第19話「新たな家族」
ばらばらと出て来た冒険者達は上空を見上げて何事か叫んでいた。
大空を舞う5体のグリフォンへ向かって。
『お! 出て来た、出て来た。ケン様、冒険者共が出て来ましたぜ』と、ジャン。
『ウム、ヨクノカワガ、ツッパッタヤツラダ』と、ケルベロス。
『…………』と、相変わらず無言のベイヤール。
そして、フィオナが面白そうに笑う。
『ああ、冒険者達ったら、こっちを指差しているよ、うふふ』
『じゃあ、そろそろ行くか』
俺は目で合図をした。
5体の巨大で美しいグリフォン……
実は!
そのうち4体は俺と従士達が魔法で変化した姿なのだ。
グリフォンズは編隊を組んで、同じ方向へ飛翔し始める。
俺達のとった作戦とは……
まずグリフォンがこの地を去る事を印象付ける。
どうせなら大勢で派手にやろうと言った俺の提案を、従士達は勿論フィオナも面白がった。
そして俺達の目指す場所は魔境。
この世界のずっと北……
アールヴ(エルフ)とドヴェルグ(ドワーフ)の国の更なる先に人間が殆ど居ない大地がある。
魔族、魔物、魔獣の国であり、とてつもないお宝も眠るという伝説の地だ。
実はここにフィオナ達、グリフォンの一族が隠した宝もあるらしい。
魔境へは毎年多くの冒険者が挑んで、命を落としたり行方不明になっている。
危険極まりない場所だが、成り上がる為に人は死地となりかねない場所へ赴く。
俺達はそこへ、もうひとつお宝伝説を加える事にしたのだ。
グリフォン5体の群れに扮した俺達は王都上空経由で派手に飛び回って、人々の注意を充分に引き付けた後、最後に魔境へ向かう。
魔境上空に到達したら転移魔法を使い、ボヌール村へ帰る。
眼下のクラン挑戦者のように、グリフォンの宝に取り憑かれた冒険者達は必死に俺達の行方を追うだろう。
魔境に辿り着き、長く厳しい探索の末に冒険者達はグリフォンのお宝や他の財宝を見つけるかもしれない。
莫大なお宝は命を懸けた代償として、名誉と共に当然受け取っていいものだ。
だが、そのように幸運な者は全体のほんのひと握りに過ぎず、殆どの冒険者は志半ばで死ぬだろう。
でも誰にも文句は言ってはならない。
誰にも責任を問うてもいけない。
冒険の最中に死んでも、それは完全な自己責任だからだ。
自ら危険を冒すのだ。
自分以外、誰にも責任はない。
俺達は大空を飛びながら念話で話す。
『それでフィオナはどうする? まだ時間はたっぷりあるから魔境に行くまでに考えれば良いけど……』
どうする? とはフィオナの行く末の事だ。
俺は選択肢をいくつか出した。
その中にボヌール村で暫く暮らさないか、という提案をしたのである。
身分はケルベロス、ジャン、ベイヤールに次ぐ俺の従士。
仮初の姿はベイヤールのように地味な馬で。
平凡な田舎の村でひっそり目立たず静かに、しかし楽しく生きて行く事を。
『でも良いの?』
『何が?』
『迷惑じゃないの? 私みたいな……その』
フィオナは迷っているようだ。
グリフォンのような魔獣が動物に化身して人間と暮らす。
それが果たして許されるのか、と。
俺は即座に答えを返す。
『全然! だって俺の従士達を見てくれよ』
冥界の猛犬に、妖精猫、そして悪魔の元騎乗馬だ。
で、グリフォンに何か問題があるとでも?
フィオナは優しくて思いやりがある。
可愛い女子だし、一緒に暮らすのは楽勝だろう。
ここでケルベロスがフォローしてくれた。
ジャンをダシに使って。
『ダイジョウブダ! ヒンノナイ、セイカクガサイアクナ、コノダネコデサエ、ナントカヤッテイル』
『あんだとぉ!』
いじるケルベロスに、いじられるジャン。
掴みはOK!
お約束の掛け合いだ。
『あはははは!』
朗らかに笑うフィオナ。
彼女の気持ちが解れて行くのを感じる。
ここで寡黙なベイヤールが、とうとうフィオナへ意思を伝えて来た。
ベイヤールの言葉を聞いたフィオナが驚く。
『私が美い女?』
ベイヤールは黙って頷く。
そして更に意思を伝えたのだ。
はっきりと、きっぱりと!
『え!? 仲間になれば俺はお前をずっと……守ろう……って、あ、ありがとう! ベイヤール!』
今のフィオナの台詞で彼女の返事は分かった。
ああ、唐突だが何か素敵な幸せの予感がする。
逞しい鹿毛の妖馬と、純白の美しいグリフォンって……結構お似合いかもしれない。
今回の俺と従士の小さな旅は、これで終わり……
また機会があればぜひぜひやりたい。
こんなにたくさん、良い思い出が作れたのだから。
『さあ、皆! 行くぞ、魔境へ!』
『『『『応!』』』』
俺の呼び掛けに対して、全員が元気良く返事をする。
フィオナも、今迄ずっと俺達と一緒に居たかのように、返事のタイミングがバッチリ合っていた。
またボヌール村に新たな家族が増える事になる。
「喜ばしい」のひと言。
新たな出会いって、素晴らしいな。
今日も天気は快晴。
雲ひとつない。
まるで俺達の前途を祝しているかのように気持ちが良い。
皆の表情も天気同様、晴々としてとっても嬉しそうだ。
5体のグリフォンは広大な青空を、遥か北に向けて素晴らしい速度で突き進んで行った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。
宜しければ、下方にあるブックマーク及び、
☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。




