様軍団と学校へ行き、給食を食べて帰宅。
午後は、仕事に習い事と大忙し。
仕事は、ユウキ家の家事に村内へのお使い、大空屋の手伝い、
そして畑仕事や家畜の世話もバッチリ、楽しむようになった。
天敵?の『虫とミミズ』にもようやく慣れたようだ。
習い事の方は、アマンダとベアーテからハーブ料理、クラリスからは服飾と絵画、そして、俺とクッカ、クーガーからは魔法も習う。
空いている時間は、畑のかたわらでお子様軍団とケイドロ、だるまさんがころんだなどで遊ぶ。
じゃんけんあっちむいてホイは、サキと同じ最強レベルまでグレードアップ、ほぼ無敵となった。
ジョアンナはとても聡明で頑張り屋。
仕事も習い事も、もっと習得したいと無理を言い、
「まだまだOK、もっといけます」と主張した。
だが、ここまで抱えると既にキャパオーバー。
さすがに俺がストップをかけた。
まあ、ジョアンナは俺の言う事は必ず聞くから、素直に受け入れてくれて助かった。
そんなジョアンナを見て、マチルドさんも安心し、お付きをやめ、遂に『独り立ち』した。
しばらくはジョアンナの行く先々に同行していたのだが……今や別行動が多い。
ハーブ料理こそ一緒に習っているが、遂に得意の染め物を披露。
鮮やかな色彩の仕上がりに、ウチの嫁ズを含め、目を輝かせた村民女子が多数、弟子入りを申し出た。
そして、何と何と! 妻に先立たれたレベッカ父のガストンさんとも仲良くなり、親しい茶飲み友達になってしまった。
ああ、本当に良かった。
マチルドさんは、ジョアンナの為に人生の半分をささげ、ボヌール村にまでついて来てくれたから。
ジョアンナだけでなく、マチルドさんにも絶対幸せになってほしいもの。
そんなある日……
王都のレイモン様から連絡が来たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
午後、魔法習得訓練の帰り……
夕日を浴びながら、俺とジョアンナは、手をつないで村内を歩いている。
ジョアンナの魔法の素質は中々で、風と水の属性を持ち、早くも生活魔法の初歩を覚えた。
生活魔法は本当に魔法の初歩。
だけど全くの素人がたった1カ月で……
という事を考えたら、相当見どころがあるといえよう。
「ケン様みたいな、魔法使いに私はなる!」と言うのが最近の口癖だ。
心と心の会話、念話も練習中で、呑み込みが早い。
習得すれば俺と内緒話が出来ると、張り切っている。
俺はレイモン様からの連絡を、早速念話で伝える事にした。
『ジョアンナ』
『はい! ケン様! 念話の練習ですね?』
『ああ、それも兼ねて念話で話すぞ。……レイモン様から、ご連絡を頂いた。お前のお父上サミュエル・ブルゲ伯爵の件だ』
『え、ええっ! パ、パパの!? ……は、はいっ!!』
久々に『父』の名を聞き、ジョアンナは戸惑っていた。
ひどく緊張もしているようだ。
『結果』を聞く不安と、亡き母への思い、父へ愛憎の混在した複雑な感情が錯綜しているに違いない……
聡明なジョアンナに余分な説明は不要である。
単刀直入が良い。
『お父上の伯爵は、ジョアンナの親権放棄を同意し、養育委任誓約書を、レイモン様の目の前でサインしたそうだ。これでジョアンナを返せなどと無理を言って来る事はない』
『そ、そ、そうですか! じゃ、じゃあ私はこのままボヌール村で暮らしても良いのですねっ!』
『そうだ、良かったな、ジョアンナ』
『はい! これで安心して、8年後に、ケン様のお嫁さんになれますっ!』
『ああ、待ってるよ』
難しい書類の名は中々理解が難しいだろうが……
父の伯爵が「無理を言わない」という部分は認識したようである。
あとは余談……
敢えてジョアンナには伝えないが、俺はブルゲ伯爵夫妻に酷い悪夢を見せた。
地獄へ落ちてもがき苦しむ夢を、リアルな痛み付きで見せたのである。
今回、一番罪が重いジョアンナの父ブルゲ伯爵は勿論だが……
夫人は、とんでもない恐怖に心身が満ちたと思う。
いくら浮気相手の子とはいえ……
罪もない8歳の幼子を「見捨てよ」と冷酷に命じた外道女など、それくらいの罰を与えても、全く後悔はない。
『ケン様!』
ジョアンナは俺の名を呼び、つないだ手を「ぎゅぎゅぎゅ!」と握って来る。
『何だい、ジョアンナ』
『ケン様は私を、このボヌール村に連れて来てくれた時、この村が第二の故郷だとおっしゃいました』
『ああ、言ったな』
『ジョアンナが生まれ育った故郷は王都です……亡きお母様と暮らした大切な思い出があります。だけど、私の心と身体は今、このボヌール村にあります!』
『ジョアンナ……』
『これで、私も……ケン様と同じです! はっきりと言えます! 私の第二の故郷は、ケン様と同じボヌール村! 愛するケン様と、家族と、仲間と、ともに支え合って生きて行く、このボヌール村なのです!!』
きっぱりと言い切ったジョアンナ。
彼女はたった今……
改めて前向きに生きる決意をし、自分を見捨てた父と完全に決別したのだ。
俺はこの時……
ジョアンナを、このボヌール村へ連れて来て良かったと、心から思った。
そんなジョアンナと俺を、西の地平線に沈み行く夕日が、真っ赤に照らしている。
『ケン様』
『ん?』
『私、ふと思ったんです』
『何をだい?』
『はい、この前お聞きした亡きオディル様の事です』
『オディルさんの事?』
『……はい、王都生まれの私と同じく、ボヌール村を愛され、第二の故郷だとおっしゃったオディル様が……』
『……………』
『この世界、または違う世界で……』
『……………』
『再会された愛する旦那様と、仲良くこの美しい夕日を見ていらっしゃるのでしょうかって』
ジョアンナは俺にそう尋ねて微笑んだ。
少し前に……
俺は王都の商業ギルドと、ボヌール村へ向かう街道で涙した理由を教えていた。
ジョアンナは目に涙を浮かべながら、話を聞いてくれた……
王都の職人、今は亡きオディル・ブランさんとの出会いと別れ、ひと時の再会を……
聞けば、オディルさんと夫のオリヴィエさんは、ウチの家族全員の夢枕に立ってくれたのだという。
『ああ、きっとそうだ! おふたりで見ているさ! そして俺達へ、必ず幸せになれと祈ってくれているはずだぞ!』
俺がはっきりそう言うと……
柔らかく微笑んでいるジョアンナは再び、つないだ手を「ぎゅぎゅぎゅ!」と、
強く強く、しっかり握ったのであった。
※『男子めぐりあい旅編』編は、これで終了です。
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